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映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の類似性


 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、マーティン・スコセッシ監督の最新作。
 アメリカのオクラホマ州で実際に起きた先住民のオセージ族の連続殺人事件を描いた映画で、主演はレオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ。

 206分の上映時間は賛否あるが、個人的には満足。

 同監督の『アイリッシュマン』もそうだったけど、細かい事実を淡々と積み重ねていくことで、厚みを増していく映像手法は、新しい時代の物語の語り口だと思った。

 そのこともあってか、大きな起伏がないように撮っているように感じた。

 劇中では殺人場面が多く登場するが、日常生活の延長線上に強盗や殺人がある感じで描かれており、映画にありがちな「さぁ、これから殺しますよ」という前振りや、殺人行為の後で感情が激しく揺れるような描写が殺した側にはほとんどない。

 これは殺す側があくまで仕事としてやっていて、相手に対して何の思い入れもないからで、だからこそ逆に殺された側の理不尽な状況に対する怒りと絶望が際立つ。

 ディカプリオ演じるアーネストを筆頭に登場人物があまり頭が良さそうに描かれてないのがポイントで、悪の黒幕と言えるデニーロが演じるウィリアム・ヘイルも特にカリスマ性のある悪党ではない。

 みんな目先の利益のことしか考えてないから、アーネストもヘイルに言われたことになんとなく従ってなんとなく罪を重ねて、なんとなく悪いことしたなぁと思って、なんとなく捕まるけど、お前本当にちゃんと考えてそれ言ってるのか? って感じがずっと続く。

 彼の振る舞いを感情移入できないと批判的に言う人もいるけど、むしろこの物事を深く考えてない人たちがその場の空気に流されて、どんどんひどいことをしてしまったという大義のなさこそが、この映画の嫌なリアリティではないかと思う。

 見ながら日本で類似する作品はないかと考えていたけど、強いて言うならば去年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)ではないかと思う。

 あのドラマでは、武士の世を作るために内ゲバを繰り返す北条義時の悲しみが描かれていたし、三谷幸喜は各登場人物にそれなりに動機を持たせていたけど、俳優の演技のトーンもあってか、田舎の町内会のいざこざを延々と見せられているような感じがあって、それがやがて戦争に発展する人間のしょうもなさが描かれているなぁと感じた。

 おそらくどちらも参照元が『ゴッドファーザー』でマフィアの世界を追求するとこういうふうになるのかと思う。
 最後にアーネストとモリーが対峙する場面は、義時と政子が対峙する場面を連想した。
 『鎌倉殿』がセリフと芝居でやってたことを、映像の力で描ききったのが『キラーズ〜』ということだろうか。
 
 人間を個ではなく群として描いている話に最近は惹かれるけど、そういう意味では最高の作品だった。


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