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朝倉彫塑館〜ハギソウ〜スカイ・ザ・バスハウス(東京都台東区・日暮里駅)

台風が関東に接近しているという予報が駆け巡る。
しかしえらく変動するここ数週間の気象情報に振り回されっぱなしで痛い目を見てきたので、逆に破れかぶれで出かけることにする。雨の谷根千もいいじゃないか。備えることは備えて、あとは野となれ山となれである。

・朝倉彫塑館

日暮里駅から徒歩5分ほどの場所にある、日本の代表的な彫刻家(彫塑家)朝倉文夫のアトリエ兼邸宅である。朝倉文夫の作品は上野を中心として至る所にあり、気づかず目にしている人も多いかもしれない。

入口は重厚な黒塗りの鉄筋コンクリートでできていてまるで悪の組織のアジトの様相を呈している。こちらのコンクリート造りの方が洋館、そして邸宅の方が和館になっており、その二つがきっちり繋がっているという面白い造り。しかも建設は同時に行なわれているそう。

入るとすぐにアトリエがあり朝倉文夫の作品が展示されている。裸像が多いのだけれど、どの作品もしっかりと肉付きがリアルに表現されていて目を見張る。
かつてミケランジェロが像を作る時にやはり人間の体を丹念に調べ、骨格から筋からを全て作品に昇華したというけれど、朝倉文夫の作品もまるで実物であるかのようなリアリティで迫ってくる。

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弟や娘などをモデルにした裸像があり、家族はだいぶ巻き込まれている感があるが、芸術として後世に残るのであれば本望かもしれない。本人たちはどう思っていたのかは知る由もない。
天井は非常に高く全ての角が半円(アール状)になっている。これは光を取り込み影を作らないためだと言われている。3メートルを超える巨大な塑像を展示することもある。
特徴的なのは床の特定部分に打ち付けてあるビス。実はこの部分は作品の制作時には取り除かれ、地下室から昇降台がせり上がる仕組みになっている。巨大な作品の上部を作る際に通常は櫓などを立てて人間が昇って作るのだけれど、作品自体を地面より下におろせばいい、という逆転の発想から生まれたのだそう。そのために木造家屋が好きな朝倉にとっては不本意ながらもアトリエは鉄筋コンクリートになったという逸話がある。学芸員の方に聞いたので間違いない。

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順路を辿って行くとこれまた天井の高い書斎がある。壁にそのまま作った本棚には本がびっしり。高い箇所の本は脚立を使わないとまず取れない。地震が起きたら大変そう、と思ったら、関東大震災の教訓から本棚を壁と一体化したらしい。
書斎と隣の応接間には猫の塑像がいくつかある。大変に猫好きで10匹くらい飼っていたらしい。なんで芸術家には猫好きが多いのだろうか。
応接間を通ると目の前には池のある中庭がある。この中庭が特徴的で儒教の五常を表した巨石が配されており、ずっと眺めていられるほどの景観の良さ。和室の一室に佇みながらしばらく中庭を眺める。おかげさまで台風には遭遇せず、けれど見物者がゼロという圧倒的に最高の環境である。何しろすれ違う人がスタッフしかいない。これですよ、これ。雨の日の醍醐味ってやつですね。

和館側の玄関を見ることができたり(入退場はできない)、2階に上がれば素心の間(趣味に没頭する部屋)や、やたら大きい円卓や二重に重ねられた(浸食で穴の空いた木の板に他の木の板を重ねた)天井の造形が素晴らしい客室があったりと、見るものを飽きさせない中で注目したのは呼び出しベル。各部屋に呼び出しボタンが備え付けられており、しかもどの部屋から呼ばれたのか書生やお手伝いさんにわかるようランプが点灯する仕様だったという。ファミレスの座席ランプの先取りもいいところである。

ちなみにスタッフはひっきりなしに歩き回っている。なんでかな、と思ったら、どうやら雨漏りなど雨の日にしか分からない要修繕箇所を確認しに回っている様子。そんな表情も見られるのが雨の日は面白いですね。
デメリットとしては屋上庭園が雨の日で見られなかったこと。以前に見たことあるので良いけれど、実は現存する国内で最古の屋上庭園らしいので、気になった方はぜひ。旧アトリエ(現在は事務室)と現アトリエの屋上にはそれぞれ代表的な塑像が備え付けられており、谷根千の町並みを見下ろしている。トイレは二ヶ所ありどちらも男女共用。和館の方には和式トイレと、小便器(かなり小さくて珍しい)がある。洋館(入口横)は巨大な姿見がある。おむつ交換台まである。こちらはウォシュレット式なので使い勝手はこちらに軍配か。雰囲気を味わいたいならぜひ和館で。

・ハギソウ

内装や食器にこだわりまくったダージリンというインド料理のお店で昼食を摂り、谷根千ロケといえばここからスタート、という夕焼けだんだんを降りて次に向かうのはハギソウ。途中にはかき氷で有名なひみつ堂。雨の日にもかかわらず行列を作っているがそれでも空いている模様。来た人はラッキーかも。

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ハギソウは岡倉天心記念公園の向かいにある。取り壊し予定だった木造アパートを改修し、カフェとギャラリーの併設する複合施設として生まれ変わったというハギソウ。通常のカフェと変わらない値段設定なのもありがたい。日によっては展示会も催されており、カフェで一服つきながら気軽にふらっとギャラリーを眺められるというのが魅力的なところ。

カフェとギャラリーは1階にある。この日は展示はなかったもののガレージセールが行われており、なんか板切れとか、なんか古い照明(インテリアに)とかが販売されていた。ギャラリーの隣には子供が遊べるようなスペースが設置されており、親子連れに優しい設計となっている。

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トイレは男女共用と女性用がそれぞれ。ウォシュレット式。2階はハギソウの運営会社が手がける宿泊施設やマッサージに関連するサロンがあったり。コロナ禍で休業となっており残念ながら入ることはできない。手作りでやったんだな、という情熱が伝わってきて、きっと楽しかったんだろうなと感慨深くなるのである。店内の至るところに細かいこだわりというか関係者の想いが添えられている。

・スカイ・ザ・バスハウス

入場予約の時間までホテホテと谷根千を歩き回る。狭い路地に入っては奇妙な店を探すのが醍醐味であるけれど、台風の予報があったからなのか、緊急なんとかの影響なのか閉まっている店が多く残念。その中でも初音通りにある鮫の歯という古書店の雰囲気がとてもよく、ふらりと立ち寄るにはオススメのスポットである。三崎坂にある喫茶ニカイも1階が和室のギャラリーになっている。本やアートが好きなら鮫の歯から程近い寺町美術館も外せないが、開館時間がランダムでやっていなかった。

向かう途中には上野桜木あたり、という古民家を改修した複合施設がある。古民家が多い谷根千エリアを見事に有効活用しており、カフェやビアホールとなって生まれ変わっている。撮影スポットとしても使われている模様。オリーブショップの2階にはレンタルスペースがあり、この日はギャラリーが。 青柳諒という若い作家の作品が印象的でした。

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さてスカイ・ザ・バスハウス。銭湯をリノベーションしたギャラリーで、外観と入口の下駄箱には銭湯だった頃の名残がある。内部の銭湯らしさは天井の高さと照明くらいだろうか。展示会は小牟田悠介による折り紙の展開図をモチーフにした抽象画。雨のせいかこちらも独占状態だった。抽象画でタイトルが添えられていない(シリーズとしてのタイトルはある)ので、鑑賞者によって感じる点が違うというところだろうか。もう少し展示作品があるとよかったかもしれない。スカイ・ザ・バスハウスは過去に名和晃平や宮島達男の企画展も行っており、現代美術に興味がある人にオススメ。楽しめる展覧会に出会えるかもしれない。


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