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(16)君主と将軍の関係-竹簡孫子 謀攻篇第三

それでは君主と将軍の関係を見ていきましょう。
ここで述べられの両者の関係は「謀攻」の現場、自国の城の中での関係について述べております。

将軍が、軍隊を率いて戦場に赴いている時は、君主の干渉は多くありません。君主と将軍が密接であれば国は強くなり、隙間があれば国は弱くなります。

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夫れ将とは国の輔(たすけ)なり。輔周(しゅう)なれば則ち国は必ず強く、輔隙(すき)あれば則ち国は必ず弱し。

将軍とは「輔」ですから、国家においては、「陰」です。君主は「陽」になります。君主と将軍が、仲の良い夫婦のように助け合っていれば、生成発展します。「陰陽」が合体すれば生成発展する。

将軍が「陰」であるということは、樹木であれば根幹であるということです。君主は、「陽」であり枝葉実ということになります。

君主が将軍の邪魔をし仕事に干渉するということは、枝葉が根幹を傷つけるようなもので、本末転倒と言わざる得ません。夫が妻を虐めて、家庭が暗くじめじめしているようなものです。

君主が君主として威厳を発揮するのは、将軍から尊敬されているからです。しかし将軍を抑えつけようとし将軍を不自由にしてしまえば、君主は君主としての信望を失います。

それでは謀攻篇にある一節を読んでみましょう。

故に君の軍を患わす所以の者は三あり。
軍の以て進む可(べ)からざるを知らずして、之れに進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、之れに退けと謂う。是れ軍を縻(つな)ぐと謂う。
三軍の事を知らずして、三軍の政(せい)を同じゅうすれば、則ち軍士惑(まど)う。
三軍の権を知らずして、三軍の任を同じゅうすれば、則ち軍士疑(うたが)う。

一つ目の「縻軍」は、軍隊の配備について将軍と君主の考えが分かれ、将軍の考えに反する命令を出すことです。そうすることで軍隊は動けなくなります。
というのは、社長と部長の考えが違う場合、社長の命令に無条件に従うことができないのと一緒です。部下はこれまで直属の上司の元で働いており、部長の考えに従っているのです。まさに「隙あらば」の関係になります。

二つ目の「三軍の事を知らずして、三軍の政(せい)を同じゅうすれば、則ち軍士惑(まど)う」とは、軍隊の事情を知らないのに、無配慮に統治を行い、将軍を従わせることです。これまでの将軍の命令や考えと違う命令が出ることで、兵士たちは何が正しいのか迷わせてしまうという事です。

三つ目の「三軍の権を知らずして、三軍の任を同じゅうすれば、則ち軍士疑う」とは、軍隊内の職責や責任の所在を知らないのに、無配慮に任務を与え命令を出す事です。そうすると兵たちは、将軍の与えた職責や任務を疑い、さらに将軍が君主に信任されているか疑いだします。

将軍とは、国家にとって「陰」の存在、つまり「謀」の役目を持ちます。その将軍が信任されていないとなれば、「謀」が機能してないということになります。

三軍既に惑い疑わば、諸侯の難至る。是れを軍を乱して勝を引くと謂う。

ここの「勝」は、前述した通り、「全き」を含む勝利のことです。諸侯に隙を突かれ戦争が起こるのは、すなわち共存共栄の方針が成り立たなくなるという事です。

将軍が信任されて、君主との間に信頼関係があってはじめて「謀攻」が上手くいっていることを知ることができます。


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