火傷の魔女と魔弾の射手 #2
「離れても、ってことは飛び道具?」
「ああ」
青年は魔女に一瞥すらくれず、手に握られたそれを念入りに操作している。
マガジンをグリップから引きずり下ろし、スライドを引いてロックをかけ、開いたバレルから弾丸一発を指で弾いて掴み取る。その弾丸を再びマガジンに嵌め込む。マガジンをピストルから抜いたままスライドロックを解除。引き金に指を掛け、絞るように撃つ。ハンマーが動いてカチッと叩かれる。
動作確認の手順ですら、魔女にとっては理解の範疇を超えている。しかし儀式めいた動作と慎重な手付きを見る限りでは、戯れではないと直感的に悟る。
「安心しなよ。仕組みはわからないけど『完璧に治ってる』はずさ。魔術というのはそういうものだ」
青年は返事もなく黙々と「儀式」を続けている。その態度が、魔女の好奇心という火種をさらに大きく燻らせる。
「で、誰を殺すんだい?」
青年の手が止まった。
「それを聞いてどうする」
視線をおろしたままの青年から、息を潜めた警戒と殺気を魔女は感じた。
魔女のパイプは尚も、煙を揺ら揺らと吐き出し続けている。
「どうにもしない。私にはその武器の使い方すら知らないし、誰を殺そうと興味はないよ」
魔女は嘯いてみせる。この言葉には正しい情報が欠如している。
──そんな不思議な武器で一体誰を殺さなければならないのか、気になってしょうがない。
眼の前の男は、今まで会ってきた男の誰とも違う。生きる世界どころか時代すら異なるとも思う。流浪人の類いかもしれない。ならば何故この世界に縁もゆかりも無いはずのこの青年が、殺しという罪を犯してまでこの世界に強烈すぎる因縁を刻もうというのか。
その道義が、気になってしまったのだ。
「──聞きたいか」
青年は再び手を動かし始める。金属の擦れる音が薄暗い工房に響き始める。
ずるいよそれは、と魔女は心の中で呟いた。
【続く】
私は金の力で動く。