前皮神経絞扼症候群(ACNES)の特徴について
様々な検査をしても原因が見つからない腹痛のひとつに前皮神経絞扼症候群があります。過敏性腸症候群の一部に紛れ込んでいる可能性があるともいわれます。
【はじめに】
前皮神経絞扼症候群は、姿勢や腹筋運動などにより、腹直筋間を走行する前皮神経が絞扼されることで誘発される疼痛と言われています。仰臥位の状態で首を持ち上げて腹壁に力を入れた状態で、圧痛が増強されるカーネット徴候(Carnett’s sign)や、圧痛店周囲の皮膚をつまむと不釣り合いな痛みを感じるpinch test陽性などが主な所見です。
圧痛の最強点にブロック注射(腹直筋鞘ブロックrectus sheath block)を行って症状が改善するとACNESの可能性がさらに高まります。
治療の選択肢はブロック注射、パルス高周波療法(以後PRF)、神経切除他にもリハビリや物理療法がおこなわれる場合もあります。
本研究におけるブロック注射の内容は1%リドカイン5-10mlを用いています。他にもリドカインにメチルプレドニゾロンを一緒に注射する治療もあります。
ブロック注射のイメージ図は下記の通りです。
(Pediatric Anesthesia 27 (2017) 545–550より引用)
2011年~2016年にオランダの単施設で慢性経過の腹壁または鼠径部の疼痛の症状を有する3117人のうち、ACNESと診断された1116人を後ろ向き解析した研究で、ACNESの特徴などをまとめました。
【研究結果】
1116人のACNESを解析しました。
症状は、疼痛部位の感覚障害(78%)、pinch sign陽性(78%)、Carnett’s sign陽性(87%)、腹直筋鞘ブロックで50%以上の疼痛改善(81%)などの特徴を認めた。
疼痛の最強点のデルマトームはTh11(34%)、Th10(27%)が多く、左右では右側(55%)に多い傾向であった。
病因は特発性が57%、術後が28%が多く、それに続いて外傷・スポーツ、妊娠が続きます。
(下記は別の文献から引用した図で、緑矢印が右のTh10付近の圧痛ポイントになります。Hernia volume 22, pages507–516(2018)より)
●治療内容
原則は、まず保存治療(注射やPRFなど)を行い、改善が乏しい時に神経切除術を行う方針でした。
主な保存治療の効果(長期間50%以上の疼痛軽減を維持することで有効と判断)は注射で23.8%、PRFで42%であった。神経切除術は689名が受けた。
(上記は各注射の効果が23.8%という意味ではなく、長期間痛みをおさえることに成功したか割合を示しています。ブロック注射自体の効果は、上記のTable2 のReduction modified ructus sheath block の部分に記載している通り、注射後15分で疼痛が消失した人は42%、50%未満に改善した人は39%であることが分かります。)
上記以外にもリハビリやマッサージなどの治療を選択した人もいた。
1-5年の追跡で50%以上の疼痛改善効果があった患者は約70%であった。
下記Figure2は本研究の治療内容における患者の流れを示しています。保存治療を経由せず神経切除に進んだ症例は、すでに他施設で保存治療を受けた上で神経切除を推奨された患者であると記載があります。
【結論】
前皮神経絞扼症候群(ACNES)は、上記の特徴と圧痛点に対する局所注射(腹直筋鞘ブロック)により症状が改善することが特徴である。
【個人的感想】
ACNESに対して神経切除を行っている症例はこの論文ほど多くないように感じます。ブロック注射のみで乗り切れる症例は24%ほどしかないことを考えると、他の選択肢も準備、紹介できると満足度が高い治療を提供できると思います。パルス高周波療法も侵襲が少ないために検討したいです。
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