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大暑、大波、大わらわ

弾けるような蝉の声で目を覚ます日が増えた。
二度寝をするにはあまりに暑いので仕方なく起き上がり、寝汗で肌にぴたりと張り付く安物のシャツが不快なので仕方なく洗面台に向かい、髭と脂で顔面が汚いので仕方なく剃ったり洗ったりする。

思えば私の行為のほとんどは「仕方がないから」を始点にしているような気がする。主体性と積極性の消滅。いやいや皆そうだよと誰かが言う。面倒だけど仕方がないから嫌々やってるんだよって。
じゃあなんでその皆は私みたいになっていないのだろうか。

まだボーっとしている頭で今日は何をすればいいんだっけとか今やってることには何の意味があるんだっけとか考えて、その瞬間にこれからの行為を拒絶するための理由をいくつも思いつく。
やりたくないことや、別にやらなくていいことが多すぎる。
「仕方がないけどやらなくちゃいけないこと」のバランス感覚を間違えた結果ニートになったとも言える。
かといってそれで困ったことになったかといえば、まぁ別にそうでもない。
たぶん。

しか?

二十四節季だと今は「大暑」らしく、大暑の次は立秋(8月8日くらい)でつまり暦の上では秋ということになる。冗談じゃない。
昔の日本の8月は果たして涼しかったのだろうか。
気分だけでも涼しくなれるように秋を早めに設置しただけのような気がしないでもない。
どうにもならない自然現象に対するささやかな抵抗。

日焼け対策をしないまま散歩をしていたせいで私の腕はもうずいぶん黒くなっている。脇を走り抜けていくちびっ子たちの肌と比べてもいい勝負である。おかげで見た目だけは健康な人そのもので、初見で私をニートだと見破る方法はこの覇気の無い顔を拝む他ない。そして私は基本的にいつも斜め下を向いて歩いている。



今日は歩いて1時間程のところにある海岸に向かった。
太平洋に面しているこの海岸は呆れるほどに砂浜が伸びていて、また波も高い。もし南海トラフ地震が起きたらあっという間に海の底に沈みそう。
海は静かな方が好みではあるけれど、遠くから眺める分にはこういう荒々しい海も良い。
今のところ、この海岸が一番お気に入りのスポットである。
動画を撮ってあるので暇なら見てね。
https://twitter.com/Nassithenojob/status/1684091495610200065?s=20

暑いので長居は無理だが、涼しくなったら砂浜に椅子をおいてぼんやり波でも眺めたいと思う。
楽しみが出来た。


引っ越した話を友人にした。
一通りの状況を説明すると、友人は「せっかく一人になれたんだから何か始めてみたら? おおわらわチャンス!」と言った。

おおわらわ、が分からなかったので調べてみると【一生懸命になること。夢中になってことをすること。また、そのさま。】と書いてあった。

おおわらわかぁ、と私は笑った。
一生懸命。夢中。どちらも縁遠い言葉のように聞こえる。
それができていれば今頃私は別の人間になっているはずだ。

ただひとつだけ、一生懸命でも夢中というわけでもないけれど、何となくの気まぐれで小説を書いている。
これは「仕方がなく」やっていることではないと思う。
たぶん。

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