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読書

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読書の記録と感想等。
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2024年3月の記事一覧

2024.3.8『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

愛情に真っ直ぐ生きる肉子ちゃんの姿に、心を打たれるばかりの作品だった。
自分への愛、他人への愛。あらゆる方向に真っ直ぐ走る愛情は、否応無しに多くの人の心を揺さぶる。
誰に対しても等しく、正直に生きる肉子ちゃんが眩しく感じるとともに、弱冠11歳にして自らの境遇を認識しながら、ずる賢い自分がこのままでいいか、迷いながら生きていくキクりんにも共感できる点が多く感じた。

また、彼女らが暮らす港町の人たち

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2024.3.17 『本日は、お日柄もよく』原田マハ

人は言葉を使って感情を表現できる生物。様々なシチュエーションでスピーチをする場面も少なくない。想いを届けることは大変で、意図した通りに伝わらないことがほとんど。それゆえに相手に想いを伝えるためには工夫を凝らさなくてはならない。

そんなスピーチを主題にした本作品は、文章から登場人物の心がひしひしと伝わってくるようで、読み進めるうちに幾度も涙が込み上げてきた。音声は無いスピーチの文章かのに、その人の

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2024.3.20 『互換性の王子』雫井脩介

「成功(なりとし)」と「実行(さねゆき)」の異母兄弟を軸にして様々な対立が描かれるなか、緊張と弛緩の緩急が心地よくスルスルと読み進められる作品だった。人の幸せを願う者にには花が咲く、正義の勝利で括られたことも読了後の爽快感に繋がっていたし、登場人物の性格や特徴が細やかで、人物像がイメージしやすかったことも要因の一つと考える。

何よりも創業者である英雄の広く社会の動きを見渡す視野と、狭く会社の動き

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2024.3.30 『私のカレーを食べてください』幸村しゅう

強く生きるために、目に炎を宿らせることは簡単ではない。そのスイッチは誰にでもあるが、押すためにはかなりの勇気や活力が必要だからだ。
主人公の成子は、どんな困難に晒されても人に裏切られても、懸命に、直向きに自分ができることに向き合っていて、その気持ちに胸が打たれた。

成子は良くも悪くも人をしっかりと信じられる力があり、育った環境も手伝って少し控えめな性格をしている。しかしその心の奥底には『美味しい

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