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紀尾井清堂(東京都千代田区・赤坂見附駅 奇跡の一本松の根展)

紀尾井町の中心部に位置する清水谷公園は紀州徳川家と井伊家の境にあった谷で清水が湧き出たことから名づけられた場所。大久保利通が暗殺された紀尾井坂の変で知られており、公園内には哀悼碑も聳え立っている。そんな清水谷公園の隣にある、ガラス張りの箱の中にコンクリートの箱が収められているようなかなり変わった外観をした建物が紀尾井清堂である。聖堂ではなく清堂、特に教会に関連した施設ではない。

印象的な外観 工事中ではなくこれが正規

一般社団法人倫理研究所が所有している建物で、海の博物館などで知られる建築家の内藤廣による設計である紀尾井清堂。都内ではギャラリーTOMやちひろ美術館東京、とらや赤坂店や牧野記念公園など、個人的には何かと縁のあるミュージアムを手がけている人物。こちらは用途を持たずに造られた建物というのが特徴的で、設計依頼を受けた際に「思ったように造ってください」という、クリエイターにとって夢のような発注をされたという。そこで「パンテオンのようなものを作りたい(ローマのパンテオンも目的も機能もよく分かっていないのに素晴らしい空間が人を惹きつけている)」というテーマで設計された紀尾井清堂は、美術館や博物館といった特定の展示を行う建物ではなく、その時々で用途が変わるという特殊な施設となっている。

目的は多岐に渡る

今回は「奇跡の一本松の根」展というイベント展示を開催している。奇跡の一本松とは、東日本大地震で襲った津波の中でもただ一本だけ残った松の木としてメディアでも取り上げられた木。津波に遭って松原にある他の木が倒れて行く中、ただ一本だけ踏みとどまり続けたその姿は被災者にとっての希望となった。やがて海水により根が腐りいずれ朽ち行くのを待つばかりとなっていたものを、モニュメントして残したいという声が上がり、修復され保存されることになったというもの。

1階は4本の変わった形の柱で支えられたピロティになっており、床や壁も特殊タイルでユニークな仕上がりとなっている。壁には巨大なオブジェが架けられており、これは鉄板を特殊な溶剤で錆びさせたもの。時の経過と共に表情を変えて行くという。今回はこのピロティの中心部にテーマである一本松の根が切り出されて展示されている。トイレはこの階にありウォシュレット式が2基ある。

木の根は異物も付着している

2階へは外の階段を上って移動するという変わった形をしている。コンクリートの建屋とガラスに挟まれた内側の空間は室内のようであり室外のようでもある。そして2階から屋内へ入るとこの建物の真骨頂と相対することに。なんといっても2階から5階までを貫く吹き抜けの建物が特徴的で、天井からは四角に切り取られた9つの窓から光が降り注ぐ。これぞまさに「清堂」という名前にふさわしいと言える。2階のホワイエでは一本松をモニュメント保存するにあたっての経緯を特集した番組が上映されている。

この構造はまさに清堂

3階から上は靴を脱いで見学できる。奇跡の一本松についての展示は2階のホワイエまでで、3階より上の階には展示物はなく建物そのものを味わう、という感覚。目的を持たない建物というコンセプトが珍しいため注目度も高く、その建物の面白さから見学者はみんな撮影モードに入ってしまうという、これからも注目を集めそうな施設。

床もツルツルしている

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