練馬区ふるさと文化館/分室(東京都練馬区・石神井公園駅)
石神井公園の中には2つのミュージアムがある。石神井公園の中には練馬区の歴史・文化を紹介するふるさと文化館、道路を挟んだ隣の松の風文化公園の中にはその分室がある。
ふるさと文化館本館の方では企画展として作家・庄野潤三の特別展が開催されており、昨年で生誕100年となった氏の業績を紹介している。
父親が学長だった縁もあり、帝塚山学院で学ぶうちに多くの文学作品に触れて作家を志した庄野潤三は、当時は梶井基次郎、内田百閒、井伏鱒二といった作家を愛読していたらしい。そのうちに伊東静雄に師事して作品を描くようになった。ちなみにこの頃に童謡「さっちゃん」で知られる阪田寛夫と知り合い生涯の友人となったという。
やがて時代は戦争に巻き込まれ、学生だった庄野潤三も徴兵を受けて出兵のための訓練を行うことになる。やがて出兵先が判明する。人間機雷、というきな臭い名称の軍隊。実際に出撃する直前で終戦となったため実際には戦地へ赴かずに済んだものの、もし戦争が長引いていたらおそらくこの「人間機雷」となっていた。ここが運命の境目だったかもしれない。
戦後に朝日放送で勤務して上京、この練馬区で暮らしていた頃に描いた『プールサイド小景』で芥川賞を受賞して作家活動に専念することに。作家との交流も増え、島尾敏雄、川端康成、吉行淳之介らとの書簡が残っている。
原稿がいくつか紹介されているが字が個性的で読めない。これを活字にした人たちの苦労が窺える。鉛筆での執筆にこだわり同じ種類の鉛筆を短くなるまで使用していた。アメリカ留学や神奈川県への転居を経て家族に恵まれ、孫へ贈るような優しい作風も描いており作品の広がりを感じられる。
何より優しい気持ちになれるのは、最後に展示してあった夫人へのメッセージ。相変わらず一目では読めないが、作品を書き上げると必ず最初に夫人に読んでもらっていたらしい。夫婦愛を感じさせる一幕である。
常設展示は練馬区の歴史について。博物館おなじみの土器などが安定して展示されている。練馬区の代名詞である練馬大根やアニメについて(アニメ制作会社が多くある)、戦後の町並みや部屋の原寸大展示もある。トイレはウォシュレット式。ちなみに1階では武蔵野うどんが食べられる。展示室が2階にあるので、めちゃくちゃ美味しそうな匂いが漂っている。
隣接して、茅葺き屋根の民家である「旧和田家住宅」に入れるようになっている。ボランティアの方が縁側で友人らしき人と日向ぼっこしていて微笑ましい。
道路を挟んだ松の風文化公園にある分室もそれなりの施設。2階建ての1階では常設展示としてゆかりの作家である檀一雄の書斎が再現されている。こちらは無頼派として、太宰治、坂口安吾らと交流を持っていたことで知られる。特にこの2人には振り回されたことが窺い知れる。
他にも練馬区にゆかりのある作家として何人かの紹介をしている。特集として五味康祐の展示を行なっており、芥川賞を受賞した作品の紹介や、占いに傾倒して自分の死期を占った(事実その通りになった)エピソードが紹介されている。また五味の他には山田風太郎、武林無想庵といった作家の原稿や、角野栄子、馬場のぼる、手塚治虫らの作品の一部が読める。
2階ではその五味康祐のオーティオ遺産が展示室として設けられている。自らハンダなど使ってオーディオの修繕もするなど音楽に傾倒したらしく、そのコレクションが展示されており、曜日によっては実際にその音響施設を味わうこともできる。こちらもトイレはウォシュレット式。
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