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派遣社員なるがまま~さかうらみ~

#スキしてみて

「2月25日で契約打ち切りって! どういうことだっ? 1月から6月末日迄じゃないのかっ!」
派遣会社の営業犬塚と電話をしていた。
『鳴賀さん、興奮しないでください。こういうケースは多々ありまして、3月からの職場はもう見つけてますので・・・また、ご連絡差し上げます』
現場近くの駐車場で、ただ茫然とスマホの画面を見つめていた。辺りは、暗かった。


(やっと、慣れてきたのになぁ・・・)

コンコンっ・・・。
ドアを叩く、井沼。

現場近くの道の駅に来ていた。コロナ拡大で店は休業だった。
「このカップ珈琲150円もするんだな・・・はい」
自動販売機の前のテーブルにコーヒーカップを置く井沼。
「払いますよ」
「いいよ」
「話ってなんすか?」
「ああ、実は、ウチの派遣の営業から所長が施工管理の経験者を探してるという話があったらしい・・・。知ってるか?」
「ああ、それね。さっき、俺んとこの営業から2月25日迄になったからって言われたんで、その事じゃないですか?」
「理由は聞いたか?」
「いや」
「そうか・・・」
「それだけですか? 話って・・・。寒いですから・・・。俺、行きますよ」
「いい加減にしろよっ!」といきなり、胸倉を掴まれる。井沼、見た事のない形相。
「なんすか? これ、離してくださいよ・・・」手を振り払う。
「全部、お前のせいだっ!」
「おっさん、何言ってんすか?」
「俺の契約期間が、2月末日になったっ! お前のせいでっ! お前のせいだっ!」
「は?」
「お前が、何もできないから・・・。お前が何もしなかったから・・・。ダメ男だから・・・。役に立たないから・・・」
「俺のせいっすか?」
「お前は何もわかっていないっ! お前のせいで、6月末日の話が・・・。6月迄働けたんだ。俺は、今までそんな評価貰ったことはない。今回も自信があった。所長に聞いた。所長はこう言った『ハサミも使えない。紙飛行機も折れない。何もするなといえば、何もしない。施工管理担当者が下請けの職人さんとコミュニケーションができない奴に40万円も払う気しますか?』とはっきり言ったぞっ!」
「俺、聞いてないっすよ」
「どこまで、ノー天気な男だ。お前の営業に電話しろっ! 営業の電話番号、教えろっ! 
俺の人生、返せっ!」また、胸倉を掴む井沼。
「離せよっ! 電話番号、今、LINEで送った。勝手にしろよっ!」

そそくさと車のエンジンをかけた。井沼は、スマホで話してるようだった。
目が合った。
その目は、憎しみにこもっていた。
痛い。
痛い。
痛い。
腹が痛くなってきた。
道の駅に戻ろうか・・・。

いや、待て・・・。コンビニに行こう・・・。


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