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『それでも僕はここで生きる』 #26 暴露

26.暴露

川から帰り、コンビニのバイトの時間が近づいていたので、僕は準備をし、コンビニへ向かった。コンビニの深夜バイトでは、僕の他にいつも同じ人が入っている。その人は、男性で、かなり長い髪を後ろで縛っている。彼と僕は必要なとき以外は滅多に話すことはなく、彼について知っていることはそれくらいだ。
 その日、彼は僕より早く来ていた。僕は定時より少し早く出勤することを心がけているのだが、彼はそれよりも早かった。僕たちの前に働いている人たちから引き継いで、僕らは仕事を始めた。
 最初の方は少し忙しいが、朝と深夜の間くらいになってくると、客足は殆んど絶える。客がこなくなり、商品を出し終えると、少しだけ何もしない時間が生まれる。
 そのときいつもなら何も話さずに黙ってその時間をやり過ごすのだが、その日は彼が初めて話しかけてきた。
 「なんでこの店に来たんですか?」
 急な問いに戸惑ったが、
「ちょっと複雑な事情がありまして」
と、僕は答えた。
「はあ、そうですか」彼はそれだけ言って仕事を再開しようとした。
「じゃああなたはなぜここで働いているのですか?」僕はなぜかとても気になり、尋ねた。
「長くなります。事情が込み入っているので」彼は深刻そうにそう言って、仕事を再開した。僕はそのときは深く追求することを避けた。
朝になり、仕事が終わると、僕ら二人は次の人たちにバトンタッチをして、外へ出た。外へ出ると、彼は僕を近くのファミレスに誘った。僕は食事を取りたかったので同意し、二人でファミレスに向かった。
田舎のさびれたファミレスだ。
僕らはファミレスに入り、席に案内された。
僕はサンドイッチを頼み、彼はドリアを頼んだ。
彼の苗字は小野で、下の名前はわからない。苗字も名札に書いてあるからそう思っているだけで、本当にそうなのかは僕の知るところではない。
小野は注文をし終わると徐に口を開いてこう言った。
「さっきの話なのですが…」
「長くなるっていう話ですね」と、僕は相槌を打った。
「そうです」と、小野
「でも、なぜそんな話を僕に?」僕は素直に気になったので尋ねた。
「僕はあなたに何か他の人とは違うものを感じるのです。内面的なものですが」小野は言った。
「内面的なもの?」僕は戸惑った。なぜなら僕は先ほど言ったように小野と話したことなんてほとんどなかったし、内面を見透かされるようなことはなかったはずだからだ。
「はい。でも何かはわかりません。直感でそう思っただけです。ですが、僕は勘というか、そう言った類のものが他の人より鋭い方なので」と、小野。
「なるほど」僕は実際には腑に落ちない部分があるが納得したフリをした。
「では、話させて頂きます。 僕はここにくる前、東京でサラリーマンをしていました。自分で言うのもなんなんですが、なかなかの大企業で僕はなかなかの成績を残しておりました。人生がうまくいっていたある日、僕の祖母が行方不明になりました。すでにかなりの高齢で、施設に入っていました。僕は幼い頃から祖母が大好きでした。親戚やら、近所の人たちで、祖母を探しました。警察も巻き込んでかなりの大捜索になりました。
僕は昔から、無くなったものの場所がなんとなくわかると言う能力のようなものを持っていることを自覚していました。
僕は、仕事が忙しく、なかなか地元には帰れませんでした。しかし、祖母が失踪して二週間後くらいに、地元に帰ることがちょうどできたとき、僕は母に祖母の居そうな場所を告げました。そこに祖母はいました。無残でした。すでに亡くなっていたのですから。しかも、殺されていたのです。僕は容疑者として刑務所に連行されました。僕は何もしていないし、大好きな祖母を殺すわけがない。僕はれっきとした被害者なのです。その後、全く犯人の痕跡が見つからず、僕は釈放されましたが、あまり釈然としない終わり方でした。僕が犯人でないと言うれっきとした証拠がないのですから。このことが会社にも知れ渡ってしまい、僕は会社にも、いづらく、実家にも帰りづらい雰囲気になってしまったのです。僕はこの自分の能力のせいで最愛の人の死で罪人扱いされることになったのです。
僕がもっと早く祖母の居場所を伝えていれば、と思うと胸が痛いです」小野は一気に話し終え、少し水を飲んだ。
「その出来事と僕になんの繋がりが?」
僕は聞いた。
「そうでした。僕はあなたが少し悩んでいるように見えたのです。それで、僕にできることがあったらと思って。ただそれだけですよ。別にこの話と特に深い関係はないです」と、小野。
「そうですか、ですが、あなたの能力と、僕の悩みはかなり密接に繋がっていると思います」僕は言った。
「誰かを探しているのですか?」小野が言う。
「そうなんです。かなりピンポイントですが、あなたの出現は僕にとって最高なタイミングかもしれません」僕はまだ半信半疑だったが、そう言った。
「ですが、僕はあったことのない人は探せないかもしれません。まだそのようなことはしたことがないので」と、小野。
「そうですか、では、会って頂きたい人がいるのです」僕は『広瀬南』のことを思い浮かべながら言った。
「なるほど、その人とつながりがある人というわけですね」と、小野。
「そうです」
そこで食べ物がきた。食事が終わると、僕らは午後に待ち合わせをして、一旦各々の家に寝に帰った。
とても眠かった。たとえ滝に打たれていても眠れる気がした。僕は南が見つかる可能性が少し上がったことを喜び、眠りについた。

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