見出し画像

[勝手推敲]令和3年8月25日 あぶくま抄「瑞穂黄金」

原文

美食家として知られる北大路魯山人は「特にうまい米はもうそれだけで充分なんだ。他に何もいらなくなっちまうんだね」と言った(山田和著「魯山人 美食の名言」)。新米なら、なおさらだろう
▼会津盆地で瑞穂黄金[みずほこがね]という極わせ種の稲刈りが始まった。この品種を誕生させたのは会津坂下町の故猪俣幸雄さんだ。米どころとして知られている会津だが、日照時間などの影響で収穫は西日本に比べて遅い。古里の新米を早く食卓に届けたい。長年、歯がゆさを感じていたという
▼一九九三(平成五)年に会津地方を襲った冷害が転機となる。猪俣さんは穂が実らない田んぼを肩を落として歩いていた。一本だけ頭[こうべ]を垂れている稲を見つける。低温にも強い品種になるのではないかと考えた。大切に持ち帰り、試行錯誤を繰り返しながら数年かけて増やした。これが会津に秋の訪れを告げる瑞穂黄金となる。天候による受難を逆手に取って積年の願いをかなえた
▼「粟[あわ]一粒は汗一粒」との言葉がある。一粒を育てるため農業者はあまたの労力をかける。おかずがなくてもうまい米に、誕生秘話が加われば味わいは増す。作り手の思いもごはんを光り輝かせる。(2021年8月25日付 福島民報 あぶくま抄)

推敲後

美食家として知られる北大路魯山人は「特にうまい米はもうそれだけで充分なんだ。他に何もいらなくなっちまうんだね」と言った(山田和著「魯山人 美食の名言」)。新米なら、なおさらだろう
▼会津盆地で瑞穂黄金[みずほこがね]という極早生[わせ]種の稲刈りが始まった。会津坂下町の故・猪俣幸雄さんがこの品種を誕生させた。米どころとして知られている会津だが、日照時間などの影響で西日本に比べて収穫は遅い。古里の新米を早く食卓に届けたい。長年、歯がゆさを感じていたという
▼一九九三(平成五)年に会津地方を襲った冷害が転機となる。穂が実らない田んぼを肩を落とし歩いていた猪俣さんは、一本だけ頭[こうべ]を垂れている稲を見つける。低温にも強い品種になるのではないかと考えた。大切に持ち帰り、試行錯誤を繰り返しながら数年かけて増やした。これが会津に秋の訪れを告げる瑞穂黄金となる。天候による受難を逆手に取って積年の願いをかなえた
▼「粟[あわ]一粒は汗一粒」との言葉がある。一粒を育てるため農業者はあまたの労力をかける。おかずがなくてもうまい米に、誕生秘話が加われば味わいは増す。作り手の思いもごはんを光り輝かせる。

後記

『わせ』を『早生[わせ]』と漢字+ふりがなにしました。

会津盆地で瑞穂黄金[みずほこがね]という極わせ種の稲刈りが始まった。

会津盆地で瑞穂黄金[みずほこがね]という極早生[わせ]種の稲刈りが始まった。

二文は連続しているので一文にまとめました。

猪俣さんは穂が実らない田んぼを肩を落として歩いていた。一本だけ頭[こうべ]を垂れている稲を見つける。

穂が実らない田んぼを肩を落とし歩いていた猪俣さんは、一本だけ頭[こうべ]を垂れている稲を見つける。

読点をどちらにつけるか。上は原文で下は推敲案。やはりここは原文の方がしっくりきますね。

『おかずがなくてもうまい米に、誕生秘話が加われば味わいは増す。』
『おかずがなくても、うまい米に誕生秘話が加われば味わいは増す。』

原文のままだとひらがな続きとなるので『うまい米』を『旨い米』にするかも悩みました。しかし冒頭の引用文に『特にうまい米は-』とあるのでひらがなのままにしました。

引用元

-----
瑞穂黄金(8月25日) | 福島民報
https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021082589627
-----

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?