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大好きな漫画「ハンチョウ」について。

ここ数年、とても気に入っている大好きなマンガがある。

「1日外出録ハンチョウ」。何でもない日常をたのしむおじさんたちを描く怪作だ。

どこから読んでも変わらぬおもしろさ。ふとした時間に既刊のエピソードを読み、新刊が出るのを待ち遠しく思っている。

スピンオフ作品だが、単体でたのしめる

この作品は「賭博黙示録カイジ」という有名作品のスピンオフとして生まれた。カイジが借金を重ねて地下の労働施設に送られ、そこで出会ったのが、当時のリーダー格である「ハンチョウ」(E班・班長)こと大槻。

その人物が主人公になっている、いわゆる日常系ほのぼの漫画。スピンオフ作品だがこれだけ読んでも十分におもしろい。

「ハンチョウ」では大槻とその部下の沼川、石和らが、地下施設でいかに工夫を重ねてたのしく生きているか、たまに1日だけ地上に出ることを許されたときにはどんな娯楽を満喫しているのかを描く。

普段は地下で抑圧されているからこそ、1日だけの“外出録”が輝くのである。

実際、第1話から圧倒されてしまった。

連載第1回目、貴重な1日外出の権利を得た大槻が向かった先はただの立ち食いそば屋だった。

「なんでわざわざこんなお店に!?」

われわれ読者も監視の黒服も驚くが、大槻には当然それなりの考えがあった。その仕掛けを知ったときには大いに感動したものだ。

ほかにも名エピソードはたくさん。ブルボンドラフト会議、深夜のコンビニでどか食い、思い出の町中華、風邪のひき始めの回復術。人気投票の上位に出てくるものはすべて良い…。

特に第13位の「絵心」は、創作をたのしむための原点のような話でめちゃくちゃ良いんだ…。

本当にもう、主人公たちの暮らす日々が永遠に続きますように、と願わずにいられない。地下生活だけど。

さて、この作品の好きなポイントはたくさんあるのだが、いくつか挙げてみたい。

もりだくさん・・・姑息なライフハック…!

大槻が「クックック…」「ヘタッピ…」と笑いながら披露してくるライフハックはだいたい姑息…!だが悪魔的に魅力的…!

たとえばぼくはコンビニでカップ氷とウィスキーの小瓶と炭酸を買って、その場でハイボールを作るのが好きなのだが、なんかそういうなんでもないハックのようなものがハンチョウの根底にもある気がする。

たぶん誰もが自分のなかにハンチョウ性のようなものを内包していて、だからきっと読むと絶対に気になるやつが出てくるはずなのだ。

消費する…関係性…!

とはいえ、ハンチョウを読んでいると、だんだんとライフハックとか知識はどうでもよくなってくる。ただただ、大槻と沼川、石和、その他地下の面々、一足先に地上に出た仲間、それを取り巻く黒服、そして宮本、彼らが相互に関係しながら過ぎていく日常がたまらなくいい。

要は、みんなの関係性が好きなんだ。

沼川と石和のやり取り、ハンチョウと宮本、地下の人々の一致団結。すべてが良い。なにもせず、ただの日常を切り取る回もあるが、それが一番愛おしく感じる。ハンチョウに出てくるみんなの、全おじさんの関係性を消費したいのである。

体言止めと倒置法

読んでみればわかる、独特のト書き。カイジでも多用されてきた謎の倒置法と体言止めの嵐にはじめは圧倒されるが、だんだんと癖になる。

具体的に説明するのはむずかしいのだが、ハンチョウの公式Twitterアカウントの文体が参考になる。「入ったのは、洋食屋…!」「目にするのは、ランチ…!」「読める、コミックデイズでも…!」みたいな感じである。

いや、だからなんだよ、と思われるかもしれないが、このト書きというか、ナレーション的なものも含めてハンチョウの魅力なのだ。ちびまる子ちゃんのナレーションみたいなものだと思ってほしい。

きっと真似してみたくなる

ぼくはスーツを着て立ち食いそば屋に行ったし、横浜まで歩いたし、風邪のひきはじめには温かい鍋料理を食べて布団をぐるぐる巻きにして寝るようにしている。

いまはちょっとした手帳を買って、絵を描いてみたいと思っている。とにかく影響を受けているのだ。

というわけで、

めちゃくちゃ大好きなこの漫画。じつはたのしさを教えてくれたのは、意外にも、あの人気ポッドキャスト「Rebuild」パーソナリティでエンジニアの宮川さん。

ドングリFMのゲストに出てくれたときに、おすすめ本として「ハンチョウ」を挙げてくれた。え、宮川さん、ハンチョウ読むの!?とめちゃくちゃ驚いたものだが、読んでみると、たしかに、これは深い。

(宮川さんのゲスト回。タイトルは一日外出録から取った)

地下があるから地上が輝くのと同じように、何らかの制限が加わるからこそ、そこにクリエイティビティが発揮されるという瞬間は誰にもあるはず。

ハンチョウの地下の生活と、地上の振る舞いを見ていると、そのどちらも愛おしく、いいなぁーこれ、ぼくもいっそ地下施設に行きたいなあなんて思ってしまうのである。

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