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接客経験ゼロだけど、clusterでバーチャルなバーを運営してみてる

こんばんは、謎部えむです。

今回は僕がclusterというバーチャル空間でアバターを介して活動できるSNSの中で、「幸甚亭」なるバーチャル雑談バーを運営し始めたお話です。

幸甚亭の紹介よりむしろ、なにゆえこんなことを始めたのか、という背景について長々と。

※ちなみに僕は接客経験どころかアルバイトもしたことがありません。

バーチャルバーをやりたくなったきっかけ

そもそも、なぜバーチャルバーをやろうと思ったのか。

僕もそうですが、仕事や学業には直結しないのに、ゲーム周りの市場規模だとか視聴者数だとか、大企業の動向や人気ストリーマーの活動などを追いかけている人は多いと思います。

そして、そこで飛び出す大きな数字や刺激的なニュースについてツイートして「いいね」がもらえると、つい自分が何者かになったかのように錯覚しがちです。自分自身にはまったく関心を持たれていないにもかかわらず。

そこで我に返ってみると、それらの数字やニュースが実は自分には全然関係ないことに気がつき、自分の人生や生活をどれほど豊かにしているのかという疑問に至ります。

推しているVTuberのチャンネル登録者数が何十万人かに到達したりスパチャランキングに載ったりしたら感慨深く、応援してきた甲斐があったと鼻が高くなるかもしれませんが、自分はファンの1人でしかなく、生放送を観ていても友達ができるわけではありません。

あるいは、Epic GamesとAppleのいざこざに訳知り顔で物申して何十何百とリツイートされたらたいへん心地よくなれますが、自分の暮らし向きがよくなるわけではありません。来年の自分はそのときの感情を思い出しすらしないでしょう。

いままでの僕もまさにそういう言動を取っていましたが、とある本との出会いから、「そういうのもうどうでもいいな」と思い至りました。そんな数字やニュースよりも、あるいは何万RTに達したツイートよりも、知り合いでもない人の炎上よりも、あの人とのちょっとした会話や笑い合ったシーンのほうが記憶に鮮明で、よき思い出になっていることを改めて認識したからです。

他人の人生に一喜一憂しすぎるより、自分の人生を生きたほうがいい。だから、eスポーツの業界動向や人気ストリーマーのランキングに熱を上げるよりも、自分に足りないもの、つまり自分の人生を充足させるのに必要なコミュニケーションを補給する活動をしたほうがいいなと考えました。

これがバーチャルバーに繋がる第一歩です。

※当然ながら、情報摂取&発信はそこにアイデンティティを置かない程度に、嗜む程度に並行して楽しんでおります。接点もない他人を応援して楽しんでもいますが、それが自分の最大のアイデンティティになってしまうと、あとに残るのは虚しさだけです。

1対多数から1対1の関係作りへ

「結局行き着いたのが人との繋がりとかコミュニケーションなの?」と思う人もいるはず。しかし、これは僕のような、これまで他人と積極的にコミュニケーションしてこなかった性質の人間にはとても深刻な問題です。だって、オンでもオフでもたいして友達がいないんですから。

※いわゆるぼっちや友達がいないことを自称する人はその状況でも平気と斜に構えているのではなく、単に「友達を作るために一歩踏み出す勇気」がないことを自己正当化しようと苦しんでいるだけです。一人遊びが得意な人ほどそういう症状を秘めているケースは少なくありません。

このnoteやTwitterもそうですが、オンラインの世界は1対多数の関係を増殖させ加速させるようにできています。僕たちは時に「1=発信者」であり、時に「多数=視聴者」になります。ほとんどの人は「多数」である場合のほうが圧倒的に多いでしょう。

たしかに、あのストリーマーやライバーの生放送を観るのは楽しいし、あのクリエイターの作品には心が動かされ、応援しているプロゲーマーの活躍には胸が踊ります。もちろん、それらが何かを始めるきっかけや人生の真なる糧になるならいいですし、1日の安らぎとなるならすばらしいことです。

ですが、みんな分かってきているように、1対多数の関係で「多数」の側に属するのはもう面白くないんですよね。ゆえに「1」になるべくリアクション稼ぎの訳知りツイートをするし、インフルエンサーになりたがる。とはいえ、そこでもやはり1対多数が前提されています。実は1人の友達ができることが精神的充足の道かもしれないのに。

1対多数の関係性で双方が友達になるのは至難の業です。原則として、オンラインでもオフラインでも、友達は1対1もしくは1対少数の関係性の中でしかできません(1対多数の中で「1」と関係を持てるのは別の「1」だけです。もしくは超優良なお客さま)。

※僕も1対多数の世界観でnoteとTwitterを使ってきたことで、新しい出会いがいくつもありました。こちらの可能性を追うことを否定する気は一切ありません。

人間は社会性動物であり、社会脳仮説があるように社会(他者とのコミュニケーション)があってこそいまの心を持つように進化してきました。なので、他者との関係性をとても重要なものと感じます。その中でも特別な関係が1対1なので、他者と繋がりたいという感情に抗うのは簡単ではありません。

しかし、ネットは1対多数を加速させます。本来は他人に自身の健康や技能を知らしめる原動力だった承認欲求は歪な形で発露し、「多数の側で満たされないから自分も1になろうとする」という1対多数の再生産アルゴリズムが嬉々として動き出します。そして、本当は求めていた1対1の関係は依然作れず、ますます満たされなくなる。

さらに、ネット上の面白いコンテンツも多くが1対多数の中にあります。「ネットにおける分断」なるものは誰もが1対多数にまみれていくことで隣人とすれ違えなくなることではと思いもしますが、だとすれば、1対1を求めるなら承認欲求充足装置としてのSNSの使い方を変えるか、どこか別の場所に出向くしかないということになります。

※1対多数の関係は(特に多数に属する場合)、仕事でないならあくまでちょっとした楽しみの範囲にとどめておくほうが心身に健全だと思います。

でも、SNSはもう1対多数の世界観が蔓延している。おまけに無名の個人にもいろんな数字がまとわりついていて、どんなに根がいい人でもフォロワーが10人だとそれだけですべてを判断されてしまいます。

そして別の場所とは、つまりオフラインの場に出ていくことです。しかしながら、昨今の社会情勢を加味しなくても、僕のような人間はイベントに出かけて見知らぬ誰かと親しくなることなんてほぼありませんし、飲み屋で隣席の人と意気投合することも皆目ありません。

とはいえ、オフラインの場には大きな利点があります。誰かと誰かが相対すれば、ネット上でちらつくフォロワー数やら何やらは横に置かれ、ひとまずは1対1の関係が始まることです。

オフラインの場がフォロワー数やインフルエンス力を突破して関係を始めさせるのは、個人が持つ身体性のおかげです。人間は他者の身体を無視できず、たとえ不快感を覚える相手=身体ですら意識の外に捨て去ることができません。キーワードは身体性。

ここで話がバーチャルバーに近づいてきました。オンラインでオフラインのように1対1の関係を始めるにはどうしたらいいのか?

オンラインサロンやDiscordコミュニティのように、名前とアイコンだけの存在になる場はダメです。フラットに1対1の関係を始めるには身体性が必要です。逆も真で、身体性があれば、1対1の関係が始まりえます。

なので、上の問いは「オンラインで身体性を持つにはどうすればいいのか?」と言い換えられます。そのためにはアバターを持ち、アバターを操作できるバーチャル空間で活動するしかありません。MMO、メタバース、まあ呼び方は何でもいいですが。

※MMOは「そのゲームをプレイする」という感覚が非常に強く、なかなか日常的にSNSを使う感覚にはなりづらいのではないでしょうか。clusterが目指すのは後者です。

バーチャルバーに至ったもう1つの理由

「身体性とかバーチャルとか置いといて、さくっとTwitterで話しかければ?」

※なんだァ? てめェ……

もっともな疑問です。でも、それができないからこんな回りくどいことをして、長々とテキストを繕っています。一緒にゲームをする友達を見つけるのは大河で砂金を見つけるのに等しい。

それにもっと重大なことがあります。僕のような人間は自分が場のホスト(主宰者)でない限り、積極的に話しかけるのがしんどいのです。ゲスト(参加者)の立場だと黙ってしまう。これは3人以上の会話で極端に口数が減る現象と同様。

言いかえると、話す必然性がないと話せないわけです。必然性には2種類あり、1つは上述のようにホストの立場で、もう1つは仕事です(話しかけられたことに返答するのはホスト/ゲストの関係ですね。話しかけられたら話せる人はめちゃくちゃ多い)。

僕は何らかの仕事を負っているなら普通に誰にでも気兼ねなく話しかけることができます。しかし、これがプライベートになると無理なんですね(知り合いだったら関係ないですが)。それと、Twitterなどのフォロー/フォロワーの関係はゲスト同士の立場と同じなので、やっぱり気軽にリプライするのは恐縮してしまいます。

だから、条件としてはアバター×バーチャル(身体性×オンライン)で、自分がホストになれること。そして方針は誰でも構えずふらっとやってきて(これが大事!)雑談できて、ときには真剣な話もできる。そんな場を作りたいなと思いました。それって、コーヒーハウスやバーに似ています。

誰かの作ったものに依存すると、ゲストでしかいられない。じゃあ自分で作ればええやんか。

バーチャル雑談バー「幸甚亭」ができた

かと言って、いきなり実店舗を出すわけにはいきません。でも、僕はたまたまバーチャルSNSを標榜するclusterを知っていて、かつてMMOの『meet-me』でバーのような場所に入り浸っていました。

だから、思考はおのずと「バーチャル空間でバーをやってみる」というところに落ち着いたわけです。そうしてclusterでバーチャルバーを運営してみることに至りました。

clusterは以前までバーチャル空間でのイベントしかできず、ユーザーが個々の常設ワールドを公開できる状態にはなっていませんでした。それが、3月にバーチャルSNSの名目のもとでユーザーがワールドを(自分で作成して)所有できるようになったそうです。サーバーはclusterが用意してくれていて、いまは同接12人を上限としています(それ以上の人がワールドに入ると同じワールドの別サーバーに飛ばされます)。

clusterにオフィシャルアバターが登場&新キービジュアルを公開しました」より

以前までのclusterで得られる体験は "一対多" がメインだった
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2020年3月、スマホ対応&ワールド機能実装という大規模アップデートによってclusterは新たにバーチャルSNSとして出発。ユーザー同士による1対1の交流という体験がclusterにとって、今まで以上に重要になってきました。
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より深い交流をするためには、お互いの個性を知り合うことが重要です。そしてその際には、ユーザーの化身であるアバターが重要なファクターとなるのは必然でした。
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ハレとケとは、お祭りや儀式・行事などの日を非日常的なハレ(晴れ)とし、普段の生活である日常をケ(褻)として区別する日本の伝統的な考え方です。

clusterではイベントによって得られる体験をハレ、ワールドでの交流によって得られる体験をケとして考え、「バーチャル上での体験としてのハレとケが溶け合っているのに加えて、それが未来のスタンダードな人類の生活スタイルを示している」という世界観をサービスローンチ時から構想していました。

ということでその恩恵に与り、僕は自分が好きなサイバーパンクの世界観で幸甚亭というバーを作ったのでした。

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サイバーパンクはネオンサインと漢字でできている。

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そしてグローバルメガカンパニーによる寡占が進んでいて街中が広告で溢れている。

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このビール風飲料は「注ぐ」と「飲む」のギミックがある。制作者氏も来店してくれた。

ワールドの制作に約1週間、8月中旬にオープンしました。まだ稼働数日ですが、いつも一時満員になるくらい人が来てくれて、ありがたいことにすでに何人か常連も。基本的にはテキストチャットですが、ボイスチャットをする人もいて、たまに僕も喋ったりして、端的に言うととても楽しい。

夜が深まってくると、1人また1人と帰っていきます。そんな中で閉店ぎりぎりまでいてくれる人もいて、本当にバーの店長になったかのような気になります。酔い潰れたふりをして「今日は帰らねーぞ」と演じてくれた人がいたのには笑ってしまいました。そういう遊びができるのも楽しいところです。

来店された有識者に尋ねたところ、VR Chatという別のサービス(ゲーム)のほうに先行して「個人のワールドにみんなが集まってきて遊んだり喋ったりする」というコミュニティの文化ができていたそうです(『Second Life』もそうですね。『FFXIV』などのMMOにもあるでしょう)。しかしながら、clusterもバーチャルSNSとしての機能が続々と追加されている真っ只中。足りない機能、追加してほしい機能もたくさんありますが、これからに期待ですね。

ネットで自分のワールドを持って1対1を始める

幸甚亭をいつまでどれくらい続けるかは分かりませんが、当面は水曜日と金曜日の20時~23時くらいに営業しています。

心の孤独が辛い、毎日仕事や勉強で疲れきっている、世間の話題についていくだけで時間がなくなる、ネット上の怨嗟と憎悪がしんどい。あるいは、ちょっと話し相手がほしい、静かな雰囲気に心を浸したい、知らない誰かとフラットに知り合ってみたい。

そんなときにはよかったら遊びに来てみてください。あなたの居場所の1つになれればとても嬉しいです。

※clusterは現状サービス内でワールドのブックマークができないのでご注意。フレンド登録はできるのでお気軽にどうぞ。

さて。

ネット上には1対多数の世界観で「1」になろうと煽る謎の勢力やノウハウが溢れています。Twitterのフォロワーを増やす方法、YouTubeで成功するメソッド……それらを駆使して1対多数の世界観で「1」を目指すのもまた面白いことですし、生活の糧や仕事に直結するのであれば必要なことです。

一方で、ネット上で1対1の関係を充実させるノウハウが語られることは案外少ない。心の隙間は1対多数の世界観で「1」になって「多数」のフォロワーを得ることではなく、フラットな1対1の世界観で満たされる場合も多いはず。そのための手段として、アバターとバーチャル空間は大きな可能性を秘めていると僕は思います。

もしかしたら、多くの人がバーチャル空間にアバターだけでなく自分のワールドを持ち、交流する未来が訪れるかもしれません。実際、ワールドを作るのは思っているよりも遥かに簡単です。そうなると素敵ですね。


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