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(3)天について-竹簡孫子 計篇第一

天とは、陰陽(いんよう)、寒暑(かんしょ)・時制(じせい)なり。順逆(じゅんぎゃく)にして兵は勝つなり。

孫子にとってこれまで「天」は謎であった。従来の解釈では、「天」についての説明がないとされていた。「孫子」の中には「地」についての説明はあるのに対して、「天」の説明がない。

また、武経七書をはじめとする現行孫子と竹簡孫子の間にも記述の相違がある。「順逆(じゅんぎゃく)にして兵は勝つなり」の記述が竹簡版にしか存在しないのです。

ここで「順逆」とは一体どういう意味であるのか、孫子研究家の間で議論され長い間の謎でした。

私は、緻密な読み込みをした結果、2020年、地形篇第十の最後の記述が「天」と「順逆」の説明であることに気がつきました。

吾が卒の以て撃つ可(べ)きを知るも、而も敵の撃つ可からざるを知らざるは、勝の半(なか)ばなり。敵の撃つ可きを知るも、而も吾が卒の以て撃つ可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。敵の撃つ可きを知り、吾が卒の以て撃つ可きを知るも、而も地形の以て戦う可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。故に兵を知る者は、動いて迷わず、挙げて窮せず。故に曰く、彼を知りて己を知れば、勝乃ち殆(あや)うからず。地を知りて天を知れば、勝乃ち全(まっと)うす可しと。(地形篇 第十)

本書では、次のように訳しました。
我が軍の兵士が敵軍を攻撃するのに相応しいタイミングを得ていることを知っていても、敵軍が我が軍を攻撃するに相応しいタイミングを失っていることを知らなければ、仮に勝利しても兵力の半数を失ってしまいます。
また敵軍が我が軍を攻撃するのに相応しいタイミングを得ていることを知っていても、我が軍が敵を攻撃するのに相応しいタイミングを失っていることを知らなければ、仮に勝利しても兵力の半数を失ってしまいます。
敵が好機であることを知り、我が軍も好機であることを知っていても、地形によって戦ってはいけない状況であることを知らなければ、仮に勝利しても兵力の半数を失ってしまいます。

したがって軍事に精通している者は、季節や天候などタイミングに応じた戦い方を知っているために行動に迷いがなく、挙兵した後で、食料の確保などの計画に失敗して困窮することもないのです。
だからこのように言われるのです。「(天の観点から)敵情を察知し、自軍の実情も正確に把握していれば、危なげなく勝利できるのである。地形の原則を理解し、さらに天の時を把握することができれば、敵味方の戦力を保全するような完全な勝利を手に入れることができるのである」と。


これまでの孫子の解説者は、本文を下記のように「軍の体制」の説明であるとしていました。

我が軍が攻撃できる体制であることを知っていても、敵を攻撃できない体制であることを知らなければ、勝利は50%である。
敵を攻撃できる体制であることを知っていても、我が軍が攻撃できない体制であることを知らなければ、勝利は50%である。
敵を攻撃できる体制であることを知り、我が軍が攻撃できる体制であることを知っていても、地形を知らなければ勝利は50%である。


しかしこの文章は、非常に違和感のある文章です。漢文で読むと、助詞、「てにをは」が狂うのです。
一文目と二文目の助詞の使い方を揃えると、前者の解釈が見えてきます。この解釈はまさに「順逆にして兵勝ちなり」の内容に合致します。

天候、日照りや水不足、豊作や不作、疫病、などによって、自国と敵国の有利不利の状況を知っているかということを述べており、知らなければ、勝利しても被害を受ける。「勝ちは半ばなり」ということなのです。

自国の状況が不利な状況であっても良いのです。自国の状況、敵国の状況をを理解していないと被害を受けるということです。

「半ば」は、兵の半数を失うと解釈する理由は、孫子のおける「勝」という字には「全」の勝利の場合と、「破」の勝利の場合の2種類があります。孫子では理想的な勝利を「全き」と言って、敵と味方に被害がないことを目指しています。

天を知らなければ、勝っても兵力の半数を失う。そして「天」よりも「地」の方が重要であるとも言っています。「地」を知らなければ、「天」を知っていても被害を受ける。

では、この「天」を現代のビジネスや人生に活用するにはどうすれば良いでしょうか。

スライド18

「天」とは、「陰陽」、気の変化である。つまり波線グラフを想像すると良いでしょう。寒暑はホットとクール、高い低いということです。グラフにすると縦線です。時制は、季節の変化などです。これは横軸、時間軸です。

波線グラフが高い時、自分に風が吹いている時です。吹いている風に乗るのを「順」と言います。株価が上がって、積極的に投資するようなイメージでしょうか。

反対に、株価が下がって資産が目減りしているような時、マイナスの状況を利用して資産の組み替えをするのを「逆」と言えるでしょう。

こういう状況に応じた動きができるかどうかが「天」の概念になります。

孫子では、様々な要素が、敵と味方の状況を陰陽のように入れ替えます。
「死生」や「存亡」「虚実」「形勢」「奇正」「静動」などの概念です。

「天」は陰陽であり、それは自然法則です。孫子も陰陽であり、自然法則です。「天」の法則に則った戦略や経営を行うためのヒントが孫子にはあります。










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