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パン屋のない街

 僕の住む街からパン屋がなくなった。
 厳密にいうと、スーパーの中にテナントとして入っているパン屋“以外の”独立した店舗としてのパン屋がなくなったのだ。
 某テレビ局の〝あなたの街の宣伝部長〟がMCを務める街の情報番組では、必ずといっていいほどその街の素敵なパン屋が紹介される。他にも王様がブランチを食べる番組や、渋めのダンディが適当に街を散歩する番組など、どれも個性的で独創的で美味しそうなベーカリーが登場することは本当に多い。
 僕は幼い頃からパン屋が好きだった。【からすのパンやさん】という絵本には美味しそうなパンがたくさん出てきて、中でも見開きいっぱいに様々なパンが散りばめられているページには時間を忘れるほど魅入っていた記憶がある。
 両親が小売店をしていた小さな商店街に初めてパン屋が出来た時には、「お昼何食べたい?」「パン!」「おやつ何にする?」「パン!」という具合だった。一番のお気に入りはチョココロネ、あと最近知ったのだが〝帽子パン〟という文字通り帽子のような形をしたパンで、帽子のツバの部分はサクサク、こんもり盛り上がったヤマの部分はフワフワというファンシー全開のパンも好きだった。ちなみにこのパン、高知県のご当地パンらしい。もしかしたらそのパン屋さんの出身は高知県だったのかも?
 探してみればパン屋のない街は他にもあるのだろう。パン屋がないからダメな街、というつもりは毛頭ない。でも、何だか無性に物足りない気分になるのだ。時にはワクワクを、時には癒しを、そして時には郷愁を…
 我が街にもそんなパン屋がやってきてくれることを切に待ちたい。

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