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段取七分で仕事が三分

仕事というのは、大体のところ事前準備で決まってしまう。

準備のことを段取りと言うが、段取りが良ければ後の仕事は速く正確にきれいにできる。反対に段取りが悪いと、やり始めてから、あれが無いこれが無いと部品不足に直面し、途中まで進めた仕事が具合悪くなって元に戻ってやり直しなどと言う事がよくある。

段取りの良い仕事屋を見ていると、なかなか手を下さない。何か考えているのである。時間は過ぎるが仕事は始まらず見ていてハラハラするくらいであるが、一旦始めると流れるような動きの中で作業が実を結んで、終わってみれば実に素早い仕事になっている。本人はあまり汗をかかないし、ケガをすることもない。

反対に、段取り下手な人はそそくさと仕事にかかって忙しそうに立ち働く。あっちこっち歩き回って物を取りに行ったり置きに行ったりして休む間もない。そのうち部品が足りないことが判って買いに走る。そろそろ出来上がりに見える頃、材料が違っていたと怒り出す。仕方が無いから切り縮めて何とか製品に生かそうと懸命に働く。全身大汗をかいてくたびれるが製品は必ずしも良い出来ではない。

当社の仕事も、上手く行くかどうかは、実は受注して図面にかかる前にあらかた決まってしまう。バラ図を書き出した時点では成否が見えてしまっている事が多い。その工事の急所はどこか、何に注意するか、部品数を減らして工場のリスクと負担をどう無くすか、金型をどう作るか、どの機械をどう利用するかなどの問題点を「潰して」おいてから作業にかかる場合には、よほどの事が無い限り無難に流れて、結果的に利益を確保できる。

黒澤 明の「七人の侍」に居合いの達人が勝負する場面がある。対決して睨みあっただけで、「この勝負おぬしの負けだ」と一方が見抜く。刀も抜いていないのに勝敗の行方を見切っている。すると相手は猛り狂って「何を!」と叫ぶが、立会いの結果は居合の圧勝である。

某社の仙台支店にいた某氏は段取りの名人だった。打合せやサンプル作成までは骨が折れたが、注文を貰う段階で、やる前からその工事は「上手く行った」(うまく行くだろうではなくて)と、成功が確信できたものである。今思っても、某氏は鞘の中で勝負を決めた居合いの達人のようだった。

☞『迷いの時代に』より「段取七分で仕事が三分」


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