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「障害者雇用ビジネス」について

障害者の「働く」様々なかたちの中で、近年は障害者雇用コンサル企業による農園事業が注目されています。
農園事業に限らず、このようなかたちはそのままに、取り扱う商品・取り組む作業内容が異なるものもあるでしょう。いわゆる「障害者雇用ビジネス」と一括りにされるもの。中身は玉石混淆かもしれませんが、今回はよく問題として取り上げられるかたちをこのように表現してみます。

玉石混淆と申し上げました。決して否定するだけのつもりでは書いておりません。

さて、なぜこのかたちが注目されているのか。支援側から指摘されている問題点や、一方で働く本人・家族から見た時のメリットについてまとめてみます。

いわゆる「障害者雇用ビジネス」とは

今回取り上げる農園型のざっくりとした概要をば。
私が見たこと、経験したこと、会議で聞いたことをいろいろ組み合わせている部分がありますのであしからず。

まず、障害者を雇いたいと考えているAという企業があります。A企業が社内で考えた結果、障害者に任せられる仕事はないと判断。しかし法定雇用率を満たさなければ、企業名の公開や納付金の支払い、ハローワークからの指導が続きます。
そこで、A企業は障害者雇用コンサルのBコンサルに依頼をします。

Bコンサルはとある敷地に多くのビニールハウスを持っています。
ビニールハウスを1つにつき数十万円で貸与。ハウスの中では小松菜やレタスなどの野菜の栽培が可能です。野菜栽培のノウハウやハウスの管理、障害者の職場定着に関する助言をBコンサルはしてくれるようです。
さらにBコンサルは障害者採用の際に面接の代行もおこなってくれる。
Bコンサルに依頼すれば、採用から仕事の創出、定着までの助言をしてくれるとのことです。

A企業は障害者に指示・対応する担当者(健常者)を雇い、ハウスに配置します。ハウスではA企業の管理者1名と、A企業と雇用契約を結んだ5名の障害者が働くことになりました。
これでA企業はハウス1つにつき法定雇用率は5ポイント。全員が重度障害であれば10ポイントが得られます。

ちなみに栽培した野菜はあるところでは本社の社食に出され、あるところではハウスで働く障害者が自宅に持ち帰って食べ、あるところでは廃棄されることもあるようです。

イメージはこんな感じ

よく指摘されている問題点とその所感

いろいろと指摘されていますが、大きなところでは以下の事柄でしょうか。

〇障害者雇用促進法や共生社会の理念に反する
雇用促進法ではざっくりですが、「障害者と健常者の分け隔てなく、雇用に対しての機会と待遇を均等にし、障害者が持つ能力を発揮し、職業生活における自立を促進する」というのが理念・目的となります。

よく指摘されるのは障害者を本体事業から遠ざけ、障害者だけでまとめて雇用するのは差別的でいかがなものかという点でしょうか。
またキャリアップに乏しいという指摘もありますかね。

個人的にも閉じた世界で多様性・共生社会からは遠いところで働くことになると感じます。

〇労働と収入が合致していない
基本的には栽培したものは販路に乗るわけではありません。
自分たちの労働で給与を得ているわけではなく、それは職業的な自立なのか。企業は金を払って法定雇用率を得ているだけではないかというツッコミもあります。
これも恐らく職業的自立の点を言っているのでしょうか。

特に廃棄されている事例もあると聞いて正気ではないと感じましたね。見たわけではないので誇張かもしれませんが。

しかしまあ労働と収入の点を言うとA型や特例も当てはまる事業所があるのがなんともでしょうか。

〇コンサルの介入が不適切
採用活動を雇用企業がやらずコンサルがおこなうこと。
選考の基準を第三者が持ち、判断するのはおかしいという点。

企業と契約金のやり取りをおこない、定着支援をすると謳っておきながら、支援は外部の支援機関に任せている。
日誌が書けない障害者に対して毎日訪問し支援をするよう希望する。

支援機関からこの点を指摘されたので、定着支援については明記しないようにした、と支援機関に言い返してくるコンサルもいたとか。そういう問題じゃないのよ。
日誌が書けないなら何らかの配慮をして書けるようにするとか、そもそも書く必要はあるのかとかを精査してほしい。

私が訪問した時に対応するのは全てコンサルの社員。ハウスの管理者は面談の場にいるだけ。
課題を言うのはコンサル。こちらの要望を聞くのはコンサル。本部に確認するのはコンサル。うーん、管理者の方の業務とは一体。これは雇用管理をされていると言えるのか。
ちなみにコンサルの方はナカポツ、グループホーム、相談支援事業についてどのような機関か知らなかったようです。

「支援機関を本人につけてください」と言われるのもコンサル。それは障害者本人と雇用する企業が依頼することでは?
ちなみに支援機関はどのような課題に対してどのような機関を希望されるか聞いても「?」という表情でした。
定着支援のノウハウとは一体。

働く障害者本人・家族から見ると


これらのコンサルは「重度障害者を率先して受け入れる」とされていますし、事実重度の方が多かった印象です。

そういったところから見ると、働けないと思っていた自分・我が子が就職できたというのは大きな喜びかもしれません。
誰もが知っている企業や大企業も利用されていますから、安心感もあるでしょう。
毎日行くところができて、仕事をして楽しかったと帰ってくるという声も取り上げられていますし、事実そうでしょう。

後はやはり最低賃金や社保が保障されていますからね。
この点は親亡き後のことを考えてもありがたい点です。

一方で見学に同行した方に話を聞くと、「あれは仕事じゃない」と言われる方もいました。

個人的には必要とする方がいることは理解しますし、それを否定しません。
本来この辺りは特例やA型が担うところだったのかな、と思ったりもします。そうするとこのかたちだからということで否定するのは違うな、と思うのです。
同じかたちでも特例だからいい、A型だからいいということではないでしょうから。

より多くの方が自分で働き、それによって収入を得るという経験をすることは社会参加という点で大きなことでしょうし・・・。
収入を得る=社会参加ではないですけどね。

まとめ

まあ今更、という話題。でも一度まとめてみようと思いました。
いろいろな会議で聞いていると、行政側も違法性はないので手出しはできない。ただ、問題意識は持っているというところです。
支援者間でも意見は様々。必要悪的な認識や、絶対悪的な認識、重要な社会資源と位置付けている人もいます。

このテーマからは、働くことや共生の本質は何かということの問題提起をされているように感じます。
重要なのは何か。本人の幸福か、企業の努力か、支援の倫理か・・・。

個人的には潰れなければいいなと思っています。ずっと続くビジネスモデルなのだろうか。
もし潰れてしまえば、次の就労に迎える人はどれだけいるか。このかたちの中でその力を持つに至った人はどれだけいるか。
私が新人の時に言われた、「どこでも通用するように育てる」という意識を持ってくれる会社はどれだけあるか。
働くことは能力を発揮すること、高めること、可能性を引き出すこと、その中で酸いも甘いも経験して、経験する前よりも変化すること。そしてその中で収入を得て、望ましい生活に近付いていくことだと考えています。
その視点でみると、果たしてどうなのか。白黒ではつけられないのが私の現状です。

私の所属機関としては「触れない」という選択を取っています。
こちらから紹介することはない。本人・家族が見つけてくれば止めない。
訪問はせず、コンサル・企業と接触はしない。本人には面談・助言は提供する。

今後も考え続けていくテーマだと思っています。

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