”一社で長く働く”ことはそんなに偉いのか

就業規則をつくるために本社のものや厚労省が出しているひな形などを眺めてみると、勤続年数に応じてだんだん条件が良くなる系の制度がたくさんあり、よくよく考えてみると変だよな、と思ったので考えを整理してみます。

まず、どんな制度がそれにあたるのかあげてみると、、

・年次休暇
・勤続XX年の節目で取れる長期休暇
・休職時の給与補償(補償期間が勤めた期間に比例)
・退職金(早くやめたらXX割カット)
・在宅勤務(X年目以降から取得可)
・社費留学(X年目以降から取得可)

などなど、結構ありますね。会社によっては他にもあるかも。これって多分、長く働いている人に対して労ったり、その貢献に報いるためにしてるんだと思うんです。なんとなく耳触りがいいし、もっともらしいように聞こえますよね。

社員からしたら、長く働けばご褒美がもらえるから、なんか嫌なことがあったとしても、まだご褒美をもらってないから辞められない!ってことで、離職防止にもなるような気もするし。

でも、それってほんとかな?と常識を疑ってみて、自分の頭でよくよく考えてみると、どうもおかしいぞ?って思ったことが多々ありました。

前提になっている(と思われる)考え方

まず、この制度の根底には、 その会社で働いている期間 と その会社で成果を残す力 は 比例する という考えがあると思います。終身雇用や年功序列を前提とする企業にマッチする考え方で、給料に適用した場合は「職能給」と呼ばれたりします。ポイントは 何年その”仕事”をやったことがあるか ではなく、何年その”会社”ではたらいているか、であることです。

もう一つ、大事な考え方として、後払いを基礎とした制度設計をしていることがあります。休暇にしろ、給与補償にしろ、退職金にしろ、前提となる勤続年数(たぶん新卒で入社して定年退職だから40年間)の中でトントンになるように最初は薄く、後は手厚く、というようにしていると思うんです。運用型の生命保険と一緒ですね。

図示するとこんな感じ。

画像1

うま味と勤続年数の関係図

これってどーなんですかね?

この制度ってつまり、新卒で入社して定年まで勤め上げる人を労うために、入社してまだ歴が浅い人や、途中で退職する人からある意味搾取するような制度ってことですよね。

たしかに、新卒一括採用で一社勤め上げが基本の労働観としてあり、技術の移り変わりが小さく(ココ大事)、長く経験を積むことが能力に直結していた時代ならピッタリの制度だと思います。そんな時代に作られた制度なんでしょう。

でも、今はどんな時代かというと、、

いろんな働き方が出てきて、雇用の流動性が高まることによって中途入社比率がぐんぐん上昇。技術革新が激しく、同じことを継続して得られるスキルよりも、いかに早く学び、実務で活用できるかどうかが問われる、時代ですよね。

つまりは、制度が前提としていることが変わっているのに、制度自体は変わっていない。これが、勤続年数に対してインセンティブをつける系の制度に対して感じた違和感の正体でした。このままじゃいかんなあ。。

じゃあ、どんな制度だったらいいのか

もちろん、勤続年数を完全に無視した制度、です。個別の制度は勤続年数以外にも考えるべきことがたくさんあるので、具体的には別エントリにて書きたいと思います。

勤続年数を無視をするとどうなるか

企業としては、勤続年数を無視した制度設計をしたら、離職率がしない時と比べて上がるんじゃないか?と考えそう。でもそんなことは無いと思います。なぜか。

まず、世の中の一般的な企業は、勤続年数にインセンティブを与えている会社が圧倒的多数なので、転職するということは搾取される立場になるから。先程の図で、せっかく辛い搾取時代を過ごし、もう少しでうま味を享受できる期間に突入しそうなのに、また最初からやり直しになってしまうんですよね。転職しなければ少なくとも搾取はされない状態です。だから、他の会社がこの考え方に追随し、制度を変えない限り大丈夫です。

さらに、制度を変えることはある程度の規模の会社だと実質不可能です。可能ではあるのですが、会社としての合理性と従業員への十分な周知(合意ではない)が必要ですし、納得感のある制度変更のためにはバーターとしてじゃあこれは認めてね、ということで他の部分で不利益分をまかなうような制度変更を求められるのが関の山でしょう。そんなめんどくさいことをするぐらいなら、別に大きな問題になっていない(ように見えているだけ)から多少無理はあってもこのままでいいだろう。となるのが普通だと思います。

逆に!

であるからこそ、他の企業との差別化が出来、採用力が上がるはず。搾取される期間がないから当然ですよね。

まとめ

ということで、今回は同じ会社で長く働くことはそんなに偉いのか、という問いについて、自分の頭で考えてみました。

結論としては、

同じ会社で長く働くことを良しとしているのは、 その会社で働いている期間 と その会社で成果を残す力 は 比例する という考え方が根底にある。

さらに後払いの仕組みを制度に盛り込むことで、長く働くことを奨励している。

でもそれは、雇用の流動性が高く、技術の進化が激しい今の時代にはどうもそぐわない。

だから、同じ会社で長く働くことに対してインセンティブをつけすぎるのは危険。むしろ全くインセンティブをつけない方が良い。

です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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