見出し画像

欧州鉄道旅:乗り放題切符Interrailはお得か検証, 使える交通アプリ, 行った国&目的

2022年8月の1か月間、ヨーロッパ8か国を鉄道で巡った。6千キロ近く乗ったようだ。

6千キロは東京ー京都間を6回ほど往復した距離感だ。ちょっと分かりづらい場合は、30日間連続で1日200キロほど鉄道に乗っていた、と想像してほしい。

これだけの距離を乗ると中々の金額になりそうだが、Interrailという鉄道乗り放題切符を使ったことで楽に割安に旅をすることができた。ちなみにInterrailは欧州の居住者のみが購入できる切符だが、欧州以外の人が購入できるEurail(ユーレイル)と中身は実質同じである。当然日本在住でも購入できる。

乗り放題切符Interrailとは

どんな切符かを以下かんたんに。

購入ページはこんな感じ

期間と日数を選べる

Interrail切符はヨーロッパ33か国の鉄道が乗り放題になる切符だ(高速列車などは座席指定の料金を別途ちょいと払う必要はある)。買うときにまず期間を選ぶ。ぼくが買ったのは「Global Pass: 7 days in 1 month」だ。1ヵ月間のうち、自由に7日間を選んでその日は乗り放題というシステムである。他にも「1か月4日間」や「2か月15日間」や「連続22日間」など色々あるので自身の計画によって合わせやすい。逆に言うと、ここが一番の悩みどころだ。どのように乗れば目的を達成できて楽でお得か見つけ出して独自の旅を作るのが楽しいところともいえる。

1等車か2等車

First Class(1等車)かSecond Class(2等車)を選べる。ぼくは1等車を購入した。理由は持っている荷物が多かった、2等車より盗難リスクが低そう、座席争奪ゲームに巻き込まれなそう、といった理由だ。
もし日本なら2等車=普通車でもふつうに快適で問題ないと思うが、相手は欧州の鉄道である。日本の鉄道クオリティを期待するのは筋違いなのは想像できる。また2等車の方が混みやすい。ただこれは行くタイミングも関係するだろう。ぼくが行ったのは2022年8月のちょうど夏休み。欧州ではコロナ明け感があってかなり多くの旅行者で賑わっていた。路線&区間にもよるだろう。1等車で席を見つけることができて、2等車混みあっているなーと胸をなでおろしたことは何回かあった。もちろんその時々で1等車に換えて乗ってもいいが手続きが面倒そうである。1等車切符なら2等車にも乗れるのでそこも自由だ。あと駅によってはラウンジ利用権が付いてきたりした。
でもまあ荷物が少なかったり、オフシーズンとかであれば2等車でも特に問題ない気はした。列車によっては違いが分からなかったりもするし。

年齢区分

今回ぼくの場合は「Global Pass: 7 days in 1 month」、1等車、おとなという設定で446ユーロで購入した。
ちなみに年齢は「4-11 / 12-27 / 28-59 / 60+」の4区分。子供は無料、若者は一番安く、おとなは一番高く、シニアはその間といった値段設定だ。若者とおとなの価格差はけっこうある。若者は上記と同じ設定なら335ユーロなので、おとなと比べて111ユーロも安い。

アプリはちゃんと使える

そして10年前にはおそらくなかっただろうが今はアプリを切符として使える(QRコード)。このアプリ自体は使いやすかったが、高速列車など座席指定の切符を買うときなどはアプリからブラウザに飛ばされてそこで購入する必要がありそこはちょっと面倒な点だ。登録したルートや走行距離などが表示されるのは見てて楽しい素敵な機能だ。

左:2022年8月巡ったルート
右:訪れた国、乗車した総距離や時間などの数字、対飛行機CO2削減量

アプリではなく紙切符版も願えば郵送してもらえたと思うが、イギリスの配達事情を信用できなかった。例えばRoyal Mailはストライキを今年何度かやっていたのでリスキーと判断した。

Interrailは普通に切符を買うよりも本当にお得か比較した

さて、Interrailという乗り放題切符を最初買おうと思ったとき、一番最初に思い浮かんだのが、これって本当に得なのか?という疑問だ。ふつうにフラットに都度買って乗った方が期間に縛られないし全然良いのではと考えた。イギリスでは色々乗ったけどヨーロッパ大陸では乗ったことがほとんどないので乗車代の相場観を知らないからだ。そんなぼくが今夏1か月間乗った中で、乗車運賃例を3つ挙げて本当に得だったかを検証した。

1.TGV Lyria

前述したように、Interrailは乗り放題切符だが、高速列車などは別途座席指定分の料金を払う必要がある。例えばフランスとスイスと結ぶ高速列車TGV Lyriaがそれに該当するが、その際にふつうに買う場合とInterrailで買う場合の金額を比較した。区間はフランスのパリリヨン駅(Paris Gare de Lyon:紛らわしい名前だなぁ…)から、スイスのチューリッヒ駅(Zurich HB)。

以下スクショ見てもらえば分かるが、ふつうに買おうとすると186ポンドかかる。Interrailで買ったら70ユーロだった。通貨が合っていないので申し訳ないが、雑な計算で比較しやすくすると、186ポンドは当時200ユーロ、ともすればInterrail利用で130ユーロ分お得に買えたということだ。

↑ふつうに買う場合
↑Interrailで買う場合

2.ベルニナ急行

スイスが誇る世界遺産である登山鉄道のベルニナ急行もInterrailに含まれている。その際、ふつうに買うと137フランだが、Interrailを利用したので座席指定料金の26フランだけで済んだ。111フラン分がお得となる(今や1フランは1ユーロと同じ…111フラン=約1万5千円)。上記したTGV Lyria自体はひどい体験だったのであれに70ユーロか…でもまああれだけの総距離を直通で結んでいるし…という感覚だが、ベルニナ急行に関していえばあの極上体験が26フランというのはお得以外の何物でもない。

こんな感じで座席を選べるよ、どっちが進行方向か分からないけどね、そこが重要なんだけど

3.EuroCity&westbahn/Railjet

では今度は別途追加料金がかからない乗り放題の列車で比較してみる。スイスのザンクトガレン駅からドイツのミュンヘン駅を経由してオーストリアのウィーン中央駅区間で行った際のEuroCity等で検証する。

↑ふつうに買う場合

画像の通り、ふつうなら110ユーロかかるところだが、Interrailであれば含まれている内容なので料金は一切かからない。
またInterrailが優れているのは融通が利く点だ。実際このときEuroCityのミュンヘン着が遅れたため、ミュンヘンから当初乗る予定だったRailjetを見事に逃した。しかしwestbahnという別のオーストリア系の列車でウィーン西駅へ向かうものが良いタイミングであったため、そっちに乗り換えることができた。その時の手続きもアプリでちょいっと一瞬で終わる。わざわざ購入する必要がないためだ。途中の駅(St. Poelten)でwestbahnを降りて、違う街から走ってきたウィーン中央駅行きのRailjetに乗り換えて無事到着した。110ユーロ分お得になっただけではなく、遅れた場合も柔軟に変更できたので、無駄に焦る必要がなく助かった。

購入代金446ユーロの元は余裕で取れた計算

これら3つだけでも、すでに約350ユーロ分お得に乗れている計算だ。ぼくは7日分を446ユーロで購入していたので、残り約100ユーロ分でもお得に購入すれば、購入代金の元はとれる計算だ。
ついでに、旅の1日目に乗ったロンドンーパリ間のEurostarを比較計算するならば、ふつうに購入していたら150ユーロ以上はかかったところが、Interrail利用により40ユーロで購入していたため110ユーロ以上お得になっていた。なのでこれら合計4つで購入代金の元をとっていることになる。あと細かい乗車料金部分や他3日分の移動は計算していないが、特に無理して乗ろうとしなくてもざっと200ユーロ以上はトータルでお得になったと思うのが結論だ。

Interrailはお得かつ乗車が楽になる

まとめると、Interrailを利用すれば、特急列車で別途追加料金と予約の必要があるけれど何度か利用すれば比較的余裕で元が取れることだろう。期間が長いInterrail切符であればあるほどお得率は高くなると思われる。そして普通列車であっても前述したとおり乗車が気楽になるのが精神上けっこう良かったりする。

英アプリTrainlineの活用

ではどうやってInterrailを利用する日・区間と、利用せずに通常購入するのをベターか判断するか。
Interrailアプリ上に割引後の金額だけでなく通常料金も載せてくれていたら比較が容易だがそんな親切な要素をこのアプリは持ち合わせていない。なので自分で運賃を比較する必要がある。ぼくはTrainlineを使って比較した。イギリス在住者なら知っているであろう切符購入アプリ「Trainline」は、イギリスはもとより欧州の多くをカバーしていることを今回の旅で知った。イタリアでも何度か屋外広告を見かけた。

ミラノ地下鉄にて

このアプリを使って自分が使う予定の路線区間の運賃を把握し、それとInterrailの場合とを比較すればよい。結果Interrailを利用しないならばそのままTrainlineで購入できる。Trainlineがイギリス以外でどの国をどこまでカバーしているかは知らないが、少なくともぼくが訪れたイタリアなどでの切符検索と購入は全く問題がなかった。
旅行中Google Mapは何度も利用して一体どれほど救われているかはもはや想像の域を超えているが、こと運賃に関しては欧州ではリアルタイムで変動するためか、日本のように表示されない。そのためリアルタイムで計算して表示してくれて購入も容易なTrainlineがとても役立つ。購入手数料は他の同機能アプリと比較して最低クラスのレートで良心的だ。

Interrail購入時に期間と日数をどう見積もるか

旅行に行く前からInterrailとTrainlineで運賃比較しても疲れるのでそれは旅の途中途中でやれば良いと思うが、最初乗り放題切符Interrailを買う時点で、結局期間と日数をどう見積もるかが悩みどころ。これはどれだけの間欧州に滞在する予定か、行く予定の国と街、それらの距離感、行きと帰りの空港の位置関係、あとは乗りたい鉄道があったらInterrailを利用できるか、などが変数として挙げられるだろう。
参考までにぼくが旅を始める前に行こうと考えた国と街は以下の通りだ。これをベースにして1か月の7日間くらいがちょうど良いと考えた。

拠点にした国は3つ

今回ぼくがメインで訪れた国はスイス、オーストリア、イタリアの3つ。スイスとオーストリアには1週間ずつ、それぞれチューリッヒとウィーンを拠点に置いて鉄道旅をした。旅の後半2週間はイタリア。ミラノ(3日間)、ボローニャ(2日間)、アッシジ(7日間)、そしてローマ(2日間)を拠点に巡った。

なぜこの3つの国を選んだか

理由は2つ、鉄道そのものを楽しむ(乗る撮る知る)こと、そしてアーティストインレジデンスだ。

アーティストインレジデンス in イタリア

アーティストインレジデンス(Artist in Residence:以下AIRと略す)とは、アーティストが一定期間特定の地域に滞在しながら創作活動を行なうプログラムだ。普段とは違う環境に身を置くことで新しい刺激が得られたりする。地元の人との距離感も比較的近いのも特徴だ。この世界各地域に存在するアートプログラムをイタリアで体験したいと思い調べたところ、アッシジ(Assisi)という中部の街でAIRを運営している方がいらっしゃったので連絡を取って予約した。その期間を8月4週目の1週間に設定したため、そこへタイミング良く向かっていくように欧州鉄道旅を組み立てていった。

アッシジは建築全てが石造りの素晴らしい丘の上の街だった。ぼくは今回創作活動として街中心部にある広場の噴水をPhotogrammetryで3Dモデル化し、それを3Dプリンターで実際に出力、水の代わりにBialettiの”エスプレッソ”を3Dモデルに流し込み、その作品を同時期に実施されていたExhibitionで実際の噴水を前に展示した。

La Fontana Espresso

出発は鉄道発祥の国イギリス

欧州で鉄道と考えた際に、ぼくはやはり発祥の国イギリスが真っ先に思い浮かぶが、2年近く住んで色々乗って回ったので、今回の旅ではロンドンを出発点としてイギリスを出国した後にどこへ向かうかが論点だった。

ちなみに細かいことを言うなら、欧州鉄道旅を始める直近まで住んでいたのはリバプールだったため、旅客鉄道発祥の区間(マンチェスター~リバプール間)から鉄道旅をスタートできたと言える。日本でいうところの東京~横浜間だ。そんな東京ー横浜間から始まった日本の鉄道が今年2022年で150周年という歴史を迎えているのは感動だが、イギリスは2030年の200周年をどう迎えるだろうか。とても楽しみだがそのときまでには高速列車HS2を完成させて正常に運行していてほしいと願う。。

最高レベルの鉄道システム&世界遺産の登山鉄道をもつスイス

次に思い浮かんだのはスイスだ。スイスの鉄道は運行が正確で、登山鉄道が素晴らしいと聞いていた。またスイスの鉄道駅に設置されているStop2Go時計のコンセプトに惹かれたので一度見てみたいと思っていた。鉄道好きならここに行かない選択肢はないと思い、まずロンドンから最初にスイスを目指すことにした。登山鉄道に関していえばスイスはアルプスの国なので種類が豊富。イギリスのように山が全然ない国と正反対だ。その中でもチューリッヒからアクセスの良いベルニナ急行を選んだ。これは本当に素晴らしかった…

窓から手を出した筆者撮影 かの有名なViaduct

欧州の主要都市間を結ぶ夜行列車を運営するオーストリア

オーストリアは今まで一度も行ったことがなかった。1回は行ってみたかったし、鉄道の観点では欧州大陸で夜行列車を乗ろうとしたら選択肢としてOBB(オーストリア国鉄)が運営するNightjetくらいしかない。これはウィーンと欧州の各都市を結ぶ夜行列車のことだ。もちろんローマーミュンヘン間など他の都市間夜行列車も運行されている。最後ローマからフランクフルト空港まで一気に移動する際に利用した路線だ。

朝起きて寝ぼけている筆者撮影 これはWienからMilano行きの夜行列車最後尾

欧州を回るなら鉄道がベスト

以上Interrailというヨーロッパの鉄道乗り放題切符について自分の今夏の経験から、どのくらいお得になるか、どう活用すればいいかを書いた。とどのつまり行きたいところをリストアップして、大体これくらいの日数の乗り放題切符が合っているか予想し購入し、あとは現地に行って旅をしながら都度比較してInterrailと通常切符を使い分ければ良い。

今回の欧州鉄道旅では色々な種類の鉄道に乗ることができた。国を代表する大都市間を結ぶ高速列車、大都市から近郊の街を走るローカル線、市内では地元民と観光客の足であるトラムや地下鉄。そして欧州の鉄道網を活かして真夜中の国境間を疾走横断する夜行列車。。
欧州の鉄道網は立派だ。用途に合った鉄道を見つけて乗って行けば、鉄道にしかない風景を見せてくれながら比較的かなり安全に目的地へ連れて行ってくれる。大体の場所へは鉄道+αで行けるはずだ。その際にInterrailといった乗り放題の切符があれば旅がしやすくなる。まあトラムや地下鉄はInterrailに含まれていないが、個別に市内〇日間きっぷの類を買えば済む話。

国々が陸続きで同じ標準軌の線路を繋げているシステムを最大限に活かした欧州の鉄道。そこには国境を鉄道で越えるという日本では味わえない体験がある。
といっても今思い返せば、今回の1か月間で国境を10回以上鉄道で越えたが、シェンゲン協定のおかげだろうか、ものの一回もパスポートの提示を求められなかった。なのでむしろ意識をしないと国境を越えていることすら感じない。そこにヨーロッパらしさ=自由な面白さがある。違う国同士だけど協力し合っている。ずっと続いてほしい。それこそが正にインターナショナル(国際間)だ。


小泉成文

大好きな横浜名物シウマイ弁当を食べる時、人生であと何回食べられるんだろう。。と考えます