後遺症が残った過失10の交通事故に遭った話⑤ 医師よ、それは言うべきではないと思う、の件

こんばんは。
4月になって新生活が始まった方もいると思います。
みなさんは隣人トラブルに合ったことがありますでしょうか。
私は隣人トラブルならぬ、隣工事人トラブルに見舞われ、うちの雨樋が壊れました。

みなさまの周りは平和でありますように。
では、前回の続きで入院中の話になります。


色々なトラブルも一旦は消沈し、
ただ怪我を治すだけの日々になりました。

担当になった理学療法士の方もめっちゃいい人で、おいしいスイーツやら体の仕組みやらを聞きながら毎日楽しくリハビリをしていました。

途中で部屋の一人が
「空いたから移動してって言われたの!自分でお願いしたら高いのよ、ラッキー!」
とウキウキと個人部屋に移動し、
代わりに、足が折れている80代後半のおばあちゃんが入院してきました。

おばあちゃんは「乙女」でした。
足が折れているので車いす移動が基本方針、トイレも自分で行けません。
トイレ付き添いは力がいるので男性の看護師さんが担当になることが多く、
おばあちゃんはそれが恥ずかしいわけです。
日中はトイレを我慢し、消灯したあとにこっそり自分で痛む足を引きずり壁を伝い、トイレに向かう途中で看護師さんにばれて怒られる、
を3日くらい繰り返しました。

その夜、精神病棟もかくや、
おばあちゃんのベッドは柵で囲まれ、柵には等間隔に鈴が設置されました。あの、クリスマスツリーにつけるもしくは神主さんがじゃらじゃら頭の上で鳴らしてくれるような、でっかいやつです。

我々、同じ部屋の民は戦慄しました。
夜、それでも這い出そうとするおばあちゃんが、
じゃらーん、じゃらじゃら、がらー、
と、どこかの旅行予約サイトみたいな鈴の音を鳴らして、トイレに行こうとうごめくからです。
音を聞いた看護師さんはすぐ病室にやって来て、「こら!だめでしょ!」とたしなめます。

さすがに我々も寝不足になりかけました。
おばあちゃんも連日の格闘で疲弊していました。
誰かがお願いしたのか、さすがに鈴は数日で撤去されました。
この件では何歳になっても女性はかわいいもんだなぁと学びました。
 

その後、私は肩もくっついてきて松葉杖がつけるようになったことから、そのナースステーション前の楽しい団体部屋から離れ、
あとは治すだけの病棟端っこの団体部屋に移動しました。

こちらの部屋は若い人も多く、個人主義的な雰囲気です。
ベッド付近で彼氏とイチャイチャしている人もいて気まずかったりします。
私は早く治してここから出たい、と切に願いました。
 
今まで、あの例の病院でやられたへたっぴな鎖骨固定バンドによる痛みを超える痛みはほぼないこともあり、
胃が荒れるからとこっそり飲むふりをして捨てていた(内緒ですが)痛み止めと胃薬をようやく真面目に飲み始めました。
そして痛みを減らしたうえで、
日々、松葉杖をついての1階から4階までの階段昇降10回をこなしながら腹筋もして、と体力増強ムッキムキ回復計画(自称)を始めました。

そんな折、
私を急な発熱が襲います。
毎日のリハビリ前に体温計測をするのですが、39.2度というとんでもない数値を突然たたき出しました。
『確かに昨日の夜はすっごい寒気がして、寒すぎて震えてたな。熱のせいかぁ』
と思いました。
私は平熱36.8度で38度越えの高熱が出たことは記憶にあるだけで2回しかありません。

その後、様子見で血液検査をし「問題なさそうなのでとりあえず寝てましょう」と安静に過ごしました。
しかし、2日たっても3日たっても熱が下がりません。
とうとう7日連続で38度越えの偉業を達成しました。

さすがに見過ごせないと思った優しい看護師さんによって、その夜、私のもとに夜間の日直をしていた内科の先生が呼ばれました。
内科の先生は
「風邪でもウイルスでもなさそうだし。レントゲンでも撮ってみる?何かわかるかも。」
とレントゲンを撮ることに。

そしてレントゲンを見て先生は言いました。
乙女に言うべからずな禁断のひとことを、病室というほかの人の耳がある場所で!
「骨は綺麗ですね。さすが若いだけある。高熱の原因はやっぱり不明ですが、しいて何か、診察をするとすれば。
宿便が、溜まってますね!」
とにこやかに。

最悪です。私の顔は火を噴きました。
それ、しいて言わなくていいやつ!
看護師さんも慌てています。「いや、女性はそういう傾向があるものですから、先生!(もう黙れ!キッ)」と。
私はもともと高熱でほてっていたので、私の恥ずかしすぎて真っ赤になった顔にはきっと気づかれていないはず。はずです。そう信じたい。

看護師さんに押されて先生は退場していきました。
『何で?もっと診なくていいのかな、原因わかってないよね?いいのかな・・・』的な疑問形な顔で去っていきました。

そして翌日くらい、まだ下がらない熱に当惑し、
担当医の先生は整形外科長に相談したようです。
整形外科長からの指示で、私の痛み止めと胃薬が変更になりました。

私は悟りました。
薬の副作用の説明書で見るやつだ、「もし高熱が出た方は服用をすぐやめてください」だ!
それまで使われていた薬の副作用をネットで確認すると、
「ぜんそくの持病がある方は副作用が出る可能性があり、利用を控えるか医師の指示のもと~」
とか書いてあります。
私はぜんそくです。なんだ、そういうことか。

そして、その指示を出した整形外科長が説明にやってきました。
「うーん、内科の先生にも診てもらった通り原因はわからないんだけども、ひょっとして、骨折の治りかけの時にたまにある「吸収熱」ってやつかもなあと思います。薬を変えたのは念のためです。うん。良くなってるってことだね、いいことだよ。」

そして、翌日には熱が引いていました。
『いや、先生、これ薬の副作用説が濃厚そうだけど。何で吸収熱の話出したんだろ?医療過誤とか言われたくないからかな。』
と正直思いました。
あまり害もなかったから(紅麴と一緒で、実はすごく腎臓とか肝臓にダメージが出てるのかもしれませんが)私は何でもいいのですが。
あやしげに濁されると気になるってやつです。


そんなこともあり、私は今に至るまで念のために、当初処方されていたのと同じ、ロキソニン系痛み止めは飲まないことにしています。

処方されそうなときに「ぜんそくなのでロキソニン以外でお願いしたい」と言うと、
詳しい医師や薬剤師の方は「あぁ、そういうこともありますね」と言ってくれるのですが、大抵「なんで?」な顔をされます。
大抵の医師が知らないということは、ぜんそくの人でもロキソニン系を飲んで副作用が出ることは少ないのでしょうね。


そして、すっかり元気になり、
松葉杖もいらないくらい回復した私は、
先生からホネホネ家族の一員の証である「驚異的な回復スピードです。もうほぼ治ってますよ。普通はあと1か月かかるんだけどなぁ」を授かります。
父も昔授かっていました。私も晴れて立派なホネ健康家族の一味を名乗れます。

この病院ともオサラバかぁ。
と感慨にふけりながら院内を運動がてら散歩して病棟に戻ってきた時、
昔のナースステーション前の病室に黒服の人が数人いるのを見かけました。
なんだろうか、と少し止まってみてみると、黒服の一人は見慣れた顔の人でした。

前の楽しい病室で一緒だった、外科系疾患のおばあちゃんの娘さんでした。

びっくりしました。
そして一瞬で理解しました。『あのおばあちゃんが亡くなったんだ』と。
一緒に病室でズンドコし、健康体操し、青春を語り合ったあのおばあちゃんです。
私は立ち尽くしました。
そして、恐らくその不審さから、娘さんは私に気付き、会釈してくれました。

そして話をしてくれました。
「母はこの病室で楽しそうでしたね。
末期の肺がんだったんですよ。内科や外科では病床が足りないから整形外科にきて、末期なのでナースステーションの前の病室でした。
最期は、当初いたみなさんはほかの病室に移動されたりしてさみしくなりましたし、母も大変苦しんでいましたから。
あそこまで苦しむのはつらく思っていたけれど、これで母も苦しみから解放されました。
家で看取るか、病院で看取るか、家族も悩みました。でも病院でよかった。最期には家族みんなで母を看取れましたから。
みなさんと楽しそうな母の姿も見られたし、良かったです。」
言葉は違うと思いますが、こういった内容でした。

なんと返事をしたか覚えていません。
こんな、たった1か月ちょっと前はあんなに元気だったのに。そんな。

そして腑に落ちました。
ナースステーションの前の病室で
「キヨシー!エルオーブイイーきっよっし!」
とかふざけた盛り上がり方をしていても看護師さんが注意しなかったのは、おばあちゃんがすごく楽しそうだったからなんじゃないでしょうか。
『人生の最期を過ごす病院で楽しめてるならよかったなぁ』という、看護師さんたちの優しさだったんじゃないでしょうか。

ひょっとして、あの時の病室で、このおばあちゃんが末期ガンだと気づいていなかったのは私だけだったのかもしれません。
みんな察していてあの賑わいようだったのでは。
そしておばあちゃんもあの賑わいで元気になっていました。
「私最近ごはん食べられなかったのよねぇ。今日は食べられそう。」と言いながら、みんなと一緒に夕飯を食べていた時の笑顔。
あの幸せな時間を作り出した病室の方々は尊敬すべき優しい人たちです。

私は、人間って捨てたもんじゃないなと思いました。

そして、2か月にわたる入院生活を終え、退院しました。


今回はここまで。
さて、退院し私はこのあとまた入院します。
次回はその入院前、つかの間のひと時に警察と現場検証の話になります。

昔新聞記事で読んだことがあります。
「笑顔は、たとえそれが偽物の笑顔(作り笑い)だったとしても、
免疫を活性化する働きがある」
という話でした。
私はたまにこのおばあちゃんを思い出し、
間違いなく元気になっていたように見えたあの笑顔の日々がその記事を証明している気がします。

好きなお笑いでも、かわいい動物映像でもいいし、
笑って笑って、元気に過ごしましょう。

それでは、見て下さってありがとうございました。
よい夜をお過ごしください。