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『それでも僕はここで生きる』 #28 虚無

28.虚無

その日は、地球が朝を告げる前に僕は目覚めた。まだ月はこの世界に残留していた。こんなに早く起きることはまずない。身支度をすませ終えた頃、太陽は僕より遅れて今日を始めた。朝がきた。今日もまた忙しない1日が始まるのだ。
そう考えると、僕は急に虚しい気持ちになった。
自分は何も成長していないのに、世界は進んでいく。時間は刻一刻と流れていく。葉の色は移り変わり、僕らも歳を重ねる。その早さがその時の僕には応えたのだ。
南を失ってから既に10年ほど経過している。僕は南の分まで生きられただろうか。僕は自信がなかった。
僕はこんな惨めな状態で南を探して、一体何を求めているのだろうか。南に何を求めているのだろうか。考えれば考えるほど、虚しさは増幅していく。
僕は昔から他人と関わることに神経質だった。人間という生き物は、自分本位で、自らのためなら、平気で親しい者をも傷つける。そんな環境に生み落とされたことが怖くて仕方がなかった。
しかし、南は僕のその弱い部分を理解してくれた。幼い時から僕の味方だった。僕は人生の恩人でもある南を見つけることに命を捧げることに決めた。その重責に、たびたび押し潰されそうになるのだ。
朝と夜、そのような虚無と向き合いながら、僕は生活している。人間、誰しも悩みを抱えているはずだ。時代の移り変わりとともに、悩みの種類は変化していくのだろうが、根底に抱える悩みは変わらないだろう。

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