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国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市・京成佐倉駅)

今年に入って二度目になるとは思わなかった歴博こと国立歴史民俗博物館。どうしても来たかったのには理由がある。特別展で開催される「水滸伝の世界」、これを見にどうしても訪れたかったというわけである。
国立歴史民俗博物館はもともと佐倉城のあった城址公園につくられたミュージアムなので山の上にあるのは致し方ないこと。しかし暑い。訪れるならもっと涼しい季節だと良いかもしれないと今更になって思う。

都がやってるわけでも市がやってるわけでも県がやってるわけでもなく国がやってる博物館である。以前に訪れた時にもやはりその広大なフロアと展示数の多さに度肝を抜かれた。今回は既に免疫があるので少しペース配分を考える余裕がある。まずは目的である特別展から訪れることにする。

入口からショートカットして特別展を先に見学

特別展は常設展示室のうち中世の展示室の一部を使って展開されている。現在ではほとんど知名度がない水滸伝だけれども、江戸時代には今とは比べ物にならないほど庶民の間でブームだった水滸伝、有名なところでは曲亭馬琴がかなり収集しており、自身の『南総里見八犬伝』は水滸伝から着想を得て書かれたものだし、他にも『傾城水滸伝』や山東京伝『忠臣水滸伝』といった作品や歌川国芳が浮世絵として『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』シリーズという武者絵を描くなど、ここから侠客物や歌舞伎の題材に採りあげられたりもしている。

葛飾北斎も水滸伝を描いている

水滸伝は宋の時代末期に起きた民衆の反乱をモデルにして作られたフィクションで、登場人物には実在の人物もいるものの基本的には荒唐無稽な人物活劇として描かれている物語。時の政府による悪政に苦しむ民衆たちが梁山泊という砦に集まって政府、ひいては他の外敵と戦って行くまでが一連の流れになっており、アウトローたちが悪徳政治家たちを懲らしめる痛快なストーリーに民衆からの人気は絶大だった。その結末についてもインパクトが強い。ここから派生した物語もいくつか作られており水滸伝人気の高さが窺える。江戸時代初期に日本へ輸入され、展示されている岡島冠山による翻訳『通俗忠義水滸伝』の出版や挿絵入りの双紙などが増えたことによって一般の人にも多く読まれるようになり一大ブームとなっている。

これだけの巻数が競うように読まれた

展示室では豪傑たちが図像化された鳥山石燕による『水滸画潜覧』や葛飾北斎の『忠義水滸伝画本』、柳川重信『狂歌水滸画伝集』、魚屋北渓『本朝狂歌英雄集』が紹介されており、彼ら絵師によって躍動感のある人物たちが描かれている。個人的な展示の目玉は歌川国芳による『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』で、こちらは彩色も施されており、より躍動感にあふれた人物像が描かれる。

樊瑞 田虎戦が江戸時代に読まれていたことがわかる

歌川国芳の作品として紹介されているのは"知多星"呉用、"入雲龍"公孫勝、"豹子頭"林冲、"花和尚"魯智深(2枚)、"行者"武松、"舩火児"張横、"浪裡白跳"張順、"活閻羅"阮小七、"一丈青"扈三娘、"混世魔王"樊瑞、"飛天大星"李袞、"鼓上蚤"時遷、"九紋龍"史進といった面々。魯智深のうち1枚には、改名前の「魯達」の名も添えられているのが人気の高さを窺えることや、武松にあだ名が表記されていないこと、扈三娘のあだ名と名前が逆になっていることが興味深い。ちなみに張順のキャプションに間違いがあったのは少し残念だけれど、よくぞここまで多くの絵を展示してくれたものだと感謝が深い。

張順 キャプションには「国芳の創作」とあるが方臘戦の杭州城でしょうね

目的の特別展を見終わったあとは常設展を最初から。閉館時間まであまり余裕がなかったので、全ての展示をじっくりと観ると中世あたりで終わってしまうので、土器と石棒と板碑というチェックポイントを経由したあとはどちらかというと前回おとずれた時に取りこぼしたところを見直すようなスタンスで見る。常設展の内容はほとんど入れ替わっていないためその辺りは割と余裕がある。前回おとずれた時はほぼ独占状態だったが今回は見学者も多い。夏休みだったからですかね。トイレはウォシュレット式。

グロテスクな孔雀

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