火傷の魔女と魔弾の射手 #6

「知り合いか」
 聖堂の外で混乱が続く中、青年が魔女に尋ねる。
「知らないってわけじゃあないが、死んでも構わない奴だったね」
 魔女は少し思案し、言う。 
「私の家族は魔術師だった。奇跡や迷信じゃなくて体系的な学問だった。誰も苦しめたりしなかったし、誰かの助けになるのが父さんと母さんの夢だった」
 足元にの床に転がる、神父だったもの、の骸を足蹴にする。
「こいつが一方的に濡れ衣着せただけ」

 神や宗教は必要とされるから用いられる。あらゆる神秘や正義は人間の側にあるべきで、それを否定する存在はすなわち世を乱す邪悪である。いつの間にか築かれた根拠のない権威によって、自らの地位を否定しようとする存在を排除していった。大方そんなところだろうと魔女は思う。

「顔を焼かれてスラムに逃げ延びて、後は学んでた魔術でいろいろやって……後は想像に任せるよ」
「そうか」
 青年は抑揚のない生返事を魔女に返す。

「──じゃ、あんたの番だよ」

 青年の無表情な顔が魔女に向く。
「さっきの取引の続きだ。私が喋ったから、見合う分を喋りな。私の過去とあんたの過去だ」
 因縁の相手の死亡よりも、この青年の行動の理由と原理のほうが魔女にとっては気になってしょうがなかった。
 だから一計を案じてやったのだ。
「押し売りだな。──手短に話す」
 青年の口端がほんの少しだけ歪んだ気がする。魔女は初めて青年の人間らしい部分を見られたと思う。

「俺は未来から来た」

 青年の話は要領を得なかった。
「正確に言えば、この世界と直接繋がった未来じゃない。別の時間軸から歪みを戻しに来た」
 青年は自分が撃ち殺した相手を武器の先端で指し示す。
「そこの男は神を利用していただけだ。生きていたら歴史に歪みが現れ、正しい未来は訪れない。見せしめに殺して、信仰を壊す必要があった」
「じゃあ、神を殺すって言ってたのは……」
「俺は時の歯車だ。偽なる神を殺し、真なる歴史を取り戻す」
 魔女は頭を横に振りながらため息を吐く。あまりにも現実味がない、荒唐無稽とはこのことか。
 しかし。

「突拍子もない話だけど、あんたのその武器を見たら、納得するしかないね」
「銃だ」
 青年の右手に握られている銃は、鈍色に輝いている。
 炎の向こうから喧騒が聞こえる。混乱の嘆きや叫びではなく、明確な敵意を示した怒号の雄叫びだ。魔女が背後を振り返ると、炎越しに人影が見える。甲冑を纏った騎士だろうか。
「町一番の権力者を殺したらこうなるわね。脱出路はあるの?」
「当然だ。あの入り口は塞ぐために爆破した。お前の侵入は予想外だったが」

 青年は銃を魔女に向ける。

【続く】

私は金の力で動く。