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上村元のひとりごと その245:かまぼこ

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 むっきゃー。ぬっきゃー。

 んっふーん。くっふーん。

 つるんこ。すってん。

 …。

 むがぐわぎちゃー。

 ため息をついて、立ち上がり、新春、初転び。愛しのピカチュウといちゃいちゃしていて、脚を滑らせ、床でおしりを打って、ぶち切れるミントを、抱き上げて、逆立つ青緑色の毛皮を、よしよし。大丈夫だからね。撫でて慰めます。

 ミントって、脚の裏は、どうなっているんだろう。

 通常であれば、猫には、肉球というものが備わっていて、いわゆる、滑り止めの役目を果たしてくれるはず。

 ぬいぐるみの猫には、ないのかな。

 ただでさえ、ぶんむくれのところに、余計なボディタッチを加えては、たちどころに、ぎしゃー。ひっかかれること、間違いなし。

 おそるおそる、おみ脚を拝借し、こっそり、素早く、見て取ったところ。

 長い毛に隠れて、一応、もにもにとした何かが、あるには、ある。

 でも、その形状たるや。

 言ってはなんだが、どう見ても、かまぼこです。

 全体に、白くて、縁が、ほんのりピンクで、ドーム型に、盛り上がった半円で。

 …これって、仕様?

 それとも、ミントだけ?

 不安になって、製造元のサイトにアクセスし、画像を確認しましたが、脚裏までは、写っていない。

 にぐーん。

 けろっと機嫌を直し、気持ちよさそうに、僕の喉に、ほっぺたをすりすりするミントの両脚を、今一度、前も後ろも、じっくり観察。

 …やっぱり、かまぼこ。

 知らなかった。

 愛猫が、脚の先に、魚肉練り製品をくっつけていたなんて。

 確かに、かまぼこでは、滑りやすいだろう。

 それは、まあ、仕方ないが。

 どうしよう。

 見ていたら、かまぼこが、食べたくなってきてしまった。

 実は、僕は、ひそかに、かまぼこが大好きなのです。

 おせち料理のなかで、一番を挙げろと言われたら、断然、かまぼこ。

 かまぼこのない正月なんて、プレゼントのないクリスマスのようだ。

 …この冬は、どちらも、なかった。

 自分にプレゼント、と思って買った枕は、早くも、ミントのじゃれじゃれ道具になっているし、実家にも、帰らなかったので、おせちも食べていない。

 母が送ってくれた、切り餅の大袋は、これが最後か、と思うと、どうにもつらくて、開封できず、結局、いつもの朝ご飯で済ませてしまいました。

 かまぼこ、買いに行こうかな。

 コンビニに、売っているだろうか。

 正月一日の、午後だけど、まだ、残っているかな。

 ぐしゅーん。きゅふーん。

 思いかけたのですが、ミントが、めったに出さないような、あまりにも可愛らしすぎて、卒倒しそうなくらいの、甘えた声で、すりついてくるので、やっぱり、よそう。

 このまま、存分に、べたべたしてください。お願いします。

 心の中、土下座で頼んで、一緒に、ゆっくり、明るい床を歩きます。

 何も、変わらないのです。

 昨日が、今日になっただけなのです。

 でも、元日の太陽には、やはり、特別なものがある。

 冷え込んで、寝苦しかった夜も、明けてみれば、すっきりとしていた。

 ぐずぐずと、思い悩んで、執着していた、過去のあれこれも、澄んだ日差しに溶けて、まあ、いいか。

 終わったことは、終わったこと。

 家を出た時点で、両親とは、永遠に別れた。

 血だけが、僕と彼らを、繫いでいる。

 それだけ。

 単純に、そう思えるようになった。

 餅は、賞味期限が切れても、そのまま、取っておこう。

 かまぼこも、ミントが持っている四切れを、愛でるだけにしよう。

 物書きには、暮れも、正月も、関係ない。

 雑煮よ、おせちよ、今まで、ありがとう。

 これからは、味噌汁と、白飯で、生きていきます。

 にーのう。

 そう、忘れてはいけない。するめも。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 重低音を腹に聞きながら、炬燵に座り直し、一心にするめをかじるミントを支えて、天井を仰ぎます。

 右斜め上、カステラが、ふんわり浮いています。

 よかった。問題ないみたいだ。

 ほっとして、MacBookの蓋を開き、白い画面に、黒い文字。いつもの作業を、にちにちにちにち。にちにちにちにち。うなり続けるミントの邪魔をしないよう、そうっと始めます。

 新年、あけましておめでとうございます。

 どんな年であれ、無事に迎えられたことを、感謝して、ありのまま、受け取りたいと思います。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。それでは、また。

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