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校長室通信HAPPINESS ~余計なことは言わない…正しいフィードバックを心がけよう!

本当のフィードバックとは「ただ事実を伝えるのみ」

  例えば、算数の時間が始まっているのに、漢字練習を続けている子がいるとします。
 こんな時はたいてい、その子の行動を修正するために教師が声をかけます。この声かけのことを「フィードバック」と言います。行動が間違っていたり、その場にそぐわなかったりしたとき、「フィードバック」で正しい行動に導く…珍しいことではありません。教師なら毎日やっていることです。
 ただ、そこでどんな「フィードバック」をするかはとても重要です。子どもの主体性を潰すか伸ばすかの分かれ道。もちろん感情的な言葉や威圧的な指示は禁物です。  
 では、上記の「算数の準備をしない子」への声かけとして、正しいのはどちらでしょうか?
      ① 「今は算数ですよ。早く準備しなさい」    
      ② 「まだ漢字練習を続けているんですね」

 つい①のように言いがちですが、実は正解は②です。正しいフィードバックというのは、プラスの意図もなく、マイナスの意図もなく、ただ事実を伝えるのみなのです。「今あなたはこういう状態ですよ」とだけ伝えます。 
 例えば、姿勢の悪い子には「背筋を伸ばしなさい」ではなく、「背中が丸まっているね」だけでいい。ボーっとしている子には、「ボーっとするな!」ではなく、「今何考えているの?」だけでいい。それ以上何も言わないと、自ら勉強を始めたり、こちらの話を聞こうという姿勢を見せてくれたりするものです。
 フィードバックとは言わば「鏡」のようなものです。朝起きて鏡を見ると寝ぐせがついている。だからといって鏡は「みっともないから寝ぐせを直せ」…とは言いません。にもかかわらず、私たちは寝ぐせを必死に直します。それと同じです。
 何かを正そうとする時、「○○しろ!」と命令する必要はありません。ぐっとこらえて「真実」だけを伝える。なぜならそもそも人は、誰からも何も言われなくても、「もっと良くならないと…」と思う生き物だからです。それなのに「こうしろ」「こうあるべきだ」と他人から言われれば、感情的に穏やかではいられません。正しくフィードバックすることは、親と子、教師と生徒、コーチと選手などの人間関係を良好に保つために必要な支援でもあるのです。

正しいフィードバックは「主体性」を伸ばす!

 このように大人が「事実だけを伝えるフィードバック」を続けていると、大人がいない状態、何も言わない状態でも、子どもが自分自身でフィードバックができるようになってきます。これを「メタ認知能力」と言います。メタ認知とは自分がどのような認知をしているかを認知することです。「事実だけを伝えるフィードバック」は、このメタ認知の能力を高め、さらに自分で判断し、行動する能力を高めます。結果、主体的で自立した人間が育ってきます。
 実は、前述した「漢字練習」のケースは、私がある教室で目撃した、実際に合ったエピソードです。この話には続きがあります。
 その子は必死に漢字練習をしていたのですが、周りの子どもたちは次の時間の算数の準備し始めていました。その子はそれに気づかず、必死に漢字練習を続けています。担任の先生は何も言いません。やがてその子が何気なく顔を上げたそのとき、状況の変化にはっとします。キョロキョロと周りを見て、「やべっ!」と小さくつぶやいて急いで算数の準備をし始めたのです。
 この子は人に言われず、自分の状況を認知し、自分自身で「今は算数の準備をしなくちゃ!」と判断し、行動に移しました。算数の準備をしないで、いつまでも漢字練習をしている自分を客観的に眺めることができた、つまり「メタ認知」できたわけです。担任の先生が気づいていたかどうかは分かりませんが、結果、先生が何も言わなかったおかげで、この子は主体的に行動することができたわけです。こんなふうに、子どもだって、自分をもっと良くするために、自分で自分の行動を修正できるということです。「まだ子どもだから、言ってあげなければ分からない」というのは、大人の勝手な思い込みです。
 少年サッカーの指導場面でも、正しいフィードバックは必要です。「ボールをしっかり止めろ!」「今の動きは違うだろっ!」「もう一回やり直し!」…こんな言葉を投げかけてばかりいたら、子どもたちの「メタ認知能力」は育ちません。子どもを成長させるには、「ボールが止まっていないね」「よく動いているけど、ボールがなかなかもらえないね」と起きた事実だけを伝え、子ども自身の力でどれくらい解決できるかを見守ってあげる時間も必要です。

 大人の声かけは、それが意図的であれ、思いつきであれ、子どもたちの成長に大きな影響を与えてしまいます。そのことを大人は、ちゃんと知っておかなければなりません。だからこそ「正しいフィードバック」を心がけたいものです。                 
                                                                            ※参考文献 【才能の正体】 坪田信貴 幻冬舎

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