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コミュニティと治安維持とルール設計、バーチャル空間で快適さを保つためのワールド運営ガイド

あなたが中心にいる居場所やコミュニティを快適に保ち、そこにいる大切な人たちを守るのは誰か?

それはあなた自身をもってほかにいません。このことはリアル空間でもバーチャル空間でも同じです。

ということで、今回はメタバースのワールドを持っている人のために、ワールドの利用におけるルール設計の重要性と必要性、またその具体的な方法について、僕がclusterで運営している幸甚亭を例に書いていきます(内容自体はサービスに依存しませんが、主としてclusterを例に出します)。

どんなルールを設計すべきなのかというと、1つはワールドの遊び方について、1つはコミュニケーションについて、1つは権利や罰則について。

最近のclusterではコミュニティの場として機能するワールドが増えてきており、それ自体は喜ばしいんですが、一方で悪質な行為を働くユーザーのせいで不快な思いをしている人が少なくありません。

サービス自体(例えばcluster)の利用規約はあるとはいっても、あなたにとって十全な内容ではないことのほうが多いでしょう。そのため、交流のワールドであれゲームのワールドであれ、利用するユーザーの(悪しき)言動を制限し、どのような利用方法が望ましいのかを方向づけるルールが必要です。

特に、バーチャル空間のワールドは実際の土地や建物といった不動産のように法律で明確に守られているわけではないので、ワールドに関係する中心人物が作ってくれたルールがあるほうが来てくれる人にも安心感を与えられるはずです。

問題はルールの実効性をどう担保するかにありますが、まずは最初の一歩としてこの記事を参考にしていただき、いくらかでも不快な思いをする人が減ればいいなと願っております。

もちろん、ルールは必要ないと思う人は作らなくていいですね。

※cluster社からコミュニティガイドラインが公開されましたので、熟読必須。ワールド主の意向が重視されているようです。

ワールドの治安を守るのは誰か

最初に、冒頭の疑問をしっかり検討してみましょう。ワールドやコミュニティの治安を守る中心人物は誰か、という疑問です。

僕としては、そのワールドやコミュニティを作った人、あるいはワールドやコミュニティを運営している人(要するにワールド主)がその治安を守ったほうが都合がよいと思っています(場にいる人全員でできるとなおいいですが、そのためにもルールが必要です)。

「絶対にワールド主が治安維持をすべき」「ワールド主がルールを作って場を守る責任と義務がある」とまでは言いませんが、ワールドを自分にとって、また自分の大切な人にとって快適で心地よい場にしたいと最も強く考えているのはワールド主でしょうから、ワールド主が腰を上げるしかありません。

しかし、公開したままときどき更新だけするワールド(据置ワールド)と、日々誰かが交流できるようにしているワールド(運営ワールド)では認識が異なると思われます。

幸甚亭は運営ワールドで、特定の日時に「営業する」形で僕が運営しています。より積極的にルール設計すべきなのはこちらのタイプのワールドなので、基本的には運営ワールドのルール設計を解説します。

※単に「ワールド」と書く場合は「コミュニティ」も含意することにします。また、「ワールド主」には「コミュニティ運営者」を含めます。必要なときは分けて書きます。

ただし、据置ワールドでも望ましい利用方法や禁止したい利用方法がある場合、もしくは訪問・利用してほしくないタイプの人たちがいるような場合、やはりルールを示しておく必要があります(その実効性は後述)。

昨今ではNFT周りに巣食う情報商材系の人たちの訪問・利用を避けたいと思ってワールドを非公開にしていた人がいたようです。特定のユーザーを拒みたい心情は理解できます。ただ、ワールドは著作物のため権利保護は著作権法に則るわけで、著作権法が許す限りでの利用までもを拒めるのかは分かりません。

でも、訪問・滞在という概念が当てはまるワールドを漫画やゲームのような著作物と同じように扱うのはちょっと無理があるように思えます(アバターにも同様の問題があります)。ワールドは漫画よりも土地や建物に近いですからね。

現状ではどうしようもありませんが、少なくともワールド主が設定するルール(利用規約)には効力がある気がします。そんなわけで、据置ワールドであっても、望ましい利用方法をしてもらいたいならぜひルールを明示しておくほうがいいですね(だいたいにおいて「思っているだけ」では効力がありません)。

ところで、据置ワールドで起きたユーザー同士のトラブルにまでワールド主が関与すべきかどうかは意見が分かれるでしょう。なので、ワールド主としてどうしたいのかをルールとして記載しておくほうがいいと思います。

※「ユーザー同士のトラブルについてワールド主は責任を負いかねます」、あるいは「ユーザー同士のトラブルについてはワールド主にご連絡ください」など。cluster社もコミュニケーショントラブルには個別対応してくれないでしょう、Twitter社が個別対応しないように。

まとめると、据置ワールドでも運営ワールドでも、ワールド主にとって望ましい利用方法を推奨し、拒みたい利用方法を禁止するには、治安を守りたいワールド主がルール設計をしたほうがいい、ということになります。

なぜワールドにルールが必要か

こんなことは言うまでもないかもしれませんが、なぜワールドにルールが必要なのでしょうか。

「みんなが一般常識を守ってくれれば快適だし、それで充分」「ルール設計なんてめんどくさいことせず、楽しくて面白いことをしたいだけ」と思いたくもなりますが、そうはいきません。自分の常識は誰かの非常識なのです。ワールド主の認識を他者と共有し、とりわけ望ましくない利用方法を咎める正当性を持つためにルールが必要です。

残念ながら、いまのclusterではワールドはパブリック(誰でも訪問可)が中心なので、ワールドを運営する場合に望ましくないユーザーや利用方法を避けることができません。cluster社が用意してくれている対処法は現状では不充分ですし、先ほども書いたようにあなたの目的や希望を叶えるにはあなたが作るルールがないとうまくいきません。

もしルール設計を避けるなら、VRChatの日本人ユーザーがそうしているように、運営ワールドはプライベートのみにならざるをえません(それでもルールは必要ですが、パブリックのときよりは緩くても大丈夫だと思います)。

おそらく今後、ユーザーが自由にワールドを作成・公開できてコミュニティを形成しうるあらゆるメタバースでは、運営ワールドはプライベート文化へと進んでいくでしょう。

でも、僕としては何とかclusterのパブリック文化を守りたいと思っています。それもあって、それほど強力ではないかもしれませんが、盾としてのルール設計を提唱しています。

どんなルールを設計すべきか

さて、ルール設計の重要性と必要性については以上です。もしあなたが自分のワールドにルールが必要だと感じたなら、続きを読んでいってください。ここからはどんなルールを設計すべきかを説明していきます。

その方向性は3つあります。「遊び方」「コミュニケーション」「権利と罰則」です。これらの方向性に則りつつ、「自分がどうしたいか(してほしいか)」「どんなことを不快に感じるか」を考えてまとめるといいですね。

具体例を幸甚亭のワールド紹介文から引用します。

  1. 初心者と知らない人に親切にしましょう。

  2. カジノで遊ぶ人のための心理的安全性と快適性を最優先します。

  3. 謎部えむが判定するアンフェアな言動や迷惑行為は警告のち出禁&通報します。

  4. ナンパ、宗教・悪徳商法の勧誘、無許可の宣伝は厳禁、見つけたら警告のち出禁&通報します。

  5. 巨大なアバター、透明なアバター、ネームプレートを隠したアバターは使用できません。

  6. 上記スタッフ以外のワールド運営行為、また許諾を得ないカジノの利用は禁止します。

※ガイドラインを見直し、1と2は以下に修正しました。
1.初心者と知らない人を含め他人に親切にしましょう。
2.遊ぶ・くつろぐ人が安全で快適にいられる場を一緒に作っていきましょう。

※前提として、幸甚亭は月水金の21時から僕とほかのスタッフで営業していて、雑談をしたり、カジノでゲームをしたりしています。幸いなことにコミュニティらしきものも形成されていて、常連の人もいます。

禁止事項のほうが多いんですが、ワールドを守るためには仕方ありません。また、基本的には新規も常連も含めて来てくれる人は皆さん善人なので、どうすればワールドを尊重し最大限に楽しめるかを分かってくれています。

幸甚亭はいつもパブリックなので、全然知らない初対面の人も訪れます。その人にも遊び方を言葉で説明していて、善人にはそれで通じます(相手の精神年齢が低いと何回も繰り返して説明しないといけませんが)。

でも、パブリックであるということは迷惑行為を働く輩の侵入も容易に許してしまうということ。ゲームの進行に不可欠なボタン類を勝手に押して妨害したり、騒音を撒き散らしたりする愚か者です。

悪意のあるユーザーはこんなルールを守らないし読みすらしないので、cluster社に通報するしかありません。

つまり、上記のルールは悪意がなく知らずに他者に迷惑がかかることをやってしまうユーザーに対してのものです。「こういうルールがあるからやめてね」と説明するためですね(僕は明らかに悪意があるユーザーにも一度は説明して更生の機会をあげています)。

こうしたルールがワールド主や常連の人の頭の中にだけ存在している場合(要するに新規の人が自分で知りようのない暗黙のルール)、僕は他者を説得する(=言動を強制的に変えさせる)ための正当性や公平性があるとはあまり感じません。僕がルールは明示しないといけないと書いた理由です。

とはいえ、第3項の「謎部えむが判定するアンフェアな言動や迷惑行為」は書いておかざるをえませんでした。アンフェアや迷惑の範疇がどんなものかを明記するにはこの欄では足りない(長くなりすぎる)ので、僕がそう感じたら許さんということです。独善的ですが、来てくれる皆さんに僕の良識を信用してもらっています(変なことは要求しませんし、信用しない人は来ないでしょう)。

幸甚亭のガイドラインはいくらでも真似してもらってもいいので、ワールド主はぜひワールド紹介文にガイドラインやルールを明記してみてください(最後に内容を詳解しています)。clusterにも人が集まるコミュニティがいくつも生まれているのに紹介文に何も書いてないワールドが多くて勝手に心配になっています。

※なお、現状のclusterにはユーザーをミュートする、ブロックするというその場での対処方法があります。ミュートは音声を聞こえなくする機能で、ブロックはそれに加えてチャットとアバターの非表示が加わります。ただ、ブロックしても同じワールド内にいるのには変わりなく(その薄気味悪さたるや)、アイテムやボタンなどの操作が可能です。ブロックがいかに問題を孕んだ機能かは横に置いておきますが、ワールド主にとって最も望ましいのは特定のユーザーをワールドから追い出し二度と入らせない機能です。

コミュニケーションのトラブルをどうするか

実際問題、いわゆる「荒らし行為」はたいていサービスの利用規約で禁じられており、中傷やストーキングなど程度がひどければ法律でも対処可能です。clusterにおいてはこれらが必ずしも現場でユーザーが対処可能だと言えませんが、規約的に法的にも罰してもらうことができます。

それよりトラブルになりがちで利用規約や法律で対処が難しいのは、やはり人と人のコミュニケーションです。

トラブルの例。いつでもどこでもナンパしようとする人にとってナンパは常識の範疇ですが、場の雰囲気を大切にするワールド主はナンパ行為に迷惑することが少なくありません。両者の常識のギャップを是正するためには、ワールド主がルールとしてナンパを禁止し、事が起きたら注意しないといけません。

あるいは、ユーザー同士で喧嘩が起きたらどうすべきいいでしょうか。ワールド主によっては当事者同士で解決すればいいと思うかもしれませんが、喧嘩している最中のワールド内は雰囲気最悪です。

それを放置すると、ほかのユーザーから「ここのワールド主は自分たちのために対処してくれない」と思われて、人が離れてしまうかもしれません。それでもいいと考えるなら当事者同士で解決させればいいでしょう。しかし、それは嫌だと考えるなら、喧嘩をしているユーザーに注意しなければなりません。

トラブル解決や仲直りを手伝うべきとまでは思いませんし、簡単に解決することもできないはず。ですが、少なくとも「ここで騒ぐのはやめて」とは伝えたいところ。トラブル当事者への対処はその仲裁というよりも、周りの迷惑している人たちに対する「私は皆さんの安全を守ります」という意思表示の面が大きいんです。

そして、ここで大きな問題が立ちはだかります。そう、ナンパをする人や喧嘩をしている人に声をかけるには強靭な精神力を必要とします。そんなに心が強くないと自信のない人も多いでしょう。

ただ、僕は自分や大切な人が快適にいられる場を守るためには心を強く持たねばならないと思います。陳腐化した言い回しですが、力がなければ何も守れません。もちろん、困ったときに頼れる人にお願いするのもありです。そういう役割を担うワールド用心棒が登場する可能性もありそうです。

アバター同士のコミュニケーションは空気を読みづらいのでトラブルが起きやすいと思います。その点は常に意識しておきたいですね。

幸甚亭のガイドラインを読む

最後に、先ほど紹介した幸甚亭のガイドラインの意図を説明します。

1.初心者と知らない人に親切にしましょう。

幸甚亭はパブリックなので、cluster初心者や知らない人もたくさん訪れます。僕や常連の人が彼らを無視したりぞんざいに扱ったりしたら、彼らにとって幸甚亭での体験(あるいは初めてのメタバース体験!)は最悪になります。

僕は新規の人に再訪してもらって友達になりたいので、第1項では皆さんにあいさつを始めとする親切な言動をしてもらうようにお願いしています。

※ガイドラインを見直し、「初心者と知らない人を含め他人に親切にしましょう。」に修正。

2.カジノで遊ぶ人のための心理的安全性と快適性を最優先します。

幸甚亭では雑談をしている時間も多いですが、カジノでゲームをしている時間もかなりあります。ゲームを楽しみにして来てくれている人も少なくないので、第2項では安心してカジノで遊べるように最大限の配慮をすることを明示しています。

※ガイドラインを見直し、「遊ぶ・くつろぐ人が安全で快適にいられる場を一緒に作っていきましょう。」に修正。
修正の目的は、場にいるみんなで協力して心地よい空間を作っていきたいというポジティブな方向づけをするためです。

3.謎部えむが判定するアンフェアな言動や迷惑行為は警告のち出禁&通報します。

第3項は主に訪問者による喧嘩や悪口などの言動を制限するためのものです。例えば、その場にいない人の話はできるだけしないようにしています(流れで言及することはありますが……)。

4.ナンパ、宗教・悪徳商法の勧誘、無許可の宣伝は厳禁、見つけたら警告のち出禁&通報します。

第4項はclusterの利用規約でも制限されていることを改めて明記しています。宣伝についてはよく知らない人がいきなりやるのは絶対NG、親しい人なら全然OKです。

5.巨大なアバター、透明なアバター、ネームプレートを隠したアバターは使用できません。

幸甚亭は地下にある設定で天井が低めなので、大きめのアバターだと天井を突き抜けます。その状態はワールドにふさわしくないので禁止しています。

また、透明なアバターやネームプレートを隠したアバターは、自分の存在を隠しながら他者を観察し話を盗み聞きすることになってフェアではないので禁止しています(知り合いでもダメです)。第5項はワールド主によって是非が分かれるでしょう。

6.上記スタッフ以外のワールド運営行為、また許諾を得ないカジノの利用は禁止します。

第6項では幸甚亭というワールドを運営できるのはスタッフだけだと明示しています。ワールドは常に公開してあるので営業日以外でスタッフがいないときにも誰でもカジノを利用できるんですが、してほしくないので禁止しています(誰かスタッフがいればOK)。

とはいえ、実際にやられたら対処が難しいですね。防ぐにはワールドを非公開にするか、パスワード式のドアを設けるかしないといけません。いまのところ後者を実施してもいいかなと思っていますが、事が起きていないので特に何もしていません。ゲーム系のワールドを作っている人だと、第6項は同意しかねると思われます。

常識、当たり前、普通に頼りすぎてはいけない

幸甚亭のガイドラインを見れば瞭然ですが、書いてあるのはごく常識的で、当たり前で、普通のことです。しかしながら、繰り返しますが、自分の常識は誰かの非常識なのです。

「自分としてはこうしてほしい」のに、誰かがそれを守ってくれないなら、明示するしかありません。相手にとってその言動は当たり前のことなので、絶対に「あ、ワールド主はこれをしてほしくないんだな」とは察してくれません。

自分のワールドやコミュニティで快適さや心理的安全性を守りたい人にとって「察してもらう」は厳禁です。

ルール設計なんて疲れるしめんどくさいし、他人に注意するなんて怖いし、本当は誰もやりたくないんですよ。だから、したくない人はしなくてもいいんです。でも、悲しいことに、治安維持には必要なんですよね。

さらに悲しいことには、作ったルールを機能させられるかは定かではありません。

ルールやガイドラインを守らず注意警告も聞き入れないユーザーがいたとしても、clusterではワールドからそいつを追い出すことができません(イベントでは可能)。できるのはcluster社へ報告することだけ。

ルールの実効性を担保するには、どうしてもサービス提供者による機能が不可欠です。このあたり、clusterに限らずメタバースプラットフォームでは課題となっていくでしょう。いい感じで解決されることを祈っています。

余談。ゲームはルールの塊であり、ルールを遵守するからこそ面白い。

◆「ワールド運営って何だ?」という人のために↓↓


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