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日本の社会人アメリカン・フットボールについて思うこと

前回、現在の日本のアメリカン・フットボール界に対する危機感についてお話ししたが、衰退していっている理由として、私がいま抱いている違和感について少し述べたいと思う。

 テーマは、日本のチームにおける外国人プレーヤーの役割について、である。

日本における”外国人”

 島国で、300年の鎖国を解いてまだ100年と少し、という日本においては、ヨーロッパやアメリカなどに比べ、まだまだ“外国人“というのは特別なものだ。国際化の中でマシになっているとはいえ、たとえば、日本で生まれ、言葉もアイデンティティも日本のそれを持っているのに、外観が日本人とは異なっているような人々(例えばNBAの八村選手)は、多かれ少なかれ、”外国人“という扱いをされた体験を持っているだろう。
 そもそも”外国人“という言葉さえ、欧米では定義が難しくなってきているはずだが、日本では”外国人“といえばだれでもその定義が思い浮かぶはずだ。
 外国人がそうした特別な存在である以上、その外国人の特性を生かすために外国人を組織に取り入れ、その組織の価値を高める、ということは一般的に行われている。ビジネスでは、そういった例は枚挙にいとまがない。

 スポーツの世界でもそれは一般的になっている。プロ野球やサッカーJリーグなど、プロスポーツでは当たり前のように行われているし、プロでなくても、例えば駅伝ではアフリカ人選手が大活躍している。2019年ラグビーW杯の日本チームなどは最たる成功例だろう。

社会人のアメリカン・フットボールチームでの外国人の活躍

 数年前から、社会人のアメリカン・フットボールチームに外国人(アメリカ人)が目立つようになってきた。しかも、助っ人というよりも、QB(クウォーター・バック)などチームの軸になるようなポジションである。
 2020年の社会人リーグの日本一決定戦であるジャパン・Xボウルを戦った、富士通フロンティアーズ、オービック・シーガルズも、ともにエースQBはアメリカ人であった。

 こういったアメリカから来た選手たちはほとんどが若手バリバリで、アメリカ最高峰のNFLにも挑戦するかしないか、くらいの選手である。残念ながら、日本の選手とはレベルが全く違う。
 体格差、といものもあろうが、それ以上に、幼いころからアメリカン・フットボールが国技として根付いているアメリカで育ち、その環境の中でプレイしてきた、という差は日本人選手には埋められない。

 野球やサッカーの場合、日本のレベルも世界的に劣っているわけではないため、ちょっとやそっとの外国人選手ではそれほど日本人選手とレベルが違うわけではない、これは皆さん感じるところだろう。
 しかし例えば駅伝で活躍するアフリカ人選手を思いうかべてほしい(駅伝をまったく見ない方にはわからないかもしれませんが・・・)。あの圧倒的な日本人選手との差、まるで違う生物が走っているような躍動感。素人が見てもちょっと日本人にはかなわない、というレベルの差がある。

 アメリカン・フットボールの場合まさにあんな感じなのである。

 駅伝の場合は7人とか10人のチームの一人なので(しかも社会人のニューイヤー駅伝では外国人選手は一番距離の短い、つまり影響の少ない区間に限られる)、チーム力全体に与える影響は限定的だ。
 しかし、アメリカン・フットボールの場合、司令塔と呼ばれるQBにセミプロレベルのアメリカ人がいたら、そのチーム力への影響は計り知れない。しかも、WR(ワイド・レシーバー)にもセミプロレベルのアメリカ人を起用された日には、この二人でタッチダウンを量産してしまい、試合を支配してしまうことも可能である。

社会人リーグでの成績上位選手は・・・

 試しに、2020年Xリーグ(日本最高峰の社会人リーグ)の個人成績上位を調べてみると、
・QBのパス獲得ヤード :上位6位まですべて外国人
・RB(ランニング・バック)のラッシング獲得ヤード :上位6人のうち、トップを含む5人が外国人
・WRのレシービング獲得ヤード :1,2位は外国人
・ディフェンス選手のタックル数 :1,2位は外国人
・QBサック数 :1,2位は外国人
と、外国人選手(詳しくは調べていないが、たぶんすべてアメリカ人)の無双状態である。

 2020年Xリーグトップ7チーム中、6チームは外国人がエースQBを務めていた、ということもわかる。
 では、日本人選手(特にQBに注目)はどうなのか、と調べてみると、ランキングに名を連ねている選手は、QBのパス獲得ヤード:7位・IBM:政本選手(早稲田大)、8位・ノジマ:小林選手(専修大)、9位・東京ガス:若林選手(名城大)など、ここ数年甲子園ボウルをにぎわせている関学、立命館、日大、早稲田、法政といった大学の出身者はほとんどいない。
 こういった大学からは、毎年のように優秀なQBが卒業していくはずなのに、Xリーグで活躍できていない(というより選手登録すらされていない)という状況はどういうことなのだろうか?

 アメリカから来たセミプロのような選手にはかなわない、控えとして選手を続けるくらいなら、いっそ別のことに時間を使おう、ということなのだろうか。冒頭に述べた、私が持っている違和感はここにある。

 日本の場合、他の多くの競技でもそうだが、社会人のスポーツチーム(特にトップの地位にあるチーム)では、企業が後ろ盾になっているケースがほとんどである。チームを維持させていくための金銭的な理由が大きいのだろう。
 企業がそのチームをサポートする理由はずばり宣伝であり、それであれば強いチームである必要がある。そのために、アメリカン・フットボールの場合であれば、本場アメリカから主要ポジションの選手を連れてくることが手っ取り早い解決策であることは容易に想像がつく。
 その選手たちは確かにチーム力をアップさせるだろう。しかし、それにより機会を失う選手が出てくる、しかも、QBやWRのように、花形といえるポジションの日本人選手が機会を失うわけだ。企業の判断としてそれは正しいものかもしれない。しかし、日本のアメリカン・フットボール界にとってはどうなのだろうか。 

オリンピックのマラソン日本代表にアフリカ選手?

 例えば仮に、オリンピックのマラソン日本代表に、ある一定の条件を満たせばアフリカ人選手でも選出できる、となったらどうだろう(ありえない仮定かもしれないが、猫ひろしさんのケースもあるので、可能性ゼロではないかも)。
 ケニアとかでは代表になれないトップ下あたりの選手がオリンピックの場を求めて日本にこぞってやってきたら、箱根駅伝でスターだった選手もおそらくオリンピックのマラソン代表にはなれないだろう。そんな選手が、大学卒業後、血のにじむ思いでオリンピックを目指そうと思うだろうか・・・・。

 その想像がアメリカン・フットボールの場合現実になってしまっているわけだ。

 今のこの状況が続く限り、日本のアメリカン・フットボールの未来は暗い、と言わざるをえない。

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