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アメリカン・フットボールをなくすな!

私がこのコラムを書こうと考えたきっかけ

 私がこのコラムを書こうと考えたきっかけは、関学QB(クウォーター・バック)奥野選手の涙だった。
 関学の奥野選手、と聞けば、アメリカン・フットボールに興味がない人でも、もしかしたら名前くらいは聞き覚えがあるかもしれない。そう、2018年春に起こった、社会現象にもなった「悪質タックル」の被害者である。
 奥野選手はその時すでにエースQBであり、幸いにも怪我は完治し4年生までエースとして活躍、2020年の甲子園ボウル優勝、2021年ライスボウル(日本一決定戦)出場を果たした(惜しくも社会人チームに負けてしまったが)。その奥野選手が、ライスボウル終了後、涙を流している映像が流れた。負けて悔しくない選手はいないし、そういう涙なのだろうと思ったが、TVの解説によれば、卒業後はアメリカン・フットボールをプレーしないとのこと。

 子供の頃から愛してきたスポーツから離れることに対しての涙だったわけだ。

 奥野選手自身がどんな考えで引退するのかという本当のところを知らないのでその理由をここではとやかく言わないが、彼ほどの選手でも(彼ほどの選手であるがゆえに、か)社会人で続けていくにはアメリカン・フットボールがマイナーすぎるという現状がある。
 その理由について私が常々思っていることを述べると長くなるので、それは次回に持ち越すが、とにかく、これほどの選手が「もういいか・・・」と思うほど、魅力に欠ける環境なのである。

1980年代中盤には

 私がアメリカン・フットボールを本格的にプレーし始めた1980年代中盤、日本でアメリカン・フットボールの人気に火がつこうとしていた。
 スーパーボウルは地上波で放送していたし、正月はローズボウル(アメリカの大学一決定戦のひとつ)を生中継していた。アメリカのカレッジフットボール公式戦を東京・国立競技場で開催したり、NFLのプレシーズンゲームを東京ドームで開催したり。そんな試合をテレビで見てアメリカン・フットボールに魅力を感じた一人が私である。

 そのころ、大学では関西で関学・京大がしのぎを削り、甲子園では関東の雄である日大が立ちはだかっていた。当時の京都大学の水野監督が、京大に合格するほどの頭脳を持ちかつ運動神経の良い高校生を、アメリカン・フットボールの経験は問わずスカウトしていた、時には部員(もちろん京大生)を家庭教師として派遣していた、という話は有名であった。
 日本の大学生のレベルでは、高校まで未経験の選手でも鍛え方次第で日本一になれるというのは、私を含めた高校未経験選手にとっての魅力でもあったし、必ずしも“スポーツ一筋”でなくても花を咲かせることができるというモチベーションにもなっていた。

 そんなモチベーションの持ち方が理想的なものか、といえばそうではないだろう。野球やサッカーのように、日本人選手が活躍し、ニュースにもなり、お金をいっぱい稼いだり、女子アナウンサーと結婚したり、という状況を子供の頃から見て、マネしてプレーし始め、やがてそのスポーツそのものにはまっていく、そしてそうした選手たちを応援する世界ができあがる、というのが理想的だろう。
 そんな理想的な状況にはほど遠いかもしれないが、少なくとも1980年代中盤のアメリカン・フットボール界には、未経験者の高校生を魅了するものがあり、人気がでるかもしれない、という世の中の雰囲気も、多少なりともあった。

 ところがいま、日本のアメリカン・フットボールにおける状況は変わってきているように思う。上記、奥野選手が引退を決意した理由はわからないが、このような状況であるがゆえに引退を決意する選手も多くいるのではないかと思う。

今年のスーパーボウル・・・

 いちアメリカン・フットボール・ファンとして、いま危機感を感じている。

 2021年2月のスーパーボウルは近代稀にみる注目の試合だった。

 実際の内容は少し期待外れの感もあったが、史上最高といわれる超ベテランと急上昇若手のトップ2のQB対決、日本人にわかりやすく例えれば、(今は引退してしまったが)イチロー選手とあの大谷選手が大リーグ・Wシリーズで対決する、くらいのレベルの試合であった。
 しかし、日本ではほとんど話題にならず、話題になるといえばハーフタイムショーがどうとか、アメリカン・フットボール・ファンにとってはどうでもよい内容だったりする。このままの状況が続けば、そのうちスーパーボウルも日本では見られない、なんて日も来るのではないか・・・
 そんなことになったら、ファンとしてはもちろん嘆かわしいことなのだが、こんなに面白いスポーツを、日本の人々が見る機会を失いファンになる機会を失う、というのは本当にもったいないことだと思う。

アメリカン・フットボールの人気回復を願って・・

 そんな状況を少しでも変えたい、というのが私の願いである。特効薬はない。単純に、アメリカン・フットボールの人気が高くならないといけないのだと思う。人気が高くなれば、競技人口が増え、システムができあがり、自然と魅力ある環境ができあがってくる。
 私ができることなどはほんの小さなことだが、このコラムを通じて、一人でも二人でも、アメリカン・フットボールに魅力を感じ、見てみたい、やってみたいと思ってくれる人が増えれば本望である。

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