映画感想:『Fate/stay nights Heaven's Feel第二章』は光と闇が奔流する歪みと少女と信念の物語だ。(ネタバレあり)

Fate/stay nights Heaven's Feelの第二章を見てきたよ。

光と闇の奔流であった。禍々しくも神々しい光の衝突があるかと思えばあまりに深く得体の知れない闇が一触即発で包み込む。そういったHFルートでやるべきことを完璧に成し遂げていた。実に名作。

さて感想を書こうと思うんだが、あまりに情報量が膨大すぎて、どこから手をつけてしまえばいいのかわからなくなってしまった。
最初は人物ごとに分けようかなぁと思ったけど、それをやりだすと、キリがない!!

ということでちょっと強引だが面白かったところをピックアップしていこう。
頭から順番というわけではないぞ。具体的には思いついた順だ。

・戦闘シーン
HF2章での戦闘シーンはええと序盤のライダー戦と中盤のバーサーカー戦とがあるんだが、主にバーサーカー戦がメインであったかな。
1章で黒い影に飲まれていったセイバーがバーサーカーと敵対し、魔力無限のエクスカリバーとギリシャ神話最大最強の大英雄との神話の戦いをやらかしてくれた。
ここがまさに光の奔流としか言いようがなかった。アルトリア・オルタは無尽蔵に与えられる魔力によって全力全開、剣の一閃全てが巨大なビーム光線の兵器と成り果てているような暴れっぷり。
そんな相手に立ち塞がるのがイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが率いるバーサーカーヘラクレス。十二の試練の逸話によって一二回死んでも蘇る呪い紛いの生命力と、その強靭すぎる肉体と破壊力を以て全てを鏖殺するような大英雄。
だがこれでもようやく五分と言ったところか。城まる一つ破壊するどころか、大地を溶かし森を燃やし尽くして、それでも決着が着いたのは黒い影が味方する側であるアルトリアオルタであった。
あの光と爆発は筆舌に尽くしがたい。アルトリアオルタの繰り出す赤黒い魔力の一閃はわかりやすいんだが、それを受け止め破壊し、時には目にも留まらぬ早さでの応戦を繰り出した結果の火花ですら青白く煌く有様。青い炎というのは高温によって発生する色だ。その凄まじさをわかるだろうか。
とりあえずここまででくくろう。

・表情
無言の表情、セリフだけでは伝わらない表情を抽象化されたアニメキャラの顔で見事にやり遂げた。遠坂凛の表情を削ぎ落とした純粋な怒りと排除の顔、衛宮士郎の憐憫と慈しみの入り混じった顔、間桐桜の火照った顔に正気を失った顔に絶望の果てに見せた三白眼だとか。一言で表せんねこれも。

・人物描写
ここも表情と重なる部分ではあるが、まぁ別にしておこう。心の動きというものをこれでもかってぐらいに押し付けられてしまった。
目立っていたのが間桐慎二か。
魔力回路を持たず、魔術を一切使えず、自分が見下していたものに見下されることを何よりも恐れ慄く超小物。彼の苦悩をありていに意地汚くちゃんと表現したのが監督の性癖なのだろうかな?

その一方で気になった部分というのが、言峰綺礼の出番がかなり控えめになっていたことか。
言峰綺礼とは先天性な異常者であり、後天的な異常者である衛宮士郎とはコインの表裏のような存在、であるはず。HFルートでも彼の望みと在り方に一番深く潜り込む話であると思うので、アーチャーの左腕とか封印とか結構あっさり流された感覚もあった気が。

さて、桜。
もう一言で語り尽くせないな。もう一度映画を見に行かないと食いきれないほどに情報量満載の女ともなった。
ライダーの真のマスターであり、間桐の魔術の被害者でもあり、しかしてそれ以上の聖杯とも根源的に繋がった一人の少女でもあると言ったところか。どう取り繕ったって悪の立場にあるとしか言えないんだが、彼女を見捨ててはならない人間が二人いるわけだ。
一人は血の繋がった姉妹だからしょうがないね、遠坂凛。彼女は正義の立場にありつつも妹を見放すことは絶対にできない善の人だ。だからいいヤツ。

そしてもう一人が衛宮士郎その人だ。
正義の味方を目指す彼が愛する人、守らなければならない人その人こそが正義を壊す悪であると理解したその時に、彼はどちらの道を取るのか。
自分を通して正義の味方であり続けるために全てを捨てるのか。自分を裏切ってそれ以外の全てを捨ててたった一人の愛を守るのか。その選択と葛藤の果てに見せる挙動と涙と、その表現!! あれを見られただけでもHF二章を見に行った甲斐があったというもの。

ライダーや凛については、いいや書きたいけど一旦ここも区切ろう。これ以上分散したらどえらいことにしかならん。特に遠坂凛の本領は三章からだろうしね。

そしてそろそろまとまりがなくなってきたので。◆からあらすじ・ネタバレで書いていこうね。頭から覚えているシーンを書いていこうか。

 OPの場面。冬木の町並みとそこに暮らす平凡な人々。実にえげつなくやるぅ!! この後の物語で奪われるである人々を忠実に描いている。なんて悪辣でなんて外道な!! そして見覚えのある構図。ランサーとアサシンの追いかけっ子で群衆が爆発で驚いたカットだとか、高速道路工事中(起きた事故とか)とかビル屋上とかで、しっかり現代怪奇譚としての現実の姿を描いておる。よろしい。
 イリヤのドーン! あれぇHFでやったっけこれ!? しかしいつものドーン!なあたり再現度がすごいっす。そんなこんなで凛と出会って帰宅したけど桜がおらず、鳴る電話で理解してとびだせ衛宮士郎君。

 図書室での間桐慎二君。どこまでも情けなくどこまでも蚊帳の外。こうはありたくなかったのに、とっくの昔からそうであったからどうしようもないのよねホント。ここいらのシーンの目の描き方がすごい。凛の感情を削ぎ落とした無表情の怒りだとか、士郎の憐憫とも見えるような眼差しとか。

 治療を終えて教会に。綺礼の口から間桐や遠坂のことがいろいろ明かされます。おい綺礼、お前今心の中でコサックダンス踊ってるような愉悦味わってるだろう。私にはわかるんだ。その鬼畜な表情が。桜が教会から抜け出して追いかける凛と士郎。二人の追いかけ方も違っていて、士郎の手には桜の大事にしていた「衛宮家の鍵」が。帰る場所である。

 そして雨の中、イリヤとの出会いも経て、好きな人を守ることは正しいと認識して、全く怖気づくこともなく桜に歩み寄る士郎。男前が輝いておる。凛やアーチャーとも出会うが既に心は決まっていた。一時離脱。

 うちに帰ると魔力がくうくうで士郎、あっさりと血をあげる。指を舐めるシーンがエロい。そして……きまずい!! 大画面で結構人がいるなかでこれはきまずい! まぁ良く出来てるってことだろう!

 さぁて桜とライダーと士郎で、黒い影と臓硯をどうしようか。他のマスターと協力……いるじゃないかすっごく強いバーサーカー持ってる奴が。ということで士郎はアインツベルン城へ赴き。桜は火照って秘め事している。しかしそこにはとっくに臓硯が襲来しているという。
 ヘラクレスVS黒セイバー戦 無限に魔力使えるせいでセイバーの剣の一振りずつが全部エクスカリバービーム光線状態。対するヘラクレスもゴッドハンドで消し炭になろうが砕け散ろうが決して止まらない魔神の如き活躍。しかしそれでも分があったのはセイバーのほうであったか。もはや爆発なんてレベルじゃない、破壊そのものであった。
 その一方でアーチャーとアサシンの戦い。アーチャー優勢であったものの黒い影に不意を点かれる、が反英霊の素質があるためにアサシンに一矢報いて勝ち。しかし黒い影の侵食が辺りを包み込む。もはや誰も生き残れないような大爆発、アーチャーがロー・アイアスを展開して士郎が見届け、互いに凛とイリヤを助けるも士郎は左腕を喪失。アーチャーも瀕死であるために、左腕を士郎に移植する形で消滅。

 左腕に聖骸布巻いてるけど平気だよ!(ちっとも平気じゃない)凛やイリヤも衛宮家に合流。アーチャーの左腕と遠坂とアインツベルンとで、ゼルリッチの秘策が使えないかと研究の始まり。そんなこんなだけど、桜は凛に対して士郎を取られたくないと夜這いをかける。うーむ気まずいけど色っぽいぞ。いいのかここまで秘め事やっちゃって。そして二人は結ばれる。士郎の背中もいいけどやはり桜の背中が一番セクシーでよろしい。この時間がいつまでも続けばいいのに。翌朝にまるで新婚夫婦のようなやり取りを。姉さんと凛に対して言う桜。ああ尊い。
 
 こんな時間がいつまでも続くわけがないんだよなぁ。冬木で続く殺人事件。一体どういうことかと思えばメルヘンな世界。桜がお姫様のファンタジックな世界。キャンディかと思えばそれは「食事」なわけで、ギルガメッシュ君見るに耐えなくて倒しに来たら速攻で返り討ちに遭う。街を飲み込む暗闇に失踪者。桜も血塗れで帰ってきてどういうことだ説明しろ! 嫌な予感しかしない。ああそういえばクラゲのシーン。メルヘン世界でもクラゲが出ていて、街を飲み込む黒い影が水槽に現れた時もあったけどあのアクアマリン店って1章で桜が眺めてた奴。

 桜と藤村との会話。ここで藤村から衛宮切嗣の痛恨の努力を語らせて、それをイリヤに盗み聞きさせるという妙手。そうか、理解できたのかな……しかし一方でうまくはいかないこともある。臓硯の元に呼ばれる士郎。影を倒してくれと頼まれる。そう、桜こそが聖杯とつながる門であり影の原因で悪であるのだ。正義の味方であるためには愛する桜を殺さねばならない。なんたる地獄!
 士郎、桜にこの戦いが終わったら花を見に行くことを約束する。その夜にナイフを持ち出して、桜の命を心を殺して絶とうとする。

 しかし、できない。

 正義の味方であることと桜の味方であることはまるで違う。どちらかを選ぶことができないなら、どっちを取る。
 衛宮士郎は、正義の味方であることを裏切った。その顔は涙を流しながらも人間の姿で、それでいて晴れやかですらあった。桜、涙を流して士郎の決断を受け入れる。翌朝早くに桜は大事な鍵を置いて衛宮家から去る。臓硯を倒さねばならぬ。

 しかし家に戻ると待っていたのは間桐慎二。才能に恵まれた桜と才能のなかった慎二。もはや壊れるのは必定だった。桜は士郎と夜を過ごしているために慎二を否定する。そして桜のタガが外れる。影が慎二を殺し、桜が完全に影に取り込まれて覚醒する。

うーん、我ながら実に雑多!!
未だに脳みそが情報を受け入れきれていない。
ピザのビュッフェで元を取ろうと山程のピザを食べてうぇっぷと腹をふくらませるようなそんな情報量。

とりあえず今作の感想をまとめていこうか。
私自身もHFの知識はあらすじや要所要所のシーンでしか知らぬのだけれど、かなり本編からの変更点が多く見られた。順序の入れ替えというかスリム化というか。
ただし、それでいて本質は一切変化していない。HFが描くべき「真実というどす黒い闇と泥と女」とを描ききった。これってある意味すごいことで変化したらしたなりに、戻すべき鞘が行方不明になってしまうことがある。振りかざした刃をどこに振り下ろそうか、そういう破綻が見えてしまったりね。
今回、それが本当にないんだな。
愛を感じずにはいられない。本当にこれを作り上げた人間はFateという作品と、間桐桜という一人の少女のことを心から愛さずにはいられない性質だったのだろう。

ありがとう須藤監督、そしてこの作品を作り上げた全ての人々。
同人作品から始まったこの現代怪異譚は、ついに幻想さえも乗り越えて現実を犯し始めた。最高の展開じゃあないか。物語が世界を変え始めるのだぞ。

こういう作品を私も作りたいものだ。とっちらかってきたので終わろう。

 

私は金の力で動く。