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走って逃げたあのクリスマスの日

学生時代の私は限りなくアホだった

 こんな見出しをつけさせてもらったが、30過ぎた今でも十分にアホであることは最初に記しておこう。自分でもわかってる。言わないで。

ただ、学生時代は輪をかけてアホだったということが言いたいだけだ。

なぜアホの子になってしまったかというと、親の厳しさから解放されたことが大きかった。

私には兄と姉がいるのだが、見事に2人とも中学~高校にかけてグレた。
姉はちょいギャル気取りぐらいのグレ方だったが、兄は高校を出てからもグレていて、大人になって更生した本人曰く「マジでヤ〇ザになる一歩手前までいってた」と、酔っ払いながら弟たる私に聞かせてくれた。

いや、元々無口で目つきが悪い兄を怖がってたのに、そんな話聞かされたらもっと怖いって! ずっとずっと父より兄の方が怖かったんだから!
コンクリート地面に放り投げられたの、忘れてないんだからねっ!!

 おっと、いつもどおり脱線しちまった。トーマスも真っ青だぜ。

 まあ何が言いたいかというと、上2人がグレてたから親は末っ子の私に期待してたし、私も末っ子ながらに「1人ぐらいはちゃんとしないとな……」と気を遣っていたわけだ。

 そんなわけで何となく大学に進学したものの、ぶっちゃけ私は調理師専門学校に行きたかったし、なんなら高卒で働きたかったのが本音だ。

しかしうちは貧乏ではなかったが裕福でもなかったため、授業料が目ん玉飛び出るぐらいに高い(らしい)調理師専門学校に行きたいとは言い出せず、ホントに何となくで大学に行くことにした。

 だがここで真面目ちゃんだった私に1つの転機が訪れた。

「お兄ちゃんが戻ってきて、専門学校に通うことになった。」

 ある日の夜、母からそう聞かされた。

なんでも、グレにグレてた兄が結婚したいと思えるほどの女性を見つけたらしく、まっとうな人生を歩もうとしている、とのこと。

 そんなこんなで兄が本当に実家に戻ってきて、真面目に勉強し始めたのだった。

 本気でまっとうに生きようとしている兄の姿を見て、私は両親にクズ宣言をすることになる。

アホのクズ宣言

「今まで真面目に頑張ってきた分、これからは自由にさせてもらう!」

 ぶっちゃけ、当てつけ以外のなんでもなかった。
言外に「お兄ちゃんとお姉ちゃんの分まで頑張らせたでしょ?」と責めたようなもんだ。あの時の父と母よ、すまん。

 両親ともに私が気を遣いながら生きていたことには気づいていたようで、一言「わかった」と言ってからは他に何も言わなかった。

 ここから視世陽木のスーパーフィーバータイムが始まる。
海物語のマリンちゃんもウリンちゃんも、ついでにサムもびっくりなほどのフィーバータイムだ。

 まずはわかりやすく髪を染めてみた。グッバイ黒髪。

「茶色とか金髪とかは普通すぎるよな……」

という思考のラビリンスに足を突っ込み、緑やら紫やら青やらピンクやら、周りに染めてる人がいない色を探し求めては染めていた。
(田舎なので染めてる人でも圧倒的に茶色か金髪ばかりだった)

 ちなみに私は教育学部だった。
別に教育学部だからって色鮮やかな髪色に染めてはいけないわけではないが、髪色のことでプチ事件が起こったこともあったがそれは別の話。

 ある日いきなり髪を染めて帰宅してきた私に両親は当然びっくりしていた。しかしそれでも何も言わず、「おかえり」とだけ言ってくれた。
「自由にさせてもらう!」とは言ったが別にグレたわけではないので、ちゃんと「ただいま」と言った。えらい。すてき。

悲劇の始まり

 学生時代のある年のクリスマス、完全に自由人と化していた私の身に不幸が襲い掛かる。……ネタバレになるけど、完全に自業自得だ。

 彼女がいなかった私は、これまた彼女がいなかった友人と居酒屋でファッキンクリスマス会を開催。参加者2人しかいねーじゃねーかよ!と突っ込んだら負けです。そっと気づかなかったふりをしなさい。

「全世界のカップルめ! 選んだプレゼント、思いっ切りハズして滑って気まずい空気になりやがれ!」

と悪態をつきながら楽しく飲んだ。クズ極まれり。

 居酒屋でしこたま飲んだ私達は「次はカラオケだぁ、シャッハ~!!」と意気揚々と歩いていた。

道中で友人が「腎臓により生産される血液中の水分や不要物、老廃物からなる液体状の排泄物を体外に放出したい」と言い出したのでコンビニに寄ることに。

 一目散にトイレに駆け込む友人であったが、私の目にはそんなものは映らなかった。

 なぜなら、入ってすぐのディスプレイ棚に、私が大好きなものが飾られていたからだ。

そう、冒頭に何の説明もなく登場させられた ダンシングサンタクロース 様 だ。

 この人形、皆様はご存知だろうか?

 ボタンを押すなりセンサーにかかるなりした時に、クリスマスソングを奏でながら腰をフリフリする可愛いらしい髭面おっさん人形だ。

 コンビニに置いてあったものはボタン式だったため、何度も何度もポチって髭面のおっさんに腰を振らせていた。いや、変な意味じゃなく。

ダンシングサンタ事件

♪ We wish you a merry Christmas ~

 軽快に腰を振るおっさんの姿を楽しんでいると、奥の飲み物の棚に友人の姿が見えた。

ここで私の頭にピンッと閃くものがあった。

私はゆっくりこっそり友人に近づいた。ニヤニヤが止まらない。

 いまだじっくり商品を選んでいる友人の真後ろに到着した私は、彼の肩をポンッと軽く叩き、腰をクネクネさせながら低い声で ♪ We wish you a merry Christmas ~ と歌った。

ぱっと振り向く友人・・・・・・じゃないだと!!?
完全に知らん人だ!! やべぇ!!!

 色が抜けて真っ金金の髪のヤンキーチックな男が、知らない人の肩を軽く叩いて ♪ We wish you a merry Christmas ~ と歌いながら腰をクネクネさせているという構図。下手したら通報案件、カツアゲにしても斬新すぎる。

 完全にやらかしてしまった私なのだが、事態はさらに悪化する

(心の声)「ここでパッとやめたりしたら、間違えた人って思われるぞ!」

 パッとやめようがどうしようが「間違えた人」だという事実は変わらない。それなのになぜか「間違えた人じゃない自分」を演じようとする私がいた。アホなのか? アホなのだ。

 クソみたいな思考に囚われた私は、振り向いて「えっ!? 何このヤンキー!? やばっ!」という顔をした見知らぬ人にニコッと微笑み、何事もなかったかのように腰をフリフリしながら通過してやった

 腰をフリフリしたまま店内半周を練り歩き、店外へ。
店内からは見えない場所に到達すると同時に、人生最速のスピードで走った。

走って逃げたあのクリスマスの日の思い出。

一方 友人は

 トイレから出ると、店内が笑いに包まれていたらしい。
数人いたお客さんはともかく、仕事中だろう店員まで笑っていたという。

 しかしそこに視世陽木の姿がない。
友人の中に怒涛の勢いで「あいつ、何かやらかしてないだろうな!?」という思いが込み上げてきた。

「あのぉ、何かあったんですか?」

 意を決して、自分と似たような恰好をしていたお客さんに声をかけた。

 すると、まだ笑いが収まらない様子でこう聞かせてくれた。

「いやぁ、金髪のヤンキーの兄ちゃんが、あそこ、入口にあるサンタの人形の真似をしながら店内を歩き回ってたんですよ!」

思い出し笑いをこらえきれずにプフフと笑う男性とは裏腹に、我が友人は羞恥で顔が赤くなっていないことを切に願っていたという。

「あの人、絶対誰かと間違ってたよね!」

お連れ様であろうか、これまたニヤニヤした女性が会話に入ってきたため、恰好が似ていることに気づかれる前にと、「ありがとうございました!」と礼を言って、これまた逃げるように店外へ出て走ったらしい。

後日談

 友人から「頼むから一緒にいる時は恥ずかしいことしないでくれ!」としこたま説教を受けた。いや、こっちだってあんなことになるとは思ってなかったんだよ、すまんね。反省はしてないけど、とりあえず口だけで謝った。

 しかし噂とは怖いもので、サークルの部室で後輩からこんな話を聞かされることとなる。

「視世さん、知ってます? 〇〇町のコンビニに、ダンシングサンタの真似をするヤンキーが現れるらしいっすよ!」

 あうちっ!

 いや、確かに現れたのは事実だけどね?
何でたびたび出没する、みたいな噂になってんのさ!?

「へ、へぇ~、そうなんだ……」

 興味がないふりで誤魔化したのだが、あの後輩は真実に辿り着いたのだろうか?

この話を夜に読んだら、ちょっと眠れなくなるかな?
思い出しただけで恥ずかしいながらも、良い思い出である・・・・わけねぇだろ!! アホほど恥ずかしかったわ!!

あの当時の関係者の皆様、本当に申し訳ない。

終わり

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