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とくになにもなかった平凡スーパーチューズデー/2024米国セカイ系大統領選 観戦記#2

3月6日(火)はスーパーチューズデーだった。
民主党・共和党の各党が一名ずつ指名する大統領候補。その候補者の座を競う予備選挙。予備選挙は1月中旬に始まり、以降だいたい一週間に一州のペースで行われるが、この3月初旬の火曜日には10州を超える州(今年は15州)、その中には大票田のカリフォルニア州とテキサス州も含まれる、が一斉に予備選挙を行い、予備選挙の趨勢がここで決まるために「スーパー」なチューズデーと呼ばれている。

とはいえ、今年2024年のスーパーチューズデーは熱心に追うまでもない。結果は明らかなため。

まず、民主党はバイデンが再選をねらっているため党をあげて協力しており、最初から事実上の不戦勝で、民主党における予備選挙はすべて消化試合。(イスラエル-パレスチナ紛争を巡ってのUNCOMITTED(白票)運動云々はあったが、そういうのはこのシリーズでは関係ないので)
なので、予備選挙が機能するのは共和党だけだが、こちらもトランプ圧勝なのはずっと前から目に見えていた。

投票を行った各州のアメリカ国民は、そうはいっても目が離せないかもしれないが、そうじゃない身としてはだらだらCNNとFOX Newsを行き来するだけ。
その中でも目にとまったいくつかのことを記録しておく。

米国は広大ゆえ国内に時差があり、つまり一斉開票とならない。東部州から順に開票していく。
その開票の随分前から「最初の開票まであと◯時間◯分◯秒」と常にカウントダウン表示が出されていた。ぼんやりとした記憶ではたぶん3時間前から。以下はその写真。

CNN 左下にカウントダウン
FOX News 右下にカウントダウン

これは日本の衆院選・参院選でも見られる。
ただ、3時間前からではないはずで大体30~15分前くらいからではなかっただろうか。
報道番組として選挙に力を入れている、という見方もできるが、やはりここには強いショウアップを感じる。

開票時間が訪れると、続々と「◯◯州トランプ勝利確実」「◯◯州バイデン勝利確実」「◯◯州接戦か」のような情報がめまぐるしくなる。これは日本と同じ。

そんななか、異なっていたのはCM中の画面。以下はCM中の画面を撮影したもの。番組内の一幕ではない。画面内の各四角の枠に注目。

FOX News
CNN
CNN

ひょっとしたら日本でもCM中にL字表示で開票速報を表示していたかもしれないが、CM映像画面をここまで縮小し、あまつさえ番組名や局ロゴなど出していないはずだ。普通に考えてスポンサーがそれを許さない。
チャンネルを絶対に変えられてはならない、という強い意志を感じる。

スーパーチューズデーで目に留まったのはこれくらいだった。

余談だが別の観点で、なるほどねぇ、と思ったのが「アメリカ領サモア」の民主党 党員集会結果の報道である。

サモアもこのスーパーチューズデーで民主党の予備選挙(党員集会)を行った。(共和党は別日)
そして、今回の予備選挙で初めて現職大統領のバイデンが他候補者に破れた。バイデンを破った対立候補者は無名の、謎の実業家だった。
現職が再選をねらった予備選挙で負けるのは1980年のカーター以来初めてのことらしい。
https://en.wikipedia.org/wiki/2024_American_Samoa_Democratic_presidential_caucuses

この知らせは即座にニュースメディアとSNSをかけ巡った。おもしろニュースとして。
負けた相手が誰も知らない謎の実業家だったのがまた味わい深い。
サモアはときに、アメリカ本土とは全く別の選挙結果になるらしく、日本風にいうと「またサモアか」「サモア草」のようなイジられをしていた。(ちなみに、サモアでも共和党はトランプが圧勝)

以下はCNNがこの件を、それまでの各州の戦況から離れた「一服の清涼剤」的におもしろニュースとして報じたときのもの。キャスターの雰囲気もそれまでと一転してカジュアルなものになっている。

なごやかな表情のキャスター
右側のJASON PALMERがバイデンを破った。
"LITTLE-KNOWN JASON PALMER BEATS BIDEN IN AMERICAN SAMOA"のテロップ。

ここには写っていないが、もう一人男性の若いキャスターが隣にいてこのように言っていたのを聞き取った。
さて、サモアはどこかわかりますか? このちっぽけな点(tiny dot)がサモアです(笑)
FOX NewsではなくCNNがそう言った。

なぜサモアでバイデンが負け、謎の実業家Jason Palmerが勝ったのか、その後特に解説付きの続報はない。
だが、サモアの人々は、アメリカにとって自分たちサモアは所詮こういう扱い、ということはよくわかっているのだろう。それがこの結果に表れたのではないだろうか。

この数年「侮辱」について考える機会が何度もあった。
いろいろな形があるだろうが、ひとつ新たに気付いたのは無意識が引き起こす侮辱について。
人は、取るに足らない、何ら気にかける必要のない者を相手にしたときに自然に、無意識に出てしまう態度というものがある。
目立つわけでも派手なものでもない。しかし、相手のことをまったく気にかけていないがゆえに、空気同然のように思っているがゆえに表れる、とてもささいな態度だ。
でもその態度は、それをされた側は極めて敏感に察する。こんな態度は自分を路傍の石同然に、虫けら同然に思っていないと出ないものだから。
これは、人前で恥をかかせられるとは全く別でありながら、しかし非常に強い侮辱だと、その態度を取られた側は感じる。
ここには大きな問題がある。
というのも、何ら気にかける必要のない、取るに足らない相手に示し「てしまった」態度を、人は覚えていることができない。無意識だから。
その態度を取られた側は忘れたくても忘れられないような傷を負うが、その態度を取った側はそんな傷を負わせたなんて夢にも思わない。
侮辱にはこのような不均衡がある。

続報がないのでわからない。ただ、サモアがときに逸脱した独自の投票行動をするのは、こんなことと関係があるのではないかと妄想した。

さて、この翌日の午前9時にヘイリーは撤退を表明した。
以下はヘイリーの撤退宣言と、前夜のトランプによる勝利宣言。トランプの勝利宣言はフロリダにある彼の別荘マール・ア・ラーゴで行われた。

ヘイリー入り待ち
支持者に対するヘイリーの撤退表明演説
マール・ア・ラーゴの会場(これは勝利演説が終わったあと)
"MAKING AMERIKA GREAT AGAIN BETTER THAN EVER BEFORE."と言っているトランプ

以上はだた並べただけのものだが、アメリカでは国旗をこのようにズラッと並べるのか、と知った。

その後、この日は以下のようなキャプションがつけられ、バイデンとトランプの映像がたびたび交互に流れた。

"REMATCH"
この日から頻繁に目にする言葉である。
大統領選をショウと捉えていなければ、この言葉は出てこないのではないだろうか?

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