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(9)詭道について-竹簡孫子 計篇第一

私が「竹簡孫子」の研究を行なっている中で、五つほど大きな発見があり、その度に孫子の兵法理論をバージョンアップさせてきました。

(1)孫子と陰陽相対原理との合致(2)天の解釈の発見(3)圮地と絶地の関係の発見(4)九地篇の構成(5)詭道の新発見

今回の軌道の新解釈の発見は、他の4つの発見を土台にしなければ発見できませんでした。

私は、「詭道」を「騙す事」「詐術」ではなく、目に見えない不思議な要因、目に見えない部分の道(タオ)であると解釈をします。

目に目ない不思議の要素です。

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何故このような解釈が生まれたのか、なぜこのような解釈が成立するのか5つの視点から解説します。

(1)陰陽相待原理(自然摂理)に反するから(詐術を原理原則とする法則や哲学が存在しない)
(2)「詭」の漢字の意味(字源による)
(3)詭道の文脈から
(4)全体の主張との矛盾
(5)目に見えない要素を大切にする経営者の言葉や考えから

(1)陰陽相待原理、宇宙法則/自然摂理から
私の「竹簡孫子」の研究は、宇宙法則と自然摂理ともいえる陰陽相待原理と合致するという仮説からスタートしました。約2500年前に生きていた孫武という思想家は、宇宙法則/自然摂理を軍事で解説した。それが「孫子」である。

本書は、孫子は全文通して陰陽相待原理と合致する兵法理論であることから、「詭道」が「詐術」でないということを導き出しました。

(2)「詭」の漢字の意味(字源による)
「詭」を「字源」で調べると、「騙す」「異なる」「妖し」などの意味があります。「妖し」は、普通ではない事物、不思議さを意味します。この不思議さは、「詭道なり」のその後に続く「故に能なるも之れに不能を視(しめ)し、用なるも之れに不用を視す。近きも之れに遠きを視し、遠きも之れに近きを視す」の意味と合致します。
ここでは「視めす」は、「見せる」ではなく「見える」と訳します。

(3)詭道の構成から
それでは「詭道」について述べる箇所の構成を見ていきましょう。

1兵は詭道なり。
2故に能なるも之れに不能を視し、用なるも之れに不用を視す。近きも之れに遠きを視し、遠きも之れに近きを視す。
3故に利なれば而ち之れを誘い、乱なれば而ち之れを取る。実なれば而ちに備え、強なれば而ち之れを避け、怒なれば而ち之れを撓す。
4其の無備を攻め、其の不意に出づ。
5此れ、兵家の勝にして、先に伝う可(べ)からざるなり。


まず1で、「軍事の要諦は、詭道、不思議な要素である」という結論を述べる。
2で、「詭道」の不思議な要素がどういうものであるかを説明する。「できてもできないように見える、必要でも不必要に見える、近くて(身近)も遠く(深淵)に見える、遠くても近くに見える」と。

3で、その不思議な要素を活用することでできることを述べる。「そうやって目に見えないところまで見通すからこそ、利益を使って誘い出し、混乱させて奪い取ることができる。敵の戦力が充実していれば我が軍の体制を備え、精強な時は戦いを避けて、闘争心に溢れる時は撹乱させることができる」と。

4で、3で述べたことをまとめると「敵が備えていない所を攻めて不意を突く」であると。

5最後に、「詭道」の特徴を述べる。つまりそれは「こうすれば良いと表現できない」ものであると。

このように「詭道」を目に見えない不思議な要素を解釈すると、その後の説明が矛盾なく繋がります。

従来の現行孫子では、詭道十三変、もしくは詭道十四変とって、その後の文章が同列に並び、私の新解釈ではあった三段論法がなくなってしまいます。

故に能なるも之に不能を示し、用なるもに不用を示し、近くとも之に遠きを示し、遠くとも之に近きを示し、利にして之を誘い、乱にして之を取り、実にして之に備え、強にして之を避け、怒にして之を撓だし、卑にして之を驕らせ、佚にしてを労し、親にして之を離す。其の無備を攻め、其の不意に出ず。(原稿孫子 詭道)


(4)全体の主張との矛盾
詭道の内容は、九地篇第十一の「王覇の軍」の主張と矛盾します。

九地篇第十一の「王覇の軍」では「是の故に天下の交を争わず、天下の権を養わず、己(おの)れを信(の)べ私を之いて、威は敵に加わる」、その現代訳は「つまり躍起になって和平工作・同盟工作をするべきではなく、また覇権を築こうと画策する必要もないのです。ただただ自己の志、硬い意思を表明することで、武威を敵に伝えるのです」とあります。

この一節と「詭道」の説明が一致していません。九地篇第十一の内容は、奇の兵法についてであり、敵軍の優位をいかにひっくり返すのかについて言及するにも関わらずです。九地篇第十一と矛盾するということは、「詭道」の従来の解釈が間違っている重大な証拠ではないでしょうか。

(5)目に見えない要素を大切にする経営者の言葉や考えから
5つ目の理由は、直接的な証拠ではありません。例えば、パナソニック創業者、経営の神様と言われる松下幸之助氏や京セラの稲盛和夫氏などの著書を読んでいると、目に見えない要因を大切にするという内容があります。松下幸之助氏、稲盛和夫氏に限らず、多くの名経営者が目に見える要因よりも目に見えない要因を大切にするという発言をしています。

この「目に見えない要因」こそが「詭道」であるという解釈です。新しい「詭道」の解釈が、経営を発展させる要諦と合致するのです。

この五つの視点から私は、「詭道」の新解釈を提案したいと思います。


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