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久米美術館(東京都品川区・目黒駅)

目黒駅なのに品川区でお馴染みの目黒駅。久米美術館は目黒駅の目の前にある。よって目黒駅前にありながら品川区である。ちなみに品川駅は港区である。そんなことはどうでもいいけれど、長らく休館していたこちらの美術館が再開されるという話を知って、これは訪れなくてはならない、と意を決して飛び込んだ次第。

歴史家である久米邦武とその長男で画家の久米桂一郎を記念して創設された美術館で、もともとこの一帯を明治期に購入し邸宅としていたその跡地の一角に建てられた久米ビルの中にある。久米ビルの1階エレベータホールには久米邦武の、8階の美術館入り口には久米桂一郎のブロンズ像がある。

父ブロンズ
子ブロンズ

さて、当時は田舎だったといえ目黒の地に後にビルを建てられるほど広い土地を購入できた久米邦武はどんな人物だったかというと、もともと佐賀藩士で勉学の研鑽を経て藩校の教諭になった人物で、明治時代に入ってからは欧米を巡った岩倉使節団の一員として参加している。岩倉具視をはじめ、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文といった重鎮ばかりである。その時の報告書『米欧回覧実記』を編修したことで功績として得た恩賞で目黒の土地を購入したというわけである。なんという先見の明。1フロアの館内の一角でその回覧の記録などを紹介している。なお、館内は撮影できない。

久米邦武の実績だけでは博物館という趣の方が強いけれど、美術館と銘うっているのは長男の久米桂一郎が洋画家だったことによる。久米桂一郎は黒田清輝と同じ時代にいた人物で、黒田と同じように明るい光が印象的な外光派といわれる西洋画を得意としていた。黒田と共に国内での洋画における画壇の指導的な役割を果たしていたという。館内では本人の絵をはじめ、黒田清輝や二人の師匠であるコランの作品もある。

外光派と呼ばれるだけあって、空の描写がとにかく美しい。天候、陽の光の移ろい、雲への光の当たり方などが繊細に描かれており、印象派を彷彿とさせる色遣いに癒される。国内の空と留学で訪れたパリの空の違いなども楽しめるかもしれない。見学者は驚異のゼロ。駅前なのに。ビルの中というのもあって気づいている人が少ないのかもしれない。

入口のポスターが唯一の目印


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