【パン焼き魔法のモーナ、街を救う】どんな些細な魔法でも工夫次第で大きな力に!
主人公のモーナが勤めるパン屋さんに女の子の死体が現れるところから始まるこの物語、かわいいタイトルと表紙からは想像できないくらい重厚なファンタジーでした。
モーナたちの暮らしている世界では、魔法使いはそこまで珍しい存在ではありません。
その一方で、魔法使いは万能の存在というわけでもありません。
パンを上手に焼くことができる魔法、死んだ馬を操ることができる魔法、水を操ることができる魔法、薔薇を上手に育てることができる魔法、砂を操ることができる魔法、…など、基本的に1人の魔法使いが使うことができる魔法は1つだけ。
そんな中、街の魔法使いが次々に殺される事件が起きます。
事件が過激になるにつれて魔法使いたちは街を離れ、次々にその数を減らしていきました。
モーナは、自身も謎の男に襲われたことで、一連の事件は街の有力者の仕業であることに気づきます。
悪者の陰謀から街を救うために行動を開始したモーナでしたが、パンを焼けるだけの14歳の少女にできることはそう多くはありません。
しかし、先人の魔法使いたちの知識に触れ、自らの知恵を絞ることで魔法の力の新たな使い方を編み出していくモーナ。
修行することで強力な魔法を手に入れるのではなく、自分に与えられた少しの才能を努力によって開花させていくという魔法の描き方にグッときました。
「パン焼き魔法のモーナ、街を救う」に登場する魔法は、どれもそれ自体は大したものではありません。
でも使い方がすごい。
その魔法をどのように使うのか、どうしたら最もその能力を引き出せるのか、どんな手順であれば効果が高くなるのか…試行錯誤しながら成長していくモーナが素敵です。
読んでいるうちに、自分にもモーナのように隠れた才能があるのではないか?それをうまく使えてないだけなのではないか?という気分になっていきます。
こういう物語が児童書として世に出るのはとても嬉しい。
もうひとつ気に入っている部分があって、街を守るための戦いで14歳の自分が中心になっていたことにモーナがとても怒るシーンがあるんです。
もっと早くに大人たちが気づいてなんとかするべきだったと憤慨するモーナに大きくうなずいてしまいました。
少年少女が主人公になって巨悪に立ち向かっていく物語はたくさんありますが、その中で大人は何をしてるんだよ!という怒りを描いているものは少ないような気がします。
モーナがその点についてしっかり怒っていることに、大人には子供が思いっきり頼れる存在であってほしいというメッセージが込められているような気がしました。
そしてそれはたしかにその通りだよなと。
フィクションじゃないかと言ってしまえばそれまでなんですが、子供が読むことを想定している本で、そこを誤魔化してないのが良いなと思ったんです。
そして魔法使いの使い魔といえばフクロウにカエル、ネコ、コウモリ、イモリ、ネズミ…といったものが浮かびますが、モーナの使い魔はなんと発酵種のボブ。
パンの材料となるものですが、この子がめちゃくちゃ頼りになるんです。
発酵種に「強い」という言葉を使うのが正しいのかはわかりませんが、ボブはすごく強い!
発酵種がどうやって戦うのか気になる方はぜひ「パン焼き魔法のモーナ、街を救う」を読んでみてください。
この物語では、世の中の悪い部分や黒い部分を誤魔化していません。
悪い人ではないけれどなんだか頼りない女公、自分を正当化して平気で他人を悪者に仕立て上げようとする反逆者、都合よく魔法使いを使い捨てにしようとする軍隊…。
悲しくなるくらいリアルで、実際にあり得そうなエピソードがたくさん登場します。
でも、だからこそ、世界観に深みが出ているのではないかと思います。
児童書だからと侮ることなかれ。
すごく重くて、色々と考えさせられるファンタジーです。
子供も大人も楽しめる物語だと思うので、ぜひ一度手に取ってみてください!
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