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小津史料館(東京都中央区・新日本橋駅)

小津史料館という名前から最初にイメージしたのは映画監督の小津安二郎だったのだけれど、この小津史料館はなんと和紙。17世紀から創業350年を超える老舗中の老舗である小津和紙の史料館なのである。中央区が推進しているまちかど展示館の一つとして、創業から続いている本社の地の3階に史料館のスペースを用意して専門家はもとより、一般の見学者も幅広く受け入れている。

専門の職人に幅広く知ってもらうために和紙の展示販売をおこなっている和紙照覧の一角にあるため、一般の見学者にはなかなか抵抗ある場所ではあるものの、館長である松浦さんが快く応対してくれるので、あまり構えずに訪れても問題ない。一つ一つに説明をしてくれるし逆に自由に見させてもくれる。
小津はもともとは松坂の伊勢商人としての活躍から始まっている。当初は和紙ではなく木綿や鰹節など海運に関する事業を取り扱っていたという。松坂は伊勢の地にありながらも紀州和歌山藩の飛地ということで為替においても財をなしており、この頃に藩札を取り扱うため和紙で作るようになったという。和紙は手漉きで行うためその生産量が多くなく、のちに洋紙会社を持つきっかけにもなっているようである。紙というと渋沢栄一の王子製紙がイメージされるが、実際に渋沢栄一とも東京商工会議所つながりで関わりがあったそう(ただ反りは合わなかったらしい)。ちなみに本家は松坂で銀行業を営んでいる。

展示室はシンプルだがかなり詳細

江戸の庶民の中ではかなりの大富豪で莫大な土地を有しており、江戸や明治での富豪番付でも上位に名を連ねている。そのため現在も和紙の他に不動産なども事業としておこなっている。ミュージアム機能は入館料も無料のため実際のところ赤字ではあるものの、創業以来の社会貢献の意を以て行われているのだという。

冒頭に挙げた小津安二郎とも実は関係があり、小津安二郎の生家である小津新七家は、この小津商店でもともと番頭を務めており、本家の当主から愛されて小津を名乗ることになったのだという。分家ではなく別家といって血縁関係はないそうだけれども興味深い記事ではある。
もう一人の著名人としては本居宣長がいる。こちらは本家の出身。家業を継がなかったため先祖の姓である「本居」を名乗ったのだという。史料館の展示品には本居宣長の存在を示す書簡もある。虫食いでボロボロになっているところなどリアルである。

1階にある撮影スポット

トイレはウォシュレット式。実は2階にはこれとは別にギャラリーがあり、時期によってアーティストの作品が展示されている。こちらも儲けよりは社会貢献を重視して引き継がれているそう。1階は商店の他に和紙漉き体験教室なんかも行われている。シンプルになりがちな町の展示館の中でかなり長居できる興味深いミュージアムである。

和紙漉きの体験コーナー


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