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始まりのカレラ。/終わりの死闘


 俺は血で染まった手で扉のロックを解除して、操縦室へと入った。
 船窓外から地球の青い光が降り注いでいる。制御システムを操っていたキャプテンの手が止まる。振り返ったその顔は驚愕と恐怖とが入り混じっていた。

「生き残ってるのはあなただけですよ、キャプテン。全員殺しました」
「ば、馬鹿な!」
「信じないならご自身で確認してくればいいじゃないですか」

 俺は振り返らず親指で後方を指差す。扉の小窓から見える船内の内壁には、鮮血が真紅の花のように飛び散っている。横たわる死体の数々に生存の可能性は微塵も残されていない。俺が確実に絶命させた。
 キャプテンは拳を固く握り締めながら怒りに震えている。苛立たしげに制御システムを拳を殴りつけるが、決して動こうとはしない。船の主導権を譲る気はないらしい。

「お前はどこまで愚かなんだ! この人殺しめ!」
「……俺たちは地球に戻ってはならないんです。『彼ら』に感染してしまった以上、リスクを最小限にしなければならない。なのにあなたたちは帰ろうとした」
「我々は『彼ら』に遭遇して奇跡的にも進化した、いわば新人類になれたんだ! この福音を地球に広めれば、人類は一つ上のステージに躍進する! だから我々は帰らねばならない!」
「福音? 新人類? そんなの自惚れですよ」

 思わず鼻で笑ってしまう。

「正体もわかっていないのに、人類の手に余る力が無闇に広まったらどうなります? その新人類になった俺たちがいい証拠だ。殺し合うだけです。今ここで終わらせないといけないんです」
「お前は、狂っている!」

 否定しない。かつての仲間たちを俺は殺し尽くしてしまった。その代償に腹部の傷から流血が止まらない。もう先は長くない。

「安心してください。俺は自分だけ生き残ろうとか考えてないんで。覚悟を決めてくださいよ」
「貴様ァ!」

 最後の死闘が始まる。能力が衝突する。
 船は炎に包まれて、地球へと堕ちていった。

【続く】

私は金の力で動く。