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森美術館(東京都港区・六本木駅 アナザーエナジー展)

森美術館に来るのは2年ぶりくらいな気がする。今回の展覧会は「アナザーエナジー展」と題し、多様性を重視する動きが広がっている昨今、71歳から105歳まで、50年以上のキャリアを持つ女性作家16人を紹介している。

https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/anotherenergy/

ほぼ知らない作家ばかりだったのだけれど、その中で三島貴美代が紹介されていたので興味を持って足を運ぶ。
一人一人の作家を順番に紹介して行くという形で進む。巨大なインスタレーションやコラージュ・映像、はたまた活動記録など、アーティストたちの表現方法は多岐に及ぶ。一通り見たものの、さすがに16名もいるのでレポートは興味深かったものだけに絞る。

ロビン・ホワイトによる数十メートルに及ぶ絨毯調の絵画。最初は民芸品かと勘違いしたけれどよく見るとおそらく宗教に絡めた民族の凄惨な歴史を民芸品のタッチで描いており目を引く。

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エテル・アドナンの墨で描いたつづら折りの詩もまた面白い。中東レバノン内戦に遭遇した彼女。言葉を絵で表現するという試みをする中でその陰惨な背景も垣間見える。

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アンナ・ボギギアンによるシルクロードの文化をテーマにした巨大なインスタレーションは、天井から吊るされた無数の絹糸とシルクロードを代表する都市で絹糸を生み出すまでの文化がイラストで表現されている。シルクロードが現代に至る異文化交流の礎になったということなのかもしれない。さながら異文化のもとに降り注ぐ絹糸が豊穣の雨のようではないか。しばらくここで見入ってしまう。

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また宮本和子による幾何学的な糸のインスタレーションも面白い。均一に張り巡らされた糸が奇妙な美しい半径を形取り、角度を変えて眺めるたびに目の錯覚で流動性を持つことを利用しているのだろうか。糸というと2年前にここで個展が開かれた塩田千春を想起させるけれど、塩田千春は感情的な動の糸、宮本和子は理知的な静の糸といった模様。

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後半にさしかかると怒涛の作品群が襲ってくる。ここからはやばい。観る人は覚悟が必要です。ミリアム・カーンの性的暴力(犯罪の意味ではなく生殖器と相対して発生する衝動的なインパクト)にはある種の滑稽さと恐ろしさが伝わってくる。ユダヤ人の歴史的背景や移民問題もそこに内包されているのかもしれない。

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ベアトリス・ゴンザレスによる、一見するとオシャレに見えそうな壁紙や壁画デザインでは、出身である南米コロンビアという国が抱えている病気を鋭く抉っている。路上に死体の転がることが日常茶飯事の治安である都市への嘆きと悼みが見る者を立ち止まらせてしまう。

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ボディブローのようにじわじわと打ち込まれたあとはストレートがぶっ飛んでくる。インドのアルピタ・シンによる、吐き気をもよおすほどの刺激的な絵画。国内外における混乱をアールブリュットを彷彿とさせるぐちゃぐちゃの手法で描いている。絵画のあちこちに配置される残酷な描写にひどく傷つけられてしまう。

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そしてふらふらとした状態で横に視線をそらせば最後に控える三島喜美代の作品群が見える。アッパーでノックダウン。その場にへたり込んでしまう。やばい。動悸が。過呼吸。いやこの配置は悪意あります。後半にどれだけ重たいものを持ってくるのか。いや三島さんはテーマが重いわけではないけれどインパクトという意味ではカーン、ゴンザレス、シンに匹敵する作品の持ち主だと思う。直情的な作品群を後半にまとめて持ってきて徹底的に鑑賞者を痛めつけてやろうというキュレーターのサドっぷりが凄まじい。

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三島喜美代のインスタレーションは陶器を使ったもの。各国の新聞紙を形取り、それをぐしゃぐしゃにした形で焼きいてゴミを作る、という「情報をゴミに」した徹底的なアンチテーゼ。よく見るとゴミ箱に詰められた新聞紙は透明なテグスで固定されている。学芸員の方いわく、丁寧に一つ一つを配置している(接着剤などで固定はしていない)模様とのこと。学芸員の方の情熱が強く、なかなか興味深い話が聞けた。
他にもうず高く積まれた雑誌の束による壁(全て陶器)やゴミ箱にグシャグシャに詰め込まれた缶やダンボール(全て陶器)など、鑑賞者とゴミを相対させるという試みはとても面白い。膝がガクガクしてしまった。



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