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杉野学園衣裳博物館(東京都品川区・目黒駅)

目黒駅から雅叙園の方面へ歩くとあるドレメ通り。ドレスメーカー通りの略であるこの名前の元となっているのが、この両側に複数の校舎が立ち並んでいる杉野学園である。杉野学園衣裳博物館はこのドレメ通りをひたすら直進した奥の方にある印象的な建物。

杉野学園衣裳博物館は杉野学園の創設者である杉野芳子が作った日本で最初の衣裳博物館。日比谷公会堂で日本初の大規模なファッションショーを開催した杉野芳子は大正から昭和の時代にかけてまだオーダーメイドしかなかった洋服の文化にレディメイド(既製服)の製作方法を普及させた人物で、自身もデザイナーとして活動していた。博物館は夫であり建築家の杉野繁一が欧米の建築をベースに設計した建物になっている。

湾曲した階段の美しさたるや

今回は多くの収蔵品の中からその一部を紹介している。3階建ての展示室ではそれぞれの階で全く異なった衣装を展開しているバラエティに富んだ展示内容となっている。
入口すぐにある1階ではアイヌの民族衣装を中心にした展示を行なっている。左右対称の模様を基本としているアットゥシ、鳥の模様を思わせるカパラミプ、一般的な衣裳であるチカルカルペ、チヂリなど、女性たちはいかに均整な模様にできるかで刺繍の腕を競ったという。衣装の他にも耳飾りのニンカリや首飾りのタマサイ、刀を吊るすための帯エムシアッなどの装飾品も展示されている。

中2階ではイースターエッグやウズベキスタン、トルクメニスタン、中国などアジア圏の帽子やブルガリアのテーブルセンター、筥迫という日本古来に使われていた小物入れが紹介されている。1階と中2階は階段でつながっており、実質的にはこの2階分が吹き抜けとなっているため1階の天井が解放感を持つ高さになっているのも特徴的。

2階へ上がると刺繍に特化した展示を行っている。スモッキング、クロスステッチ、チェーンステッチ、サテンステッチ、ドロンワーク、コード刺繍、毛糸刺繍、ビーズ・スパンコール、金属素材を用いた刺繍といった様々な形式の刺繍がある中で、それぞれに古来の伝統的な衣装と杉野芳子が手がけた衣装とを並べて比較展示しているのが興味深い。他にもデザイナーの渡辺雪三郎によるオートクチュールっぽい衣装もある。

3階ではまず実際に学園で使用されていた足踏みミシンの実物展示が一角にある。今のような電動ではなく常に足を動かすものだった。展示室の半分では着物を展示している。平安時代からは女性の五衣、唐衣、裳装束といったものから、男性の束帯装束、弓に胡籙(やなぐい・矢を入れる道具)が紹介されている他、江戸時代に一般的に着られていた刺子半纏や猫頭巾といった衣装がある。
もう半分のスペースでは西洋衣装の展示がされている。デイドレスやティーガウンといった展示品がマネキンに着せられた形で紹介されている。このマネキンとの組み合わせを観るだけでも相当な価値がある。村井次郎という名人による楮製紙マネキンと呼ばれるもので歴史的な価値も高く、これに焦点を合わせた展示会も過去には開催されたという。

トイレは洋式。小用の便器がハンドルを捻って水を出すというスタイルのもので感動。この形のものは久々に見た。塙保己一史料館とか昔ながらの限られた建物にしか残っていない。かつて奥野ビルで使われていたけれどセンサー式に変わってしまったし。また洗面台へのドアーが西部劇に出てくるようなスイングドアーなのも好感が高い。

近隣の旧邸である杉野記念館もいつか入れたらいい

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