呼吸器専門医試験とその勉強について ※過去問ではなく、勉強事項まとめです。
2023年に呼吸器専門医試験を受験したため、その時の概要から記載します。
・一般問題 70題(105分)、実地問題50題(105分)でした。
・2022年以降から呼吸器内科・外科ともに問題は共通となっています。受験番号の横に内科or外科かマークする箇所がありました。
・内科の合格ラインは一般問題・実地問題が正答率60%以上でした。(外科の合格ラインは不明です。)
・各選択肢は全て5つの選択肢の中から、「1つ選べ」「2つ選べ」など明確に記載があり、「全て選べ」はありませんでした。
・頻回に出題される疾患が出題されていた印象です。(以下、詳細を記載)
・基本的には過去問、「呼吸器専門医・内科専門医 呼吸器分野 試験対策 一問一答」「呼吸器専門医試験のための実践問題と解説」で勉強するのがいいと思います。
・新しいエビデンスに関する問題もあるため、実臨床や新規薬剤、化学療法レジメンはしっかり押さえましょう。また毎年TNM分類は出題されている印象ですので、細かいとことまで覚えましょう。
・問題の出題傾向としては、日本呼吸器学会HPに概要がまとまっていました(新専門医制度ではなく、専門医制度の方の記載でしたが、出題傾向は概ね同じだった印象です)。
一般問題の範囲および作成の基準
1)一般問題は、呼吸器の形態および機能、呼吸器疾患の疫学、病態生理、主要症候と身体所見、検査、診断、治療、予防、などにつき幅広く知識の有無、解釈の能力を問う。
2)研修カリキュラムに準じ、問題数(70問)を凡そ表1のように割り振る。なお、研修カリキュラム以外に、最新の知見でEBMが明らかな事項をトピックスとして問う。
実地(臨床)問題の範囲および作成の基準
1)実地(臨床)問題は、呼吸器疾患、すなわち、気道・肺疾患、呼吸不全、胸膜疾患、縦隔疾患、横隔膜疾患などにつき、知識の有無、解釈や問題解決・応用の能力を問う。
2)研修カリキュラムに準じ、問題数(50問)を凡そ表2のように割り振る。主に、各論の範囲から出題する。総論に関する事も実地(臨床)問題の中で問う。
表1 一般問題の研修カリキュラムのジャンル別割り振りの目安
⚫️総論
I.形態、機能、病態生理 問題数 5
II.疫学問題数 2-5
III.主要症候と身体所見 問題数 5
IV.検査 問題数 5
V.治療 問題数5-10
⚫️各論
I.気道・肺疾患 問題数 20
II.呼吸不全 問題数 5
III.胸膜疾患 問題数 5
IV.横隔膜疾患 問題数 1-2
V.縦隔疾患 5
VI.胸郭、胸膜の疾患 問題数 1-2
トピックス 問題数 5-10
表2 実地(臨床)問題の研修カリキュラムのジャンル別割り振りの目安
⚫️各論
I.気道・肺疾患
1. 感染症および炎症性疾患 問題数 5
2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)問題数 5
3.気管支・細気管支の疾患 問題数 5
4.アレルギー性疾患 問題数 5
5.特発性間質性肺炎(IIPs)問題数 5
6.ALI/ARDS 問題数 2
7.薬剤、化学物質、放射線による障害 問題数 2
8.全身性疾患に伴う肺病変 問題数 2-5
9.じん肺症 問題数 2
10.肺循環障害(ALI/ARDSと合計5問)問題数 3
11.呼吸器新生物 問題数 5
12.呼吸調節障害 問題数 1-2
13.その他(比較的稀な肺疾患) 問題数 2-5
II.呼吸不全 問題数 2
III.胸膜疾患 問題数 2-5
IV.横隔膜疾患 問題数 0-1
V.縦隔疾患2-5 問題数
VI.胸郭、胸壁の疾患 問題数 0-1
したがって上記疾患に関して、集中的に勉強しましょう。
以下は私が勉強事項と受験した際の記憶に基づき、重要と思われる事項を書き起こしたものですので、勉強の参考にしてください。(内容は適宜ご自身で確認お願いします。)
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〇. 呼吸器疾患の年間死亡者数が最も多い疾患について
肺癌や肺炎など年間罹患者数や死亡者数はだいたい覚えておくといいと思います。(「呼吸器専門医・内科専門医 呼吸器分野 試験対策 一問一答」「呼吸器専門医試験のための実践問題と解説」でも言及がされています)
〇. 単一遺伝子疾患について
rate diseaseですが、呼吸器疾患として遺伝性疾患かどうか、どんな遺伝形式かは覚えておきましょう。
・常染色体優性遺伝
Birt-Hogg-Dube症候群(folliculin遺伝子)、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病:Endoglin, ACVRL-1、SMAD4遺伝子)、結節性硬化症(リンパ脈管筋腫症:TSC-1, TSC2遺伝子)
・常染色体劣性遺伝
肺胞微石症(SLC34A2遺伝子)、原発性線毛不動症候群、嚢胞性線維症(CFTR遺伝子)、先天性肺胞蛋白症
〇 . LAM(リンパ脈管筋腫症)について
LAMはほぼ毎年出題される疾患ですので、詳細までしっかり覚えましょう。
・LAM細胞(免疫染色でαSMA、抗HMB45抗体、抗エストロゲン・プロゲステロンレセプター抗体、D2-40が陽性となる)→D2-40はリンパ管内皮に特異的なモノクローナル抗体
・TSCの1/3でLAMを合併するが、LAM患者の中でTSCは3〜16%である。
・労作時呼吸困難や気胸の他に、血痰、リンパ浮腫、乳び胸腹水、腎血管筋脂肪腫を伴うこともある。
・血清のバイオマーカーとしてVEGF-Dの有用性が報告されている。
・mTOR阻害薬であるシロリムスが有効。
・嚢胞は、肺野全体に認めることが多く、ランゲルハンス細胞組織球症やサルコイドーシスは上葉優位の肺病変を認める。
・病理所見はLAM細胞の増殖とリンパ管の新生である。
・LAM細胞は乳び胸水や腹水でも認める。
〇 肺胞道の解剖について
正直、選択肢も難しく、ほぼ病理の問題でした。
〇 COPDの要因について
COPD発症の危険因子についての問題だと思われます。COPD診断と診療のためのガイドラインを参考にしてください。
タバコ煙、大気汚染、受動喫煙、職業性の粉塵や化学物質への暴露、バイオマス燃焼煙、呼吸器感染症、小児期の感染症、妊娠時の母体喫煙、肺結核の既往、社会経済的要因、内因性因子、AATD、小児喘息、遺伝子変異、気道過敏性、COPDや喘息の家族歴、自己免疫、老化
〇 ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)について
こちらもよく出題される疾患です。
・成人発症では20歳〜40歳代の男性に多く、そのほとんどで喫煙歴がある。
・ランゲルハンス細胞が浸潤、増殖し、肉芽腫を形成する。電子顕微鏡ではBirbeck顆粒を認める。
・病理学的にはS-100蛋白、CD1a, CD1c, CD4など陽性のランゲルハンス細胞を認める。
・LCHの終末期ではLangergans細胞は消失し、stellate fibrotic scarと呼ばれる星形状の瘢痕が細気管支周囲に認められ、牽引性の肺気腫を認めるようになる。
・BAL中のCD1a細胞が5%以上であればランゲルハンス細胞組織球症を疑う。
※小児では喫煙との関連は乏しく、全身多臓器に病変が及ぶことが多い。
〇 PPFEについて正しいものはどれか
こちらもまたよく出題される疾患です。
・Pleuroparenchymal fibroelastosis (PPFE)は進行すると上葉の線維化の進行による肺容量減少をきたし、胸郭の扁平化が高頻度できたす。
・有効な治療は現時点ではなし。
・残気量は増加、全排気量は低下するため、残気量/全排気量比は増加する。(呼吸機能検査の特徴についてはよく出る)
〇肺移植レシピエントの除外項目について
【肺移植レシピエントの除外条件】
1) 肺外に活動性の感染巣が存在する。
2) 他の重要臓器に進行した不可逆的障害が存在する。(悪性腫瘍、骨髄疾患、冠動脈疾患、高度胸郭変形症、筋・神経疾患、T-bil>2.5mg/dLの肝疾患、Cr>1.5mg/dLやCCr<50の腎疾患)
3) 極めて悪化した栄養状態
4) 最近までの喫煙
5) 極端な肥満
6) リハビリテーションが行えない、またはその能力の期待できない症例
7) 精神社会生活上に重要な障害の存在
8) アルコールを含む薬物依存症の存在
9) 本人および家族の理解と協力が得られない
10) 有効な治療法のない各種出血性疾患および凝固能異常
11) 胸郭に広範な癒着や瘢痕の存在
〇 縦隔原発セミノーマ、非セミノーマについて
IGCCC(International Germ Cell Classification)分類や、予後、腫瘍マーカー、化学療法レジメンなど大まかでいいので、把握しておきましょう。
〇 在宅ハイフローの適応について
適応疾患や病態(血液ガスなど)を覚えておきましょう。
・対象となる患者は、「在宅ハイフローセラピー導入時に以下のいずれも満たす慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者であって、病状が安定し、在宅でのハイフローセラピーを行うことが適当と医師が認めた者」
ア:呼吸困難、去痰困難、起床時頭痛・頭重感等の自覚症状を有すること。
イ:在宅酸素療法を実施している患者であって、次のいずれかを満たすこと。
(イ) 在宅酸素療法導入時又は導入後に動脈血二酸化炭素分圧 45mmHg 以上 55mgHg 未満の高炭酸ガス血症を認めること。
(ロ) 在宅酸素療法導入時又は導入後に動脈血二酸化炭素分圧 55mmHg 以上の高炭酸ガス血症を認める患者であって、在宅人工呼吸療法が不適であること。
(ハ) 在宅酸素療法導入後に夜間の低換気による低酸素血症を認めること(終夜睡眠ポリグラフィー又は経皮的動脈血酸素飽和度測定を実施し、経皮的動脈血酸素飽和度 が 90%以下となる時間が5分間以上持続する場合又は全体の 10%以上である場合に限る。)。
〇 肺癌のTNM分類について
頻出事項です。しっかり細かいところまで覚えましょう。(同側他肺葉転移、 同一肺葉内の副結節、対側肺転移、リンパ管症、胸壁浸潤の扱い、など)
※TNM分類9版への改訂に伴い、試験勉強時はしっかりTNM分類の確認お願いします。(N2がN2a/N2b、M1cがM1c1/M1c2に細分化されるようです。)
〇横隔神経麻痺をきたす疾患と機序
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