火傷の魔女と魔弾の射手 #3


「無闇矢鱈と聞くつもりはないね。お前さんが勝手に独りごちるつもりなら、私はただ耳から耳へ受け流すだけよ」
 魔女は平静を装いそう返す。斯様な武器を持つ男であればここが分水嶺だ。青年が喋らなければそこまでの縁。青年が喋ってしまうのであれば、情報はただであればあるほどいい。
 金属の擦過音がぴたりと止む。

「交換条件だ」

 思わず噴き出してしまった。
「なんだいそりゃ! 金でも貰おうってのかい! 面白い話ならいくらか代金を割り引いても構わんがね」
「金はいらん。言い値で払う」
 青年は卓の上に貨幣の入った革袋を置く。その量と重さから察するに、中身は全額金貨に相違ない。数倍上乗せしようとお釣りが必要になるほどの大金だ。こみ上げた笑いが失笑へと変わり、
「そりゃ出しすぎだよ。冗談にしては面白くないね」
 青年の交渉の下手さに呆れながら魔女は言う。
「で、金じゃなければ何がほしいのさ。生憎、私の命は上げらんないがね」

「あんたの火傷の理由を聞きたい」

 不意打ちのような要求に魔女は息をつまらせる。
「──、ずいぶんつまらないことに興味を持つもんだね」
「あんたが火傷の理由を話すなら、俺は話す。話さないのであれば、俺も話さない」
 魔女はため息をつく。しばしの沈黙が工房の中を満たす。そして魔女の声により破られる。
「よくある話さ。汝異端なり、魔女なり。才能に秀でる私たちが妬ましかったんだろうよ。適当な理由をつけては家を焼き討ちにして、ついでに私の顔まで焼きやがった。生き残ったのは私だけ」
 それでも魔術をやめなかったのは、意地でも憎悪でもなく、これこそ我が生業だったからでしかない。
 憎いか? 言うまでもあるまい。

 口から出かけた言葉を押し殺し、ふーっと吸い込んだ紫煙を長く吹く。
「どうだい、これで満足?」「ああ」
 青年は生気のない声で相槌を打つ。
「私の番だね。あんたは誰をその武器で殺すんだい?」
 魔女は改めて青年に尋ねる。
 青年は即座に答える。

「神だ」

【続く】

私は金の力で動く。