火傷の魔女と魔弾の射手 #5

「え、何!?」
 轟音は数回に渡って鳴り響いた。魔女は驚きを隠せず、工房を見回してみるが爆発の原因はここではない。発生源は外だ。轟音が止むと人々の喧騒の声も聞こえてくる。明らかに異常だ。
「ったく、何だっていうのよ!」
 普段の魔女であったら放っておいたはずだった。しかし先程工房から出ていった青年のことが気になって仕方がない。好奇心の燻りは不安の炎へと変わっていた。
 魔女はマントを羽織り、深々とフードを被って顔を隠す。いくらか道具を懐に忍ばせ、扉を苛立つように開け放つ。

 太陽の眩しさと空の青さと、黒煙があった。煙の立ち上る方角から人の波が押し寄せてくる。人々にはフードの被った魔女のことなど目に入らず、ある者は叫び、ある者は泣き、ただひたすら走って逃げ惑うだけだった。
 あの方角にあるのは、教会だ。
 魔女は人の波に逆らうように、隙間を縫って黒煙の元へと走っていく。スラムの町中を通り抜ける。
 教会にたどり着くと重厚な扉が無残にも破壊されていた。粉砕された扉が今も燃え盛り、黒い煙を立ち上らせている。地面には放射線状に広がった煤の跡が残っていて、爆発物が使われたのだろうと魔女は理解した。

 教会の中から乾いた破裂音が鳴り響く。

 魔女は意を決して、炎を掻い潜り教会の中へと飛び込む。火避けの呪文を短縮詠唱、扉の残骸を飛び越えるその一瞬、魔女の身体は一切炎に焼かれない。
 聖堂の中は荒れ果てているものの、炎は内部まで広がっていない。
 その聖堂の中央に、魔女の予想通りの人物がいた。

 青年は右手に「武器」を握っている。私が修復した武器はマズルの先端から白煙を燻らせている。
 彼の眼の前には男が倒れ伏していた。眉間には穿たれた孔が開かれていて、真反対側の後頭部から垂れ流す血が大理石の床面に広がっていってる。よく見れば聖堂の中には甲冑を纏った護衛の騎士たちが幾人も地に伏している。魔女は青年の元へ駆け寄っていく。
「やっぱり、あんたの仕業だったんだね」
「ああ」
 青年は床に転がった薬莢を拾い集めていた。魔女は改めて仰向けに倒れた男を見下ろす。

 その男はこの教会の神父であり、この町の権力者でもあり、神様と宗教を心から信じていて、私の家と家族と顔を焼いた男だった。

【続く】

私は金の力で動く。