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スクワットのスタンスの秘密:ニュートラル、スクイーズ、アウトワード

はじめに
 
 スクワットの仕組みについては、フィットネスやコレクティブエクササイズの専門家の間でも良く議論されています。

 「スクワットのフォーム」とインターネットで検索すると、スクワットの深さに焦点を当てたもの、ニュートラルなスタンスで最大限のウェイトを持ち上げるやり方、ニュートラルなアライメントで関節の角度を等しくすることを優先するなど、多数の結果が得られます。

 全米スポーツ医学アカデミー(NASM)は、スクワットをクライアントに指導する際、次のことを伝える必要があると言います。「…両足を肩幅に開き、つま先を前に向け、上半身をまっすぐに保ちます。」

 しかし、米国運動評議会(ACE)では、「肩幅よりやや広いスタンスに両足を開き、胸を引き上げ背中を真っ直ぐに保ちながら腰が膝の高さよりも低くなるところまで下ろす」とクライアントに推奨しており、両者はわずかながら異なる見解です。また、ACEはつま先をわずかに外側に向けるよう指導しています。

 これらの違いにより、トレーナーは、クライアントのために安全で効果的なプログラムを作成する際に、知識に基づいた選択を行うことが困難になる可能性があります。同様に、これに関して一貫した研究を見つけることは困難です。
 
 深くスクワットするためにつま先を外に向けて足幅を広くして立つか、または最適な動きのメカニズムに合わせてよりニュートラルな姿勢で行うか、クライアントへのコーチングについては、多くの議論があります。

 同様に、運動のメカニズムとして、生体力学的にはスクワットの深さが非常に重要ですが、特定の運動機能障害、または膝関節の怪我を患う多くのクライアントにとっては、膝よりも腰を低く下ろすスクワットは禁忌となる場合があります。

 この記事では、スクワットについて多く議論される、足の位置(スタンス)が最終的に脛骨大腿骨関節(膝)の損傷にどのように影響するかに関して考察します。
 
方 法
 ある研究で、3つの条件下でのスクワットにおける膝の運動学を調べました。最初の条件は、つま先を真っ直ぐ前に向けた(内旋/外旋が0度)の「ニュートラルスクワット」(NEU)です。 論文の著者によって「スクイーズスクワット」(SS)と名付けられた2番目の条件は、足を30度内側に向けます。 3番目の条件は、「アウトワードスクワット」(OS)と名付けられた、足を30度もしくはそれ以上外に向けたスタンスを含みます。
 研究者らは、年齢、身長、体重に大きな差のない15人の健康な大学生(女性9人、男性6人)を選びました(平均はそれぞれ21.4歳、170 cm、64.7 kg)。怪我やバランスの問題の病歴がある被験者は研究から除外されました。

 各被験者は、各条件(NEU、SS、OS)でそれぞれ6回ずつを実行し、平均値を報告しました。被験者は、幅はニュートラル(肩幅)を維持するように指示され、上腕関節を90度に屈曲して腕を前に伸ばし、腰が膝と同じ高さになる位置(腿が床と平行)までスクワットしました。

 研究では、運動学的データを収集するためのトラッキングシステムを各被験者の足、脛、太腿、骨盤2箇所のそれぞれの外側に装着し、運動学的データを測定するための座標系を作成しました。
 
データと結果
 屈曲のピーク角度は、3つの条件すべてにおいて比較的類似しており、統計的な有意差があると言えるレベルには達しませんでした。しかし、研究者らは、OS時においては、膝の屈曲角度が増加するにつれて、膝が内側に入る傾向があることを発見しました。

対照的に、SS時においては逆のことが起こり、膝の屈曲が増加するにつれて膝は外側に開く傾向がありました。最大膝屈曲時において、SSでは1.9±6.06度、およびOS時では3.9±5.46度の内旋傾向と比較すると、ニュートラルスクワットでは1.1±5.60度の内旋傾向が見られました。

 同様に、最大膝屈曲において、SS時は3.6±8.38度、OS時は2.3±3.57の外旋傾向と比較してニュートラルスクワットでは1.0±7.26度の外旋傾向が見られました。

 ピーク時の外転および内転の力は、足の向きに大きく影響されました。最大時の内転の角度は、SSで0.1±0.43、OSで0.9±0.43度であったのに対し、NEUでは0.5±0.59でした。同様に、ピーク時の膝屈曲における最大の外転の角度は、NEUで1.2±0.65度、SSで1.9±0.10度、OSで0.6±0.40度でした。

 しかし、研究者らは、脛骨大腿関節での圧縮力とせん断力は、スクワットの3つの条件下全てで類似していると判断しました。
 
考 察
 研究の結果は、せん断力と圧縮力はピーク時の膝屈曲の3つのスクワット条件下全てで同じであることを示していますが、最大屈曲時の膝の内旋・外旋の傾向は、SS、及びOSにおいて同様に問題があります。これらの状態での膝の極端な内旋・外旋は、半月板の圧迫や、膝の他の組織を損傷させる可能性があります。

 さらに、研究者らは、内転および外転が強くなると、膝の内側(内転の場合)と外側(外転の場合)に負担をかけ最終的に変形性関節症(OA)の発症に繋がる可能性を示しています。

 この概念を、マリオットらも支持しています。歩行時の膝の最大内転の影響についての彼らの研究では、膝の内転がより強いほどOAの痛みが有意に増加しました。
 
全体として、研究者は、足の内転/外転を伴うSSおよびOSは、発揮する力の最大値にあまり差がない場合でも、膝にかかる体重が均等に分散されずさまざまな部分に負荷がかかることを示しています。

 研究者は、クライアントにはつま先を真っ直ぐ前に向けたNEUのスタンスでスクワットの練習をすることを強く提唱しています。

 また研究者は、以前の研究でも示されているように、膝の屈曲が大きくなると圧縮力とせん断力が増加するため、膝を怪我しているまたは過去に怪我をしたことがあるクライアントや患者は、膝の屈曲が大きいスクワットを避けるべきだとコメントしています。
 
研究における制限
 本研究にはいくつかの制限があります。まず、この研究では筋活動についてはまったく測定されておらず、関節角度と力の測定のみが行われました。第2に、グループは男性と女性の混合でした。一般的に女性は膝外反が大きくなりやすく、膝の支持構造が弛緩する傾向があるため、結果が不明確になる可能性があります。
 
さらなる研究のための応用や疑問点
 この研究は、つま先を前に向けたニュートラルな姿勢で行うスクワットが膝関節にとって最も安全な方法であることを提言しています。

 研究者らは、彼らの発見に基づいて、膝の内外旋、そして最大膝屈曲時の内転/外転が極端な場合、膝のさまざまな支持構造に負担がかかることによって、クライアントが怪我や変形性関節症を引き起こしたり悪化させたりする原因となる可能性を示しています。

 追加の研究では、ニュートラルの幅と足の向きが膝と腰椎の両方にとって最も安全な姿勢であると示されています。

 多くのパワーリフティングの選手やオリンピックのリフティング選手は、この研究のOSのようなつま先を外に向け幅の広いスタンスでスクワットを実施することがよくあります。オリンピックのリフティングとパワーリフティングの場合、より重い重量を持ち上げるにはスクワットを深くすることが重要であり、必要な筋肉を総動員して力を発揮することが必要です(つまり、内転筋への大きな負荷がかかります)。

 ただし、これは一般の人々には適切ではありません。パワーリフティングやオリンピックのリフティングはスポーツであり、スポーツには怪我のリスクが伴うことも多いのです。
 
 パーソナルトレーナーの目標は、スポーツ選手のトレーナーとして雇われたのでなければ、必ずしもスポーツのコーチとしての役割を果たすことではなく、怪我をしやすい動きを評価、修正し、怪我を防ぐために生体力学的に安全な動きのパターンを強化することです。

 Hanらによると、最も生体力学的に安全なスクワットを指導、強化するやり方は、つま先を真っ直ぐ前に向けたニュートラルな姿勢で、足を肩幅に開き、腰を下ろした姿勢まで適切なアライメントと膝の屈曲を維持することです。

 OHSA(オーバーヘッドスクワットアセスメント)でクライアントの動きのパターンを評価し、スクワットのやり方が最適かどうかを判断することが重要です。たとえば、過度の前傾パターンは、足首の背屈または股関節の可動域に制限があることを示している可能性があります。

 つま先が外に向いている場合は、腓腹外側頭/ヒラメ筋、大腿二頭筋、大腿筋膜張筋の過活動や腓腹筋内側頭、中殿筋/大殿筋、内側のハムストリングに低活動を示唆している可能性があります。これらの代償動作は、膝蓋骨腱炎、アキレス腱炎、足底筋膜炎などの他の怪我にも関連している可能性があります。

 このような場合、動きの修正を強化するため、クライアントにつま先を外に向けて深くスクワットをさせることはお勧めできません。同様に、膝を怪我しているクライアントは注意深く観察し、膝関節を大きく屈曲することは避けるべきです。
 
 NASM CES(コレクティブ・エクササイズ)は、これらのクライアントにとって非常に有益です。フィットネスの専門家は、スクワットを指導する際、クライアントに大きな負荷を与える前に、コレクティブエクササイズのテクニックを適用しバランスを修正する必要があります。認定パーソナルトレーナーの主な役割は、生体力学的に安全な動きのパターンを指導し、強化することであることを常に念頭に置いてください。
 


ニコール・ゴールデン

ニコール・ゴールデン
 NASMマスタートレーナー、CES、BCS、FNS、AFAAプライマリグループエクササイズインストラクター。コレクティブエクササイズとダイエット指導を専門とし、肥満患者および癌患者や癌サバイバーの指導など豊富な経験を重ねている。


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