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vol.5==梨茄子よりご挨拶 petit ステイホーム報告号==

梨茄子が不定期で発行しているメルマガのアーカイブです。
お送りしたものをほぼそのまま載せています。


2020年5月24日18時発行
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こんにちは

 梨茄子の立蔵です。

 緊急事態宣言も明日には首都圏・北海道も解除される見通しだそうです。ステイホームの2カ月弱、みなさまはどのように過ごしていらしたでしょうか。

 不謹慎と思われるの覚悟で申しますと、私は、楽しかったです。すごいのびのび過ごしてしまいました。毎年実現できない年始の抱負「マンガいっぱい読む」「本いっぱい読む」「映画たくさん見る」が、量はともかく順調にクリアされています。密に気を付ければお散歩には行けるし、週5回zoomで「踊ってみる会」というのに参加しているのでむしろ運動できてる。押し入れと本棚とPCとスマホの中身を整理して、過去の作品も整理して発表しなおして、さらに新たに文章書いてみたり、そういえば動画編集もしたし苦手なお裁縫で小道具作ってみたりとかしてるし、とても充実しています。

 家にいられないほうだと思っていたので、ステイホームをこんなに楽しめるなんて自分でも意外です。オンライン・オフラインともに人に会う機会はあるにしても、オンラインでも演劇作ってしまう同業のみなさんの活動には遠く及ばぬアクティブ度。ふっとんだ公演への未練、数えきれない先立つ不安、全世界的な危機という現実すらも差し置いてさすがに心穏やかすぎやしないか。あと寂しさとかないんか。

 適応できすぎな件に関してはいろいろ考えることはありますが(ほんとうにいろいろあって、それだけでメルマガ2通分の分量になってたので割愛しました)、とりあえず取り戻す方向に動き始めた日常を、でも取り戻したいのかな、私は、世界は、とちょっと思っています。インドのどっかの街では、空気がきれいになってヒマラヤがみえるようになったそうです。分散登校にしたら少人数学級になって先生が子どもたちをよく見れるとか、通勤ラッシュしなくても仕事できるとか、コロナ中に起きた良いことは守られるのでしょうか。とりあえず私は朝の新宿駅が怖くてたまりません。

 「コロナ時代の僕ら」という、コロナが流行り始めて早々に出版されたイタリアの小説家パオロ・ジョルダーノのエッセイのあとがきに、本当にコロナ前に戻りたいのか、戻すべきことと戻しちゃいけないことがあるんじゃないのか、という問いかけがありました。そして、人はすぐに忘れる、とも言っていました。(無料公開されていたのを駆け込みで読んだ記憶と、高橋源一郎さんのラジオ番組「飛ぶ教室」のうろ覚えなので、ぜんぜん正確ではないです)。

 人はすぐ忘れる。そう、私はきっと、ステイホーム前の日常が帰ってきたらすぐ慣れちゃうのです。これまでも、旅公演とかでひと月近く東京を離れもう渋谷なんか歩けないと思っていても、品川駅に降り立った瞬間に都会の体に戻っていました。なるべく流れを妨げないように縮こまって理由なく焦ってる体、なにかをシャットダウンして、滞ることにいらだちを覚える体に。戻そうとしたわけではありません。東京に帰ってくる前の、まわりにあるものをちゃんと感知して、やんわり受けとめ続けられる体を保ちたかった。しかし環境というのは強大で、都市対応モードを覚えている体は、ここが東京だと認識するや否やあらゆるセンサーをオフにしていきました、容赦なく。

 今回の強制的引きこもりライフを送るうち、どういう勘違いなのかわかりませんが、旅にでているときのように解像度高くまわりを感知して、忙しいからって無いことにしていたものをちゃんと見て、ものごとに時間をかけられるようになっていました。都市にいながら晴れ晴れと自由なこの体も、ワクチンができたらすっかり消えて、元のつまらない体に戻って、忙しさを気持ちいいと勘違いして暮らしていくのかしら。

 やーだなー。

 病気で苦しむ人、倒産する会社や収入を絶たれて困窮する人がいっぱいいる状態がずっと続けばいいと思っているわけでは絶対にないんだけどさ、東京や他のワーカホリックだった都市が、コロナ中のペースのまま、スカスカでちょうどいいじゃん経済回しすぎだったわーて方針にならないかなー。そしたらわたしも無理なく解像度高いセンサーのままでいられるのになー。や、がんばるけどさ、解像度高くいられるようにさ、でも環境は強いから抗い続ける限界はすぐ来ちゃうからさ、街のほうも変わってくんないかなー、なんて。

 結局は他力本願にそんなことを願いつつ、明日には戻ってきそうな緊急事態ではない日常を少し思い出して、ちょっとだけ練習しておこうと思います。パスモをスムーズにピッとする段取りとか、都市生活をスマートに送るには無数のちょっとしたコツが必要なので。コツを取り戻しつつ、でもステイホームの体を、できるだけ残していきたい、と思っています。

◇◆脚注◆◇

踊ってみる会
ひとごと・青年団演出部の山下恵美さん主宰。40分くらい気持ちよく動くだけの会。

コロナの時代の僕ら
ご覧になった方も多いかも。あえてアマゾンではないリンクを貼る。

飛ぶ教室
らじるらじるでききながら夕ご飯をつくるのがさいこうに楽しい。時々身につまりすぎて半泣き。

自粛生活に「幸福を感じた人」が口々に語る理由
本文に登場しませんが。自粛ライフに快適さを見出してしまったのがわたしだけではないと安心させてくれた記事。

玉や
本文ともはや関係ありませんが。目黒駅前のやきとんの名店。玉やに心置きなく行けると思えば朝の新宿駅もやりすごせる気がする。

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ぜんぜん petit じゃない長文をお読みいただきありがとうございました。

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ではでは、どうぞ、楽しい日常を。

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