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ヨックモックミュージアム〜紅ミュージアム(東京都港区・表参道駅)

恵比寿から六本木までを結ぶ美術館通り。この周辺にはいくつもの美術館が点在している。山種美術館へ寄った足でそのいくつかを訪れることにするのである。山種美術館を出て美術館通りを青山方面へ。坂道のアップダウンが激しく結構な運動量。途中には常陸宮邸がある。現存する宮家の中で唯一の赤坂御用地以外にある宮邸。もちろん入れない。

・ヨックモック美術館
美術館通りから少し外れた場所にあるヨックモック美術館。所有しているピカソの陶器を中心としたコレクションを展示する目的で最近になって建てられた美術館で、ヨックモック本店とは場所が異なる。

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受付のすぐ横にロッカーがあり使用者には専用コインが渡される。すぐ横にある階段から地下へ潜るように降りて行くと次第に薄暗くなって第一展示室へとたどり着く。全体的に照明は抑えられている。

https://yokumokumuseum.com/66/

階段を降りる途中と、降りきった正面でピカソの生前の映像が出迎えてくれる。陶器作りに精を出した工房の様子。職人が練り上げた粘土壺をひょいと手にとって、思うままに形を変えて行くピカソの様子と、それを不安そうに見ながら次の壺を練り上げている職人の対比が面白い。実際には信頼関係で成り立っていたようだけれど、どう見ても職人が頑張って練り上げた作品を好き勝手にぐにゃぐにゃにしちゃうピカソ、という構図に見えてしまう。
展示品はそんなピカソの手がけた陶器が中心。油彩やエッチングは数点で、その他には往時の写真がある。ゲルニカの変遷を8回ほどに分けた写真映像もある。
地下1階を抜けるとトイレがある。ウォシュレット式なのは言うに及ばず洗面台が水溜めのない最新鋭で興味深い。

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エレベータで2階へ上がると、今度は一転して開放的な明るさの展示室になる。窓からの陽射しはまるでスペインを思わせる。当時の工房や関係者たちによるインタビュー映像があり、陶器づくりの背景を知ることができる。
皿や花瓶、壺などの陶器を粘土の段階でピカソが造形を加え、色彩を施している主に地中海文明の半身半獣の作品がテーマとなっている。タナグラ人形を現代の視点から形取ったデザインも。職人との共同作業をしていたそうで、ピカソ自身が形を変えることもあればピカソの設計図を汲み取って職人が取っ手や脚を付けたりもしていた。
粘土の段階と焼いた後だと色彩が変わる。またひび割れなども発生するので、火入れした後の予想がつきにくい妙が良いという。電気釜ではなくて薪によるものだからこそランダム要素が発生しやすく、それも魅力だったという。
ピカソが工房の一部を独占したお返しとして、職人たちにエディション(複製品)を作ってもらうことを提案する。複製品でも価値がある、というピカソの予想通り、現代でもエディションは民芸品として多く取引されているという。2階の展示室ではそのエディションも多く展示されている。

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館内の撮影は基本的に不可ではあるものの最後に記念撮影コーナーがありピカソが愛用していたチェアーと同型の椅子で写真を撮ることができる。屋外から階段を降りればミュージアムショップとカフェがありヨックモックならではのスイーツも味わえる。それもあってか見学者はほぼ全て女性。男性はアウェイ感が味わえる。

・紅ミュージアム
骨董通りへ出て高樹町方面へと歩をすすめると、口紅の歴史を中心とした展示をしている紅ミュージアムがある。

紅とは紅花から抽出される色素。紅花の花びらには黄色色素と赤色色素が含まれており、紅の原料となる赤色色素はわずか1%しかない。そのため紅は金と同様の高値で紅屋という業者を介して取引されていたという。紅ミュージアムを運営する伊勢半本店は、江戸時代から続く最後の紅屋として今でも紅を扱っている。

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ミュージアムでは当時の紅屋のジオラマや、紅の歴史、当時の民間との関わりなどを主軸におき(魔除けにも使われたという)、江戸時代に流行した化粧道具の実物なども展示していて非常に資料的価値が高い。
化粧道具箱もさることながら当時から化粧ポーチなどもあって、化粧が江戸時代の女性にとって身近なものであったことがうかがい知れる。化粧の仕方に関する手習書も流行したそうで、今でいうメイクアップ術が当時から存在したというのは知らなかった。

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江戸時代の口紅は当然ながら筆に点して口唇に引くタイプで、現代の主流となるリップスティック型になったのは明治後半から大正にかけて。当時の口紅や頬紅の容器の実物を展示してその変遷をたどっている。これもまた当時の斬新なデザインを見ることができる。
内側が漆塗りのようにうっすらと玉虫色に光っている小皿がある。伊勢半本店で取り扱っている(ミュージアムショップで販売もしている)小町紅である。玉虫色の輝きもまた美しいのだけれど、蒸留水(水道水でも可能)を筆に浸して、筆の先端をこの玉虫色の隅に少しあてると、そこから紅が発色する。それを口唇へ引くと口紅となる。
玉虫色が一瞬にして紅色に変化するのは見ていて圧倒的に美しい。1フロアのみでトイレはないが化粧に興味がある人は必見の博物館。
見学者は1組、年配の男女だったが取材撮影をしていた模様。その横で展示室をパシャパシャ撮影してしまって余計な音が入ってしまっていないか、心からすまないと思っている。いやほんとに。

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