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[勝手推敲]令和3年8月27日 編集日記「似たもの同士」

原文

庶民の心の機微を描いた作家山本周五郎は、勤めをしながら原稿を書いていた駆け出し時代、幾つものペンネームを持っていた。一番有名になった筆名は、勤務先「山本周五郎商店」から取ったことはよく知られている
▼本名は明治36年生まれで「三十六(みとむ)」。数字の入った名前が好きなんだな―と思っていたが、福島市で上演された周五郎原作の舞台を見て、改めて確信した
▼劇の題名は少々物騒だが、喜劇の「ひとごろし」。臆病者の主人公、双子六兵衛(ふたごろくべえ)は、殺人を犯した剣豪を訳あって討つため追いかける。一方の剣豪は仁藤五郎太夫(にとうごろうだゆう)。二人とも名前の一部が、語呂合わせで「256」と読める
▼物語は、弱者が強者を討つため「人殺しー」と叫び追い詰めるという筋立て。知力で暴力に対抗する爽快感はあるが、言葉で人を追い詰める点は、最近の「叩(たた)き」、つまりSNSで有名人の発言を多くの利用者が批判、攻撃する様を連想した
▼だが、さすが大作家。周五郎は二人に、力を持つ者の傲慢(ごうまん)さと、追い詰めた弱者が強者と同じ轍(てつ)を踏みかねない危うさとを語らせ締めくくる。叩く者も叩かれる者も、名前が示す通り、実は似たもの同士だったというのは、考え過ぎかもしれないが。(2021年8月27日付 福島民友新聞社 編集日記)

推敲後

庶民の心の機微を描いた作家山本周五郎は、勤めながら原稿を書いていた駆け出し時代、幾つものペンネームを持っていた。一番有名になった筆名は、勤務先「山本周五郎商店」から取ったことはよく知られている
▼本名は明治36年生まれで「三十六(みとむ)」。数字の入った名前が好きなんだな―と思っていたが、福島市で上演された周五郎原作の舞台を見て改めて確信した
劇の題名は喜劇だが「ひとごろし」と少々物騒だ主人公で臆病者の双子六兵衛(ふたごろくべえ)は、殺人を犯した剣豪を訳あって討つため追いかける。一方の剣豪は仁藤五郎太夫(にとうごろうだゆう)。二人とも名前の一部が語呂合わせで「256」と読める
▼物語は、弱者が強者を討つため「人殺しー」と叫び追い詰めるという筋立て。知力で暴力に対抗する爽快感はあるが、言葉で人を追い詰める点は最近の「叩(たた)き」、つまりSNSで有名人の発言を多くの利用者が批判し攻撃する様を連想した
▼だが、さすが大作家。周五郎は二人に、力を持つ者の傲慢(ごうまん)さと、追い詰めた弱者が強者と同じ轍(てつ)を踏みかねない危うさとを語らせ締めくくる。叩く者も叩かれる者も、名前が示す通り、実は似たもの同士だったというのは考え過ぎかもしれないが。

後記

『勤める』からなので『勤めながら』かなと。『お勤め』であれば『勤めをしながら』となるのではないかと考えました。

(原文)勤めをしながら

(推敲後)勤めながら

『だが』の使い方を考えて

(原文)劇の題名は少々物騒だが、喜劇の「ひとごろし」。

(推敲後)劇の題名は喜劇だが「ひとごろし」と少々物騒だ。


引用元

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【8月27日付編集日記】似たもの同士:編集日記:福島民友新聞社 みんゆうNet
https://www.minyu-net.com/shasetsu/nikki/FM20210827-650944.php
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