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【レッドクローバー】何重にも張られた伏線に踊らされるミステリー

「レッドクローバー」は、ヒ素が使われた大量殺人事件を通して過去と未来が少しずつ繋がっていくミステリーです。

核を握るのは赤井三葉という少女。

事件が発生してから、彼女は好奇の目にさらされ「レッドクローバー」と呼ばれるようになりました。

不穏な雰囲気の表紙とその分厚さに手に取った時は怯みましたが、気づいたら引き込まれ、あっという間に一気読み。

ミステリー好きの方にぜひ読んでもらいたい1冊です。

なお、物語の本筋に関するネタバレには十分配慮して紹介していきますが、前知識ゼロで楽しみたい方はここでページを閉じてくださいね。

豊洲のバーベキューガーデンで起こったヒ素混入事件と、その12年前に北海道で起こった一家毒殺事件。

雑誌記者の勝木は、同じヒ素が使われたということで2つの事件には共通点があるのではないかと考えます。

改めて2つの事件を調べることにした勝木は、12年もの間、語られなかった事実に迫っていきます。

語り手が変わりつつ、物語の時間軸も入れ替わりつつ、少しずつ明らかになっていく真実に震えました。

ミステリーとしておもしろいのはもちろん、現代に生きる私たちへの毒が少しずつ散りばめられている作品だと感じました。

田舎の閉鎖的な町で暮らす閉鎖的な人々の生き方とか、誰かに何かをされたわけではないけれど世の中にじわじわと殺されていく感覚とか、母子の関係の難しさとか、直接的に描かれているわけではないけど容易に想像できる息苦しさ。

「レッドクローバー」には、色んな歯車が少しずつ噛み合ってしまうことで起こってしまった事件のリアルさがありました。

特に印象的なのが、様々な母娘が登場することです。

どの母親も娘に対して愛情が薄いように見えますが、本人はそのことに気づいていません。

しかし娘の方はそれをしっかりと感じ取っていて、母娘の関係は少しずつギクシャクしていきます。

そんなぎこちない雰囲気を、身近な距離にいる男性陣はまったく気にしていないというところに不気味さを感じました。

父親も、夫も、弟も、母娘の関係には干渉しようとしないのです。

その歪さに本当に気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのか…。

すべては連鎖し、自分が娘にした行いはいずれ自分に返ってくる。

今つらい思いをしている娘側からすると、果たしてそれは救いなんでしょうか。

作中に出てくる以下のセリフに胸が詰まりました。

ーー子供を愛さない親はいても、一度も親を愛さない子供はいないんじゃないかな。だから、もし長女がほんとうに親を殺したのだとしたら、その子のほうが先に心を殺されたのよ。

「レッドクローバー」まさきとしか

体は一度しか殺せないけど心は何度でも殺すことができる。

なんて残酷で的を射た言葉なんでしょうか。

「レッドクローバー」は、ある意味社会派ミステリーなのかもしれません。

まだまだ語りたいことはたくさんありますが、ネタバレをしないように…となるとなかなか難しい!

とにかく一度読んでみてください。

これを読んだ人がどんな感想を抱くのか、とても気になります。


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