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薄れた輪郭

過去の恋愛は呪いだ、という言葉を見かけた。何をしていても常に、当時の記憶の断片と彼女の名前は頭の片隅に居座っている。そこに感情は多分存在していなくて、ただ形も匂いもしなくなった抜け殻の記憶が、永遠にゆらゆらと宙を漂い続けているだけ。忘れられないという呪い。
今ではもう殆ど思い出せないほどに遠い過去の記憶なのに、何故かあの時に抱いていた感情の感覚だけが残っている。
日々、年月を重ねるにつれ、あの頃の思い出の輪郭は少しずつ薄れて無くなりつつあるけれど、それでも相変わらず漂い続けている。彷徨い続けている。
と言っても忘れたい訳でも無いけれど、そこに死ぬまで永遠に居続けられると思うと少し恐怖すら覚える。更にこんな事を考えたりしていると、急に当時の事を思い出したりするから結構厄介で。抜け殻の癖にいざ捕まえて中を覗くと意外に中身が残っている。
今これを書きながら、あの日喧嘩をして仲直りした後に、彼女が頬を膨らませて言っていた言葉を思い出した。愛おしい記憶。でもまさかそれが今になって本当に呪いになってしまうなどあの頃の僕は思ってもみなかっただろう。もしかすると彼女は本物の魔女だったのかもしれない。だとしたら、もうそろそろ呪いを解いてくれても良いと思うんだけど、どうだろう。


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