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稔 第5回|エロ映画館

昭和39年頃、私は9歳の時のこと。従兄弟のY君が泊まりに来た。Y君は私より2歳年上、兄より1歳年下である。3人とも嬉しくてしょうがない。母から買い物を頼まれても、オレが行く、ボクが行くと喧嘩になってしまい、大した買い物ではないのに結局3人で行った。買い物は曳船にあるスーパーマーケットに行くのだが、その道中にエロ映画館があった。

大きな看板には、和服の裾が乱れて、太ももがあらわになった色っぽい女性、乳首が見えそうで見えない胸などが描かれてあった。私達少年3人にとって、その看板を本当は見たいのだが、汚らわしい、恥ずかしさから見てはいけないものだった。見ると、バカされる。軽蔑されるものであった。

小学生にとって性は幻想である。見たいというのではなく、未知の世界を見てみたいという感情だ。しかし、その世界に近づくことは、なぜか罪悪感を憶えるのである。3人は汚らわしいものからなるべく離れるように、エロ映画館の道路の反対側の歩道を歩いた。

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159字

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1955年生まれの父・稔が半生を振り返って綴り、娘の私が編集して公開していくエッセイです。執筆時期は2013年、57歳でした。

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