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創作『1億円のロープ』

引いたカードはこれ。時間無制限でお話しつくってみました。

 
 何もない、真っ白な部屋だった。

 ここが最終【ゲーム】の会場なのか。彼は息をのんだ。

『よくぞここまでたどり着きましたね』
 響き渡る【ゲーム】主催者の声。しかし、やはりその姿はない。
『最後の【ゲーム】はとてもシンプルです。そこに2本のロープが見えますね』
 壁から2本、ロープが垂れ下がっている。1本は短くて赤色のロープ。1本は長くて青色のロープ。彼はそれを凝視した。
『2本のうち、1本はハズレです。ハズレを引くと、無数の矢があなたにむかって降り注ぎます。アタリを引けば晴れて解放、1億円を手にし、この島からオサラバできます。言うなればそれは、1億円のロープと言ったところですか』

 ここにきて、単なる運試しか。どれだけ俺たちの運命を弄べば気が済むんだ。
 いや、これは運試しではない。思えばここまでの【ゲーム】でも5回、“赤”と“青”の選択を迫られた。確か3回が赤、2回が青……が、その時の【ゲーム】の正解だった。
 さらに。“短い”か“長い”の選択も5回あった。2回が短い、3回が長い……が正解だった。
 彼はこれまでのように思考をめぐらせた。それと同時に、仲間たちの顔が思い浮かんでくる。
 ──みんな死んだ。死んでしまった。信頼しあっていた仲間たちは皆、疑心暗鬼になって、裏切り、謀略をめぐらし、殺しあっていった。1億円なんていう“はした金”のために命を賭けたのだ。最後に残ったのは俺だけ。そう、たった一人だけ。

『そう、たどり着いたのはあなた一人。そう、これでは【ゲーム】が成り立たない。そこで』

 壁の一部が開いた。そこから出てきたのは――。
 その男を見て、彼は目を見開いた。

「お前は……お前が、黒幕だったのか」
「そう、僕だよ」

 一番最初の【ゲーム】で命を落としたはずの、彼の親友がそこにいた。

「一体、どうして……こんな」
「ふ。ふふ。キミと昔のように、【ゲーム】を楽しむことが僕の夢だったのさ。ここでの【ゲーム】は僕が考えたものなんだ。そしてすべては、この最後の【ゲーム】を創り出すための伏線。さぁ、最後のゲームを楽しもう。さて、君はどっちのロープを選ぶ?」

 憎くて憎くて仕方のない相手が目の前にいる。言いたいことは山ほどあるし、殴り殺してやりたい。しかし、その想いに反して、彼は不思議と穏やかな表情となっていた。
ああ、そうだ。俺はこいつと同類だったのだ。今、彼は気づいた。【ゲーム】を楽しんでいたことに。そして感じていた。仲間たちを出し抜いた、歓びを。そして、この【ゲーム】がここに完成したことの喜びを。

「やはり君は、君こそが僕の友達だ。語る言葉はもういらない。さぁ、選んで」

 彼は笑い、そして、迷いなく。そのロープを──つかんだ。

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